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88話「ヒロヤ、家を買う?」
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「そもそもさ……この村で家買うって、幾らぐらいすんの?」
俺達は新しい居住区画のある、村の南側へと歩いている。
「新しい区画の一般的な二階建ての家で大金貨一枚なんだって」
右側で手を繋ぐカズミがさらっと答える。
「円換算で100万ぐらいか……安いね」
「まぁ田舎だからな。でもアタイ達がみんなで住むとなると、そこそこ大きくなきゃなんないからね」
俺の左腕に絡みつくリズ。
「だね。ヒロヤのお家ほどじゃなくても、私のお家ぐらいの大きさは欲しいかな?」
……カズミさん、それそこそこの屋敷だよ?
「となると……大金貨十枚ぐらいになる?れな達、流石にそこまで貯めてないよね?」
「大金貨六枚ぐらいかな?何かと経費とかで出費してるから」
パーティー内の財政管理はカズミに任せてある。金銭感覚は一番しっかりしてるからね。
「所帯持てばタダになるよな。ヒロヤ、こんなかの誰かと結婚すりゃいいじゃん」
「いや俺この村の住民だから無理」
「あれは『他所から村に永住してくれる若い夫婦』対象なの」
施策のアイデアを出したカズミ直々に否定されるリズ。
「……なら、アタイと結婚すりゃ良いじゃん」
「そっか……どちらか片方でも他所からの人なら……って!」
納得しそうになったカズミがふと我にかえってリズを睨む。
「ヒロヤの将来の奥さんは私なの!」
「デスヨネー」
リズが苦笑いで舌を出す。
「リズ姉ちゃん……そろそろ交代してよ……」
マルティナが俺の左腕をリズから奪い取る。
「えーもうちょっと……」
「だめ!次はあたしの番なんだから」
「……ヒロヤくんの左側は、もう一人の幼馴染のれなの場所なのに……」
……みんなで歩くの考えなきゃな……
◆
「まぁ、大金貨五枚ぐらいのお家ならお手頃なのかな」
カズミとそんな話をしているうちに、居住区画が見えてきた。ポツポツと家が建っていて、まだ建築中の家もかなりある。
「そういや、アレスはもう婚約者呼んだんでしょ?家も貰ったのかな?」
呼んだら紹介するって言ってたくせに、会わせてもらってなかったな……
「アタイは紹介されたぜ?見た目はほんわか美人さんだけど……ありゃかなりアレスを尻に敷いてるね。だらしないアレスにはちょうどいい嫁さんになるよ」
リズはそう言って笑う。
「ここの一番南側の家を貰ったんだって。ほら、この区画より南側って牧場エリアだろ?彼女、そこで働くらしいよ」
「なるほど。もともと遊牧民だから畜産業はなれてるもんな」
納得。
「牧場かぁ。れな達のお馬さん預けるのにちょうど良さそう……」
「だね。私達もその辺がいいかも。今は宿の狭い厩だもんね」
「村の外れだから安いかもよ。狙い目だね」
「その代わり、村の中心までは結構歩かなきゃだね。買い物とかギルドに行くのが大変そうだ」
居住区画の南端まで歩いてきた。流石にまだ数軒しか家は建ってない。人が住んでる気配があるのはそのうちの一軒のみ。
「あ、そこがアレスん家だよ。押しかけてみる?」
「……いや、流石にそれはまた今度にしようよ。突然の来訪は奥さんに迷惑かかるよ……っていうか、もう結婚したの?」
そんな話もまだ聞いてない。──アレスのやつ、俺になんも教えてくれてねぇじゃん。
「アタイの事でヒロヤに迷惑掛けたから、バツが悪いんじゃない?」
「……俺は気にしてないのに……」
水くさいやつだよアレス。
「ヒロヤ!あれ!あの建築中のお家、いい感じじゃない?」
カズミが指差したのはそこからさらに外れた一画。ふむ。カズミの屋敷よりは小さいけど、そこそこ大きめの家が建築中だった。三世帯ぐらいなら余裕で住めそうだ。
「カズミ、父さんに『念話』送れるかな?あの建築中の家、入居予定あるのか聞いて欲しい」
「まかせて!」
◆
「居住区画の南側はまだアレスん家だけなんだって。建築中の家は入居決まってないそうよ。なんでも、この辺りは親兄弟を連れて移住してくる、いわゆる『複数世帯用』のお家を主に建築するそうよ」
「よし。みんな、あのお家はどうだろう?」
