十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲

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おまけ第2章 星を刻んだ結婚指輪に愛を誓う その4

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そうしてさらに時がすぎ、あっという間に結婚式前日の夜になってしまった。
私は今大きな課題にぶち当たっている。

このタイミングになって、私はまだ理玖の指輪を完成させられていなかったのだ。
とは言っても、私が全部作るわけではなく、結局私にできることはデザイン画を作るだけだったので、後は理玖に形にしてもらってはいた。

デザインのテーマについては、理玖が私のために星空をテーマにしてくれていたので、私も同じテーマで彼の指に合いそうな太めでシンプル、だけどよく見ると細かな細工が施されている指輪にしたくて色々考えた。

理玖に形にしてもらった、ほぼほぼ完成した指輪を理玖の指に試しにはめさせてもらった時は、我ながら1番理玖に似合う形をちゃんとデザインできたな、と自画自賛したくなった。
ちなみに理玖に言わせれば

「お前のデザインは、俺なんかより遥かに人に寄り添った面白いものなんだよ」

と言うことらしいが、それについては私はまだよく分かっていない。

そう。
指輪自体はほぼ完成している。
だが、最後の仕上げが残されていた。
それは、指輪の裏に、何を刻印するか、だ。
これは完全に私に一任されてしまった。
何を刻印するか、と言う内容だけではなく、刻印作業も。

理玖曰く

「1つくらい、俺が知らないサプライズがあった方が嬉しい」

とのことだったが、正直道具を使ったことは1度もないので不安しかない。
そのことを正直に伝えると

「美空は器用だから大丈夫」

と、頭を撫でられながら言われてしまった。
器用かどうかはともかく、せめてこれがまだ日常使いの指輪であったらまだプレッシャーは低い。
でもよりによって、初めての作業がよりにもよって結婚指輪。
プラチナを少し多めに使うデザインになったので、失敗した時に金額が怖すぎる。

「流石に自信がない」

私はそう言うと、理玖はニヤッと何かを企んでる笑みを浮かべた。
嫌な予感がする……と思った時、耳たぶをカプっと噛まれながら

「美空の初めてを、ずっと身につけていたいから」

こんな甘い言葉と

「でも美空が指輪選びを男としたのは、最初は俺じゃないから」

と……こちらは完全に私が悪いのだが……拗ねたような言葉を同時に投げられてしまった。

「ご、ごめんなさい」

私が謝ると

「だから、美空。頑張ろうね」

そう言いながら、理玖は刻印のための道具を私の手に握らせた。

その後、理玖に説明を受けてから、何回か練習用の金属に試し打ちをさせてもらってから、いよいよ本番を迎えた。

まだ、頭の中でどんな文字を打とうかのビジョンすら、もやっとしている状況だった。
ちなみに、理玖が私の指輪にどんな文字を打ち込んだのかはまだ知らない。
参考にしたいから教えて欲しいと言っても

「後でのお楽しみ」

と何度もはぐらかされた。

どうしよう。
自分で言うことではないが、私は理玖ほど言葉で愛情を伝えるのは得意ではない。
だからこう言う時にどんな言葉を伝えればいいのか分からなかった。

愛しているだと安直だろうか?
自分の名前か、理玖の名前だけの方がいいのだろうか?
色々シミュレーションしてみるが、イマイチしっくりこない。

結婚指輪は、余程のことがない限り外すことはないものだ。
男の人は外すことも多いと聞くが、理玖は

「火葬直前で外されるまで絶対身につけたい」

と言ってくれている。
なので私は、どんな言葉を理玖にずっと身につけて欲しいか……と言う発想から言葉を考えることにした。

理玖は、私にとってどんな存在なのか。
私は今、理玖にどんな気持ちを抱いているのか。
そんなことを、自分の心に問いかけてみる。

理玖とは10年前に別れたはずだった。
原因は私。
本来なら、憎まれても仕方がなかった。
でも彼は私を待っていてくれた。
私が気付きやすい、道標と一緒に……。

「そうか……」

ずっと私を想ってくれた人。
そしてこれからずっと一緒にいたい人。
これからは、決して見失いたくない人。
そんな理玖に送りたい言葉が1つだけ見つかった。

「これしかない……」

そして私は、慣れない手つきで、指を怪我しないように、1つ1つ慎重に文字を打ち込み始めた。
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