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母様の家出②
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「今まで、父様が留守の時はあっても、母様が留守って無かったんだ」
ポツリと呟いた僕に、アレンは僕を抱き締めて
「大丈夫、直ぐに帰って来ますよ」
僕を慰めようとそう言ってくれているけど……。
父様と母様が離縁……なんて事になったら、どうしよう。
僕はアレンと結婚したから良いけど、エリザはどうなるのだろうか?
考えれば考える程、不安が胸の中を渦巻く。
『亜蘭』
僕の名前を読んで、両手を広げて抱き留めてくれる母様に会いたい。
「母様のバカ!」
思わず叫んだその時だった。
「随分なお出迎えだな」
母様の声に慌てて振り向いた。
「母様!」
窓から侵入して来た母様の姿を見て叫んだ僕に、母様は口元に人差し指を当てると
「シッ!」
と、小声で僕を制した。
「母様、何処に行っていたのですか?」
「詳しい話は後だ。アレン、お前の血が必要なんだ。少しもらえないか?」
母様はそう言うと、アレンに1枚の紙を手渡した。
「一滴で良い。それに落として欲しい」
何時になく真剣な母様に、アレンは黙って頷くと針で指先を刺して血を一滴落とした。
「アレン、ありがとう」
そう言った瞬間、母様の足元に魔法陣が現れた。
「亜蘭、父様やデーヴィド。エリザを頼む」
母様の言葉に
「待って! 母様、エリザが泣いてるんだ! 帰って来てよ!」
僕の叫びに、母様が悲しそうに小さく笑った。
母様に、何かが起こっているのだろう。
伸ばした手を掴む前に、母様の身体が魔法陣に吸い込まれて行く。
嫌な予感がして、冷たい汗が背中を伝う。
「母様!」
そう叫んだ瞬間
「多朗!」
ドアが荒々しく開き、父様が入って来た。
母様は父様の登場に目を見開くと、手を伸ばした。
「シルヴァ……ごめん」
母様の声に、父様も母様に手を伸ばした。
父様の指先が触れたその瞬間、母様の姿が消えてしまったのだ。
「多朗!」
初めて聞く、父様の悲痛な声だった。
魔法陣が消えると
「エイダン! 多朗の痕跡は?」
父様が叫ぶと、父様の背後から父様の守護竜の紅蓮の炎のような姿をしたエイダンが現れた。
「残念だが、残っていない」
「ディランの気配は?」
父様の言葉に、エイダンが首を横に振った。
「目の前に居たのに……」
父様の目から、一筋の涙が流れて落ちた。
こんな時に不謹慎だとは思ったが、その姿は悲壮感が漂い美しい。
……相手は、父様を弱らせたいのか?
そう考えながら
「父様……これは一体? 母様は、家出じゃないんですか?」
父様に問いかけた。
僕の問に、父様は深い溜め息を吐き出すと
「実は……リアムが攫われたんだ。多朗宛に、リアムを助けたいなら一人で来いと連絡が入ったそうだ」
父様の言葉に、僕とアレンは目を見開いた。
「リアム団長が? いつ? どうやって母様と連絡を?」
分からない事だらけで矢継ぎ早に質問する僕に、父様は目頭に手を当てると
「ちょっと待ってくれ。今は、気持ちの整理が出来ていない」
そう言って、母様と触れた指先を握り締めた。
「父様……」
母様が居ない父様は、こんなにも脆いのだと知った。全身から漂う悲壮感に、これ以上何も言えなくなってしまう。
ポツリと呟いた僕に、アレンは僕を抱き締めて
「大丈夫、直ぐに帰って来ますよ」
僕を慰めようとそう言ってくれているけど……。
父様と母様が離縁……なんて事になったら、どうしよう。
僕はアレンと結婚したから良いけど、エリザはどうなるのだろうか?
考えれば考える程、不安が胸の中を渦巻く。
『亜蘭』
僕の名前を読んで、両手を広げて抱き留めてくれる母様に会いたい。
「母様のバカ!」
思わず叫んだその時だった。
「随分なお出迎えだな」
母様の声に慌てて振り向いた。
「母様!」
窓から侵入して来た母様の姿を見て叫んだ僕に、母様は口元に人差し指を当てると
「シッ!」
と、小声で僕を制した。
「母様、何処に行っていたのですか?」
「詳しい話は後だ。アレン、お前の血が必要なんだ。少しもらえないか?」
母様はそう言うと、アレンに1枚の紙を手渡した。
「一滴で良い。それに落として欲しい」
何時になく真剣な母様に、アレンは黙って頷くと針で指先を刺して血を一滴落とした。
「アレン、ありがとう」
そう言った瞬間、母様の足元に魔法陣が現れた。
「亜蘭、父様やデーヴィド。エリザを頼む」
母様の言葉に
「待って! 母様、エリザが泣いてるんだ! 帰って来てよ!」
僕の叫びに、母様が悲しそうに小さく笑った。
母様に、何かが起こっているのだろう。
伸ばした手を掴む前に、母様の身体が魔法陣に吸い込まれて行く。
嫌な予感がして、冷たい汗が背中を伝う。
「母様!」
そう叫んだ瞬間
「多朗!」
ドアが荒々しく開き、父様が入って来た。
母様は父様の登場に目を見開くと、手を伸ばした。
「シルヴァ……ごめん」
母様の声に、父様も母様に手を伸ばした。
父様の指先が触れたその瞬間、母様の姿が消えてしまったのだ。
「多朗!」
初めて聞く、父様の悲痛な声だった。
魔法陣が消えると
「エイダン! 多朗の痕跡は?」
父様が叫ぶと、父様の背後から父様の守護竜の紅蓮の炎のような姿をしたエイダンが現れた。
「残念だが、残っていない」
「ディランの気配は?」
父様の言葉に、エイダンが首を横に振った。
「目の前に居たのに……」
父様の目から、一筋の涙が流れて落ちた。
こんな時に不謹慎だとは思ったが、その姿は悲壮感が漂い美しい。
……相手は、父様を弱らせたいのか?
そう考えながら
「父様……これは一体? 母様は、家出じゃないんですか?」
父様に問いかけた。
僕の問に、父様は深い溜め息を吐き出すと
「実は……リアムが攫われたんだ。多朗宛に、リアムを助けたいなら一人で来いと連絡が入ったそうだ」
父様の言葉に、僕とアレンは目を見開いた。
「リアム団長が? いつ? どうやって母様と連絡を?」
分からない事だらけで矢継ぎ早に質問する僕に、父様は目頭に手を当てると
「ちょっと待ってくれ。今は、気持ちの整理が出来ていない」
そう言って、母様と触れた指先を握り締めた。
「父様……」
母様が居ない父様は、こんなにも脆いのだと知った。全身から漂う悲壮感に、これ以上何も言えなくなってしまう。
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