「うん。悪くないね」
「れな的には牧場そばなのが嬉しい」
「あたしはみんなと一緒ならなんでもいい」
「お庭も広そうですしいいですね」
みんな概ね賛成のようだ。
「ハンナさんはどう?」
カズミが俺達の後ろで家を眺めているハンナさんに聞く。
「素敵なお家になりそうですね。わたしも楽しくみなさんをお世話できそうです」
「決まりね!じゃあちょっと領主様と交渉しなきゃ!ヒロヤ、一緒に来て。みんなは先に宿に帰ってて」
俺の手を引いてカズミが駆け出した。
◆
「家を買いたい?」
ちょっとびっくりしてる父。そりゃもうじきようやく七歳になる息子とその幼馴染が『家買う』なんて言ったら驚くだろう。
「宿で大きめの部屋を二つとる事を考えると、将来的にもお家買った方が安上がりと判断しました」
カズミがグイグイと押す。
「まぁ、確かにその通りだ。どのみち、移住者は若い冒険者が多いだろうから、お前たちが先輩としてそばで生活してくれるのも……有り難いメリットなのかもしれんしな」
「つきましては、お値段なんですが……」
グイと身を乗り出すカズミに、父さん少々押され気味。
「ヒロヤとカズミちゃんは将来結婚するんだから、ご祝儀の先払いとでも思ってプレゼントすれば?」
メイド長のステラさんからトレイを受け取って、俺達にお茶を手渡してくれる母さん。あーウチの親の頭の中でも、カズミと俺の結婚は既定事項なのね。
「いや、そういう訳にもいかんだろ。あの居住区画は村の予算で建設中なんだ」
「……ケチ」
「そういう問題じゃないだろメグミ……」
「あ、ちゃんとお金は払います」
カズミはきっぱりと言った。
「あら良いのに。大丈夫なの?」
「はい。大金貨三枚までなら問題なくお支払できます。それを越えるようだったら、毎月少しづつ払います」
「……大金貨五枚は下らん物件なんだがな……」
父さんが渋るが、カズミが畳み掛ける。
「立地的には村の中心部からも離れて、かなり不便な場所だと思います。買い出し等で馬や馬車を購入する事も考えてますので、その分割り引いて頂けると……」
「シンジさん、あなたの負けよ。……カズミちゃんの条件でオッケーね」
「しかしだな……」
「そもそも、ヴァンが来るからって今ヒロヤ達が居る部屋を追い出すのはシンジさんでしょ?だからみんな家を買わなきゃなんなくなったんだから」
「……それを言われると痛いね……」
「だからシンジさんの負け。後は工期を繰り上げて、早く完成させてあげる事ね」
父さんを言いくるめた母さんが、俺とカズミにウインクする。
「で、家が完成するまではどうするの?ウチに来る?」
「完成まで二週間以内なら、宿で複数の部屋を借ります。それ以上かかるようなら……少し困りますね……」
もうカズミさんが営業先で交渉する三浦主任にしか見えません。
「わかった。その期間内でなんとかしよう。……しかし、しっかりした嫁だな……」
流石の父さんも呆れ顔である。カズミは俺を振り返りブイサイン。
◆
「という訳で、お引っ越しは二週間後。それまではここで別の部屋借りるけど我慢してね」
宿に戻って、結果をみんなに報告。大金貨三枚で買い付けた事に全員驚いていた。
「流石は『びじねすうーまん』ってやつだなカズミは。アタイにはとても真似できねぇや」
「それまでは部屋別れちゃうんだね……」
リズは感心し、マルティナは寂しそうだ。
「二週間なんてあっという間よ。そもそも、私達はこれからダンジョン攻略という大仕事が待ってるんだから。宿に戻ってくる方が少なくなるわ」
カズミが胸を張る。
「そうね。ハンナさんに留守任せちゃうけど、れな達はこれからが忙しくなるのよね」
「だね。今日明日とゆっくり休んで、明後日はいよいよダンジョン攻略だ」
俺も頑張らなきゃ。
俺達は新しい居住区画のある、村の南側へと歩いている。
「新しい区画の一般的な二階建ての家で大金貨一枚なんだって」
右側で手を繋ぐカズミがさらっと答える。
「円換算で100万ぐらいか……安いね」
「まぁ田舎だからな。でもアタイ達がみんなで住むとなると、そこそこ大きくなきゃなんないからね」
俺の左腕に絡みつくリズ。
「だね。ヒロヤのお家ほどじゃなくても、私のお家ぐらいの大きさは欲しいかな?」
……カズミさん、それそこそこの屋敷だよ?
