両性具有な祝福者と魔王の息子~幸せへの約束~

琴葉悠

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罪人は裁かれ、そして約束は果たされた

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「ふ、ふざけるな。私は聖王だぞ!! そんな罰を、いやだ、やめろ、やめてくれ!!」
「突き落せ」
 聖王を名乗る愚王は、穴に落とされた。
 触手がひしめく穴に。

 穴の中で一定量土を掘り続けなければ、触手はその罪人を犯して、苗床にする。
 苗床になったらしばらく掘る必要はないが、代わりに触手に犯され続ける。
 また一度苗床になったら寿命以外で死ぬことは許されない。
 苗床になったら想像を絶する快楽と苦痛が与えられるが発狂することも許されなくなる。

「蓋をせよ」
 私は配下に命じ、二度とこの穴が使われないように命じた。

 既に寿命が尽きて救えぬ者達は丁重に弔い、愚者達によっていわれなき罪を背負わされまだ生きてる者は皆救い出した。
 この穴にいるのは正真正銘の罪人だけとなった。

 我が子リアンがそれを望んだからだ。
 性格には我が子リアンが愛する祝福の子ニュクスが。

 どんな罰かはしらないが、どれも最後にしてほしいと願った。

 彼の祝福の子はなんと慈悲深いのだろうか。
 心を病みながらも、数多の愚者すべてを罰することを望まず、それを命じた者だけを罰するとは。

 優しすぎるにもほどがある。




「各国の王、種族の長達への罰は終わり、同じ罰は二度と行われないようにした」
 父は私の傍にいるニュクスにそう告げた。
「そ、そっか……もう、酷い罰は行われないんだな」
「その通り、これが最後だ。他の者への刑罰はどうする?」
「……任せていいですか……? 俺、良く分かんないから……」
「――分かった、私が全て執り行う」
 父はそう言って姿を消した。
 父が居なくなってベッドの上で上半身をよろめかせるニュクスを抱きしめて、私は囁く。
「大丈夫、貴方を傷つける者はもうじきいなくなりますから」
「うん……」
 ニュクスは私の言葉に弱々しく頷いた。

 ニュクスの容態はあまり良くはない。

 それでも、私が傍にいると落ち着いてくれるようだった。
 家族の傍にいるよりも、というのが高慢に思えて嫌な気分になるが、それだけニュクスは私にだけ弱みを見せれるという安心感があるのだと思うとどうしても優越感を抱いてしまう。


 弱みを見せる事が出来なかった君は、私の前で初めて泣いた。
 本当はあの時連れてくるべきだった。
 けれども、それが出来なかった。
 私にはそれだけの力は当時なかった。

 いや、制御できなかったというべきか。

 父譲りの力を制御できない私には、君を傷つけることのないようにするのが精いっぱいだった。

 今は制御ができているから問題はないが。


「リアン……ごめん」
「謝らないでください。ニュクス」
 私はそう言ってニュクスの頬を撫でる。

 肌は土気色になり、目の下にはクマができていた。
 目も何処か死人のようで、生気がない。

 再会したあの日に、ニュクスの心の傷口は安堵から開き、血を噴き出し続けている。
 ならば、私にはその傷を防ぐ義務がある。
 そうなってしまったのには私に責任があるのだから。




 うつらうつらとしていたら俺はいつの間にか眠ってた。
 真っ黒な嫌な感じのする夢。

 様々な武器を持った手が俺に伸びる。
 俺を追う。

『死ね!! お前さえいなければ!!』
『俺達の為に死ね!!』

『『死ね、死ね、死ね!!』』


「やかましい、黙れ」

 耳を塞ぎながら逃げている俺を抱きしめてくれる存在に顔を上げると、リアンがいた。
 リアンが剣をふるうと、それらは消えてなくなった。
 呆然とする俺にリアンは微笑む。

「ニュクス、もう大丈夫です。私が守りますから」

 そう言って俺に口づけをしたー―


 飛び起きると、リアンが安心したような表情をして俺を見ていた。
「ニュクス、途中うなされていましたよ?」
「あ……うん、いつもの夢だったから……でも、今日はリアンが出てくれた」
「私は役に立ちましたか?」
「う、うん……その助けてもらえた……」
「それは良かった……」
 安堵の息をするリアンに俺は少し気まずい表情を浮かべてしまう。
「――どうしたのですか、ニュクス?」
「な、なんでも、ない」
「……嘘をつかないでください、それほど頼りないですか私は?」
「い、いや、そうじゃなくて……」
 俺の嘘はすぐリアンには見抜かれてしまう、ただどういう嘘かは分からないのは良いことなのかどうか分からない。
「き、きいても、ひかない?」
「勿論です」
「……夢の中のリアンが、俺の口に口づけを、した」
 俺が言いづらそうに視線を逸らすと、リアンは何も言ってこなかった。
 ちょっと怖かったけど、リアンの方に視線を戻したら顔が真っ赤になっていた。

