モブでヘタレな俺だけど、異世界に召喚されたらキラキラ王子に溺愛されて困ってます。

母様の危機⑧

僕はドサリと音を立てて椅子に腰掛けると
「情報過多で、混乱してる……」
そう呟いた。
するとアレンは僕の身体を後ろから優しく抱き締め
「大丈夫だ。きっと、シルヴァ様がなんとかして下さるはずだ……」
と囁いた。

　この日から、父様は母様と思わしき魔物の面倒をそれはそれは献身的に見ていた。
ババ様達も城に来て、なんとか呪いの解呪を施してはみたが、難しいようだった。
そんな中、父様は以前、ディランがアレンの呪いを解いた時の事を思い出し、母様らしき魔物を連れてサシャおじさんの領地にある龍神の池に移動した。
あの池の水は、アレンを呪詛から解いた聖水の元になっているのを思い出したらしい。
その時、隣国から連れ出した子供達も一緒に連れて、元ルーファスが住んでいた城に子供達を預けに行ったらしい。
あそこは今、ルーファスの奴隷だった人達が、生活困窮者や孤児を預かって面倒を見ているのだ。
(しかし父様の政策により、今は貧困者や孤児が減っていたので、他国から逃げ出した難民達の一時預かりの場所になっているらしい)
　そしてデーヴィドは、まだ母様があの姿になった事が理解出来ないようで、混乱しているようだった。
僕だって、リアム団長のあの言葉が無ければ……、父様の気がふれたとしか思えないだろう。
　13号はあの日、父様の寝室で父様の魔力により、記憶は愚か魔力さえも失ったのだそうだ。
魔女10人以上に相手をさせたのは、魔力過多で相手が暴発するのを防ぐ為だったと後から聞いた。
ババ様の話では、父様の強い魔力を受け止められるのは、母様以外は居ないらしい。
結局、13号は父様の膨大な魔力に当たり、魔力過多により全てを失ったらしい。
それでも、父様の部屋から連れ出された13号は、幸せそうな顔をしていたと後から人伝に聞いた。
実際、父様が13号に触れたのかは解らない。
ただ、13号の憎しみが消えた事により、母様にも変化が起こった。
失った声が戻り、無くなっていた筈の歯が生え始めているらしい。
食べ物が食べられず衰弱していた母様は、毎日、龍神の池の水を飲み、その池の水に浸かるを繰り返した。
そしてゆっくりと……、薄皮を剥ぐように本当にゆっくりと、母様の呪いは解けているんだそうだ。
そして龍神の池に行ってから、母様らしき魔物の傍には、ディランとマテオが寄り添って離れないんだそうだ。
母様を守りたくても、呪詛で母様と一体化は出来ないらしく、せめて傍に居たいと寄り添っているらしい。
しかし、ようやく普通の生活が出来るようになると、母様は姿は醜い魔物の姿で、以前の母様の記憶も無いまま父様に寄り添われるのが辛いと漏らしていると、サシャおじさんから手紙が届いた。
今はエリザとアイシャが側に居て、母様の話し相手になっているらしい。
僕達もそろそろ会いに来いと言われて、アレンとデーヴィドを連れて母様に会いに向かった。
久しぶりに会ったアイシャのお腹は大分大きくて、出産まで間も無い事を思い出した。
「アイシャ、出産が近いのに……負担を掛けるな……」
デーヴィドが久しぶりに会った早々、そう呟くと
「なんて顔色をしているの？　あなたの方が病人みたいよ、デーヴィド」
アイシャはそう優しく言うと、そっとデーヴィドを抱き締めた。
僕にはずっとアレンが傍に居たが、デーヴィドはずっと一人で耐えていたのだと……情けないけど今更気が付いた。