「となると……大金貨十枚ぐらいになる?れな達、流石にそこまで貯めてないよね?」
「大金貨六枚ぐらいかな?何かと経費とかで出費してるから」
パーティー内の財政管理はカズミに任せてある。金銭感覚は一番しっかりしてるからね。
「所帯持てばタダになるよな。ヒロヤ、こんなかの誰かと結婚すりゃいいじゃん」
「いや俺この村の住民だから無理」
「あれは『他所から村に永住してくれる若い夫婦』対象なの」
施策のアイデアを出したカズミ直々に否定されるリズ。
「……なら、アタイと結婚すりゃ良いじゃん」
「そっか……どちらか片方でも他所からの人なら……って!」
納得しそうになったカズミがふと我にかえってリズを睨む。
「ヒロヤの将来の奥さんは私なの!」
「デスヨネー」
リズが苦笑いで舌を出す。
「リズ姉ちゃん……そろそろ交代してよ……」
マルティナが俺の左腕をリズから奪い取る。
「えーもうちょっと……」
「だめ!次はあたしの番なんだから」
「……ヒロヤくんの左側は、もう一人の幼馴染のれなの場所なのに……」
……みんなで歩くの考えなきゃな……
◆
「まぁ、大金貨五枚ぐらいのお家ならお手頃なのかな」
カズミとそんな話をしているうちに、居住区画が見えてきた。ポツポツと家が建っていて、まだ建築中の家もかなりある。
「そういや、アレスはもう婚約者呼んだんでしょ?家も貰ったのかな?」
呼んだら紹介するって言ってたくせに、会わせてもらってなかったな……
「アタイは紹介されたぜ?見た目はほんわか美人さんだけど……ありゃかなりアレスを尻に敷いてるね。だらしないアレスにはちょうどいい嫁さんになるよ」
リズはそう言って笑う。
「ここの一番南側の家を貰ったんだって。ほら、この区画より南側って牧場エリアだろ?彼女、そこで働くらしいよ」
「なるほど。もともと遊牧民だから畜産業はなれてるもんな」
納得。
「牧場かぁ。れな達のお馬さん預けるのにちょうど良さそう……」
「だね。私達もその辺がいいかも。今は宿の狭い厩だもんね」
「村の外れだから安いかもよ。狙い目だね」
「その代わり、村の中心までは結構歩かなきゃだね。買い物とかギルドに行くのが大変そうだ」
居住区画の南端まで歩いてきた。流石にまだ数軒しか家は建ってない。人が住んでる気配があるのはそのうちの一軒のみ。
「あ、そこがアレスん家だよ。押しかけてみる?」
「……いや、流石にそれはまた今度にしようよ。突然の来訪は奥さんに迷惑かかるよ……っていうか、もう結婚したの?」
そんな話もまだ聞いてない。──アレスのやつ、俺になんも教えてくれてねぇじゃん。
「アタイの事でヒロヤに迷惑掛けたから、バツが悪いんじゃない?」
「……俺は気にしてないのに……」
水くさいやつだよアレス。
「ヒロヤ!あれ!あの建築中のお家、いい感じじゃない?」
カズミが指差したのはそこからさらに外れた一画。ふむ。カズミの屋敷よりは小さいけど、そこそこ大きめの家が建築中だった。三世帯ぐらいなら余裕で住めそうだ。
「カズミ、父さんに『念話』送れるかな?あの建築中の家、入居予定あるのか聞いて欲しい」
「まかせて!」
◆
「居住区画の南側はまだアレスん家だけなんだって。建築中の家は入居決まってないそうよ。なんでも、この辺りは親兄弟を連れて移住してくる、いわゆる『複数世帯用』のお家を主に建築するそうよ」
「よし。みんな、あのお家はどうだろう?」
「うん。悪くないね」
「れな的には牧場そばなのが嬉しい」
「あたしはみんなと一緒ならなんでもいい」