――そういえば、口にだけは未だに口づけしてこないもんな――

「す、す、すみません!! ゆ、夢の中でそんなことをしてしまって……!! ま、まだ結婚してないのに……!!」
「え?」
「はい?」
 リアンの言葉に、俺は首を傾げた。
「……俺の事こうやって世話してくれてるから、結婚してるもんだと思ってた……」
「い、いえ!! 結婚してなくても貴方の世話は致しますし、そもそもニュクス、貴方から結婚していいよ、と言う言葉が――」
 俺はリアンが何かちょっと違う態度な理由をここで理解した。
「俺、最初に嬉しいっていったけど」
「!!」
 リアンは更に真っ赤になって硬直する。
「でも、本当にいいの? 俺、男でも女でもないんだけどさ」
「構いません、貴方がどちらであれ、私の愛しい伴侶なのですから……」
「リアン……」
「だから……その……貴方のその唇に……口づけをしても、良い、ですか?」
 戸惑いがちに言うリアンがとても可愛らしくて俺は口元を緩ませてしまった。

「……いいよ」

 答えはずっと前から決まっていた、俺はリアンとずっと一緒に居たかったんだ。
 リアンは真っ赤な顔を喜色に染めて俺の唇に口づけをしてから、俺をより強く大切そうに抱きしめた。

「やった!! ニュクス、貴方と結婚できる!! 貴方と一緒に本当の意味で暮らすことができる!! 客人ではなく、伴侶として!!」
「ようやくか」
「わ」
 王様が入ってきたが、いつも程怖く感じなかった。
 それに表情もいつもの険しい表情から穏やかなものになっている。
「父上、ようやく、ようやく私の願いが叶いました!!」
「分かっておる、はしゃぎすぎるな」
 王様が明らかにはしゃぎすぎてるリアンを軽くたしなめると俺を見てほほ笑む。
「このような我が子だが、よろしく頼む」
「い、いえぇ……こちらこそ」
「では、式を上げましょう!! 衣装はどのような――」
「あ゛――待った待ったー!! 母さんたちにちゃんと言ってからー!!」
 俺は慌てて待ったをかける。

 母さんたちにあれ以来会っていないからちゃんと会わないといけない。
 今ならきっとあっても平気だ。

「ああ、其方の家族なら――」
 王様のマントの後ろからひょこっと四人が顔を出す。
「ニュクス! おめでとう!!」
「ニュクス……!! おめでとう……おめでどう゛……!!」
 母さんはすっかり健康になったのか、顔色がよくなっていた。
 義父さんはむせび泣いている。
「父さんうざい、ニュクス兄。おめでと……ところで何着るんだニュクス兄の場合」
「ニュクスねぇたははなよめいしょうだよ?」
「いや、スカートはニュクス兄になんか……こう、違うんだよなぁ」
「ズボンのもあるらしいわ、どちらにせよ、おめでとうニュクス」
 母さんが俺に近づいて俺の手を握った。

 久しぶりの手の感触に、俺は涙を流した。

「ありがとう……母さん」
「いいのよ」




「ニュクス、式の衣装はどれが良いですか?」
「とりあえず、白はぜってぇヤダ!!」
「何故?」
「聖王庁の連中を思い出す、連中白い服ばっか着てやがったからな……!!」
 すっかり心の病気も治った俺は、さまざまな生地を持つリアンにそう言う。
「そうですかでは……」
「夜の色はどうでしょう? 青く黒い美しい夜の色……夜のとばりの色……」
 見せられた布を見て、俺はそれを綺麗だと思った。
「これがいい」
「有難うございます、次にどのような――」
「ヴェールは妹が被ってと駄々こねたから被るけど、ズボンのがいい」
「分かりました、では職人たちに案を出していただきます、そこから絞っていきましょう」
「うん、ありがとう、リアン」
「いいえ」

 俺がはっきりと言ったあの日から、リアンはこんな調子だ。
 楽しそうにしている。
 そして前以上に俺にべったりとしている。
 二度と離さないと言わんばかりに。


 そして結婚式を挙げるまで――
 三年経過した、いや三年掛かった。
 デザインが良く分からなくてあーだこーだと母さん達も踏まえて何とか絞るのに二ヶ月、実際に服を作るのに三年以上かかったのだ。
 あまりにも、細かすぎて。
 しかも、色んな幸運を呼び込む術を練り込みながら作ったもんだから時間がかかるかかる。
 その間、俺は治療と伴侶教育でてんやわんや。
 主に治療で。


 でも、それも終わり。
 俺は夜色の衣装に身を包み、妹と母さんの作った花冠と夜色のヴェールを被り、リアンの手を握る。
 リアンの服は真っ黒で夜よりも黒い。
 けれども綺麗な刺繍やリボン、飾りがあった。
「ニュクス」
 リアンが俺の手を握る。
「ん」
「幸せになりましょうね」
「うん、なろうな」
 絨毯の上を一緒に手をつないで歩く。


 あの約束は、今果たされた。
 幸せになるための、約束。


 ああ、俺は幸せだよ。
 リアン。
 愛している。







Happy end
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