【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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173話「リズとシモーネ」(視点・ヒロヤ→リズ)

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「みんな、準備はできたかい?」
 
 リズの言葉に全員が頷く。
 
 俺はカズミを後ろに乗せてハヤに跨り、リズ、レナ、マルティナ、ドロシー、アスカ、ゴージュもそれぞれの愛馬に跨る。
 アルダ、エルダ、メルダは馬車。それにスーちゃんが同乗、ギーゼの御する馬車にはカリナ姉さん、ノリス、ロッタが同乗する。やはりなかなかの大所帯だ。
 
 雪の降る朝、リズとマルティナを先頭に俺達は小鬼の森を目指して出発した。
 
 雪原地帯を横断して小鬼の森に至るまでおよそ10km。徒歩だと3時間弱ぐらいだけど、馬ならのんびり歩かせても2時間弱といったところか。
 
 村を出て、しばらくすると雪が深くなる。
 ここでアルダ達ドワーフと俺達男手の出番。車輪に『ソリ』を取り付けるのだ。
 
「これだけ雪深いと車輪どころか馬車ごと埋まっちゃうもんね」
 
 この車輪に取り付けるソリのアタッチメント開発者・エルダが荷台から二組のアタッチメントを降ろしてくる。俺とゴージュ、ノリスの三人で一組受け取り、ギーゼとカリナ姉さんの馬車に取り付けをした。
 
「全部任せてしまって申し訳ない……です」
「あ、あ、ありがとうね」
「こういう力仕事はオレ達男衆に任せときゃいいんッスよ」
「……三人しか居ないですけどね」
 
 ゴージュにノリスが的確な突っ込み。
 そう手間をかけることもなくソリと化した馬車が、滑らかに雪原を走り出した。
 
 ◆
 
「森に入ってから1時間も掛からない所だったよね? ゴブリンの棲家になってた巨木のうろって」
「うん。馬だと30分ぐらいで着くんじゃないかな」
「じゃあ向こうに着いたら美味しいお茶淹れるからね。ひと息ついてからダンジョンに潜ろう」
 
 後ろに跨るカズミが、少し力を込めて腰にしがみつく。
 
「カズミ?」
「えへへ♡ あのねヒロヤ」
 
 カズミの吐息が首筋にかかってくすぐったい。
 
「嬉しいんだよ。クランのみんなでこうやって冒険できるのが。パーティーのみんなの事が好きなのはもちろんなんだけど、クランに加わってくれたみんなも……大好きなんだ」
「……新しいメンバーは癖のある連中ばかりだけどね。ノリスとロッタは常識人っぽいけど」
 
 なにせ俺を(女性扱いの)師匠と仰ぐゴージュに、一見クール系女剣士のくせに臆さず性の話をするアスカ、皇女守護第一のギーゼに、いつもおどおどしながらも結構自己主張は激しいカリナ姉さんというメンバーだ。
 
「今は初々しいけど、ヒロヤやゴージュから影響受けちゃいそうな気がするなノリスも」
「それを言うなら、ロッタもウチの女性メンバーから影響受けたらって考えると……ゾッとするね」
「……もうっ!」
「痛っ!」
 
 脇腹つねらないで……!
 