「お庭も広そうですしいいですね」
みんな概ね賛成のようだ。
「ハンナさんはどう?」
カズミが俺達の後ろで家を眺めているハンナさんに聞く。
「素敵なお家になりそうですね。わたしも楽しくみなさんをお世話できそうです」
「決まりね!じゃあちょっと領主様と交渉しなきゃ!ヒロヤ、一緒に来て。みんなは先に宿に帰ってて」
俺の手を引いてカズミが駆け出した。
◆
「家を買いたい?」
ちょっとびっくりしてる父。そりゃもうじきようやく七歳になる息子とその幼馴染が『家買う』なんて言ったら驚くだろう。
「宿で大きめの部屋を二つとる事を考えると、将来的にもお家買った方が安上がりと判断しました」
カズミがグイグイと押す。
「まぁ、確かにその通りだ。どのみち、移住者は若い冒険者が多いだろうから、お前たちが先輩としてそばで生活してくれるのも……有り難いメリットなのかもしれんしな」
「つきましては、お値段なんですが……」
グイと身を乗り出すカズミに、父さん少々押され気味。
「ヒロヤとカズミちゃんは将来結婚するんだから、ご祝儀の先払いとでも思ってプレゼントすれば?」
メイド長のステラさんからトレイを受け取って、俺達にお茶を手渡してくれる母さん。あーウチの親の頭の中でも、カズミと俺の結婚は既定事項なのね。
「いや、そういう訳にもいかんだろ。あの居住区画は村の予算で建設中なんだ」
「……ケチ」
「そういう問題じゃないだろメグミ……」
「あ、ちゃんとお金は払います」
カズミはきっぱりと言った。
「あら良いのに。大丈夫なの?」
「はい。大金貨三枚までなら問題なくお支払できます。それを越えるようだったら、毎月少しづつ払います」
「……大金貨五枚は下らん物件なんだがな……」
父さんが渋るが、カズミが畳み掛ける。
「立地的には村の中心部からも離れて、かなり不便な場所だと思います。買い出し等で馬や馬車を購入する事も考えてますので、その分割り引いて頂けると……」
「シンジさん、あなたの負けよ。……カズミちゃんの条件でオッケーね」
「しかしだな……」
「そもそも、ヴァンが来るからって今ヒロヤ達が居る部屋を追い出すのはシンジさんでしょ?だからみんな家を買わなきゃなんなくなったんだから」
「……それを言われると痛いね……」
「だからシンジさんの負け。後は工期を繰り上げて、早く完成させてあげる事ね」
父さんを言いくるめた母さんが、俺とカズミにウインクする。
「で、家が完成するまではどうするの?ウチに来る?」
「完成まで二週間以内なら、宿で複数の部屋を借ります。それ以上かかるようなら……少し困りますね……」
もうカズミさんが営業先で交渉する三浦主任にしか見えません。
「わかった。その期間内でなんとかしよう。……しかし、しっかりした嫁だな……」
流石の父さんも呆れ顔である。カズミは俺を振り返りブイサイン。
◆
「という訳で、お引っ越しは二週間後。それまではここで別の部屋借りるけど我慢してね」
宿に戻って、結果をみんなに報告。大金貨三枚で買い付けた事に全員驚いていた。
「流石は『びじねすうーまん』ってやつだなカズミは。アタイにはとても真似できねぇや」
「それまでは部屋別れちゃうんだね……」
リズは感心し、マルティナは寂しそうだ。
「二週間なんてあっという間よ。そもそも、私達はこれからダンジョン攻略という大仕事が待ってるんだから。宿に戻ってくる方が少なくなるわ」
カズミが胸を張る。
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