 ◆
 
 小鬼の森に入ってしばらく進むと、先行するマルティナがみんなを制した。
 
「騎馬の一団が向かってくるよ。……おそらく十騎ほど」
「散開!」
 
 リズの合図で、左右に展開する。俺とアスカは、その場で停止したリズとマルティナの左右についた。
 
 ◆
 
「なんや……『輝く絆ファ・ミーリエ』のリズやないか」
 
 前方から現れた四騎の女騎士。……後の六騎程はおそらく辺りに伏せさせたのだろう。
 
「『薔薇の果実ローズヒップ』のシモーネ・シュミットかい。──みんな、大丈夫だ! 下げていいよ!」
 
 どうやらリズの知り合いみたいだ。馬車内と騎乗で構えられた弓、クロスボウが下ろされた。俺もアスカも、左腰の刀に添えた腕を下ろす。
 
「……いい動きやね。産まれたてのよちよちクランやと思ってたけどな」
 
 シモーネと呼ばれた女騎士が軽く手を上げると、後方から残りの六騎が姿を現す。
 
「小鬼の森での『小手調べ』は済んだのかい?」
 
 リズが馬を進めて手を差し出すと、シモーネががっしりと握り返した。
 
「誰?」
 
 俺の後ろのカズミが隣のマルティナに聞いた。
 
「城塞都市ムンドのクラン『薔薇の果実ローズヒップ』だよ。前にロッタとノリスをクランに誘った時にギルドで会ったんだ」
「──聞いた事がある。女ばかりのクランだね」
 
 アスカが馬を寄せてくる。なるほど冒険者か。
 敵意は無いみたいだけど、万が一を考えて俺もハヤを進めてリズの隣についた。
 
「リズ、ちょっとええか? ……聞きたい事あんねんけどな」
「アタイ達も急いでるんだけどね……」
「『新ダンジョン』の調査……やろ?」
「「「!」」」
 
 リズも俺もカズミもちょっと驚いた。……なんで知ってるんだ?
 
「聞きたい事っていうんはその事や。いや、別に情報よこせとかそういう事やないから」
「……仕方ないね。──みんな! ちょっと早いけどここで小休止しよう!」
「ウチらも休憩や! ──ヘレーネ、ちょっと任せたで」
「カズミ、ヒロヤ……ちょっと話してくる。なに、悪いやつじゃないよ」
 
 そう言って、リズとシモーネは馬を降りて少し離れた木の陰へと歩いていった。
 
「みんな、お茶でもしよっか?」
 
 俺とカズミもハヤを降りてみんなの所へ向かった。
 
 ■□■□■□■□
 
 「巨木のうろのところで兵士の一団と……『賢者』ミリア様にうたんや」
 
 木にもたれ掛かってシモーネが目を閉じる。
 
「ダンジョン入り口に、警備施設とか魔物避けとかを張り巡らす作業に掛かってるんやって。そん時に『内緒やで』ってミリア様が教えてくれたんや……」
 
 シモーネが目を開き、アタイを見据える。
 
「あんたらのメンバーが発見したんやって? ウェルニア大迷宮規模のダンジョンやって聞いたけど」
「……まだ憶測なんだけどね。ミリアさんが冒険者時代に、ラツィア山脈で魔瘴気のうねりを感じた事があるらしくってね──」
 
 アタイも向かいの木にもたれ掛かる。
 
「──その付近までダンジョンが続いてるとしたら……って事らしいよ」
 
 アタイの話を聞いて、少し笑みを零すシモーネ。
 そしてポツリポツリと話しだした。『薔薇の果実ローズヒップ』が結成された理由を。
 
 ウェルニア大迷宮に挑む事を目標として結成された事。そして帝国領内で余所者の女が如何に危険であるかという事。その為にクランという規模の集団を『女ばかりで』組んだという事。ラツィア村のS級ダンジョン攻略という箔をつけてウェルニア大迷宮に挑むつもりだった事。等々……
 
「帝国領内はほんまに余所者よそもんの女には危険なんや。いつ奴隷にされるかわからんっていうからな。……でもな、もし新ダンジョンがウェルニア大迷宮クラスの規模やったとしたら──」
 
 シモーネが目を瞑る。
 
「──ウチらの夢が……そんな危険な帝国まで行かんでも叶うんや」
 
 シモーネが浮かべた口元の笑みが、顔全体に拡がる。
 
「だからリズ……リズ・ヴァイスマン。アンタらの調査成功と、早い帰りを願ってる」
「……なるほど。新ダンジョンが開放された暁にはアンタ達の夢が叶うって訳だね。──わかった。頑張って実のある調査をしてくるよ」
 
 そう言ったアタイに、居住まいを正したシモーネが右手を差し出す。
 アタイはその手を力強く握り返した。
 
「予定は?」
「三日ほどの調査を予定してる。進めるだけ進んで帰ってくるよ」
「わかった。期待して待っとくわ」
 
 アタイとシモーネは、肩を並べてみんなの所へと戻った。
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