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オメガバース編
その8.噛み跡は――“ない”。
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(……なんか、急に怖くなってきたかも)
俺は振り返ることなく改札を抜けた。
ぎゅっと胸元を握りしめ、今起こったことを振り返る。
(なんかちょっと……ナンパっぽかった?)
上目遣いとか、思わせぶりな態度とか。
(ま、ナンパされたことないから、分からないけど)
……ちょっとだけ、胸がドキドキした。
なにより、
(……“あなたのオメガ”って、なに?)
……世間は、慢性的なアルファ不足。
(ストーカーされたら、困るし)
――何より俺には、理人がいるし。
一応、ついてきてないか振り返って確認する。
誰もついて来てないことを確認して――
「――スオ」「ひっ……!」
――目の前に、理人がいた。
「びっ………くり、した」
心臓が飛び跳ね、飛び出ないように押さえた。
「……なんでお前がここにいんの?」
理人は学校を休んで、病院に行ったはず。
その帰りか?
「降りそうだったから、迎えに来た」
よく見れば私服で、手には傘を持っている。
「お、おぉ?」
事態が読み込めないまま、俺はそれを受け取った。
「ありがとう。折りたたみ傘、忘れたから助かった」
取っ手に“受けくん”のシールが貼ってある、愛用のビニール傘。
面白がって穂積が貼ったものだ。
「……あれ? お前の分は?」
理人が“やっちゃった……”みたいな顔で。
「……ごめん、スオ。自分の分、忘れちゃったみたい」
「だったらお前がさしていいよ」
俺は瞬時に状況を理解し、理人に傘を押し付ける。
(……可愛いかよ!!)
内心、きゅんきゅんしながら。
……ちょっと、意地悪することにした。
(……さて。どう出る?)
ニヨニヨしながら見ていると。
「……じゃあ……」
しぶしぶ受け取り、しょぼん、みたいな顔をすると、
さっさと出口に向かい始めた。
「……え?」
(やばいっ、やりすぎた?)
「理人? ごめんって、ちょっと待って!!」
俺は焦りながら、急いで背中を追いかけた。
理人が傘を広げて……ゆっくり、振り返る。
「……そこまで言うなら、入れてあげようか?」
(やられた)
勝ち誇った顔で、傘を近づけてくれる。
(……なんか、生き生きしてるし)
昨日の夜は、死にそうだったくせに。
俺は、“アルファ”の余裕を見せる。
「傘持ちしてくれるなら、入ってもいいけど?」
すると理人が、首を傾げた。
俺も釣られて、首を傾げると。
「……なんか、違う」
理人にとっては、なんか違うらしい。
構わず俺は、歩き出そうとした。
「……降ってなくね?」
空を見上げると、まさかの快晴。
「ほんとだ。さっきは降りそうだったんだけど……」
理人が残念そうに傘を閉じた。
俺たちは肩を並べて、マンションに向かって歩き出す。
「そういえばさ。お前、発z…熱は平気なの?」
(あぶねー)
「平気。検査も問題なし」
「……よかったな」
もしかして、発情期、終わった?
どうやら、番になり損ねてしまったらしい。
(仕方ない。次の発情期を待とう)
俺はひとり頷きながら、理人を見つめる。
「昨日の続き、」
「昨日? 続き?」
「……できなかったから」
天才は記憶力が違う。
熱に浮かされていても、性欲が発動したことは覚えているらしい。
(――待てよ? これ、チャンスなんじゃ……)
「する?」
俺は微笑みながら、首を傾げた。
すると理人が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
そして訝しげに、
「……なんか、スオじゃないみたい」
「どういう意味?」
「余裕がある」
(――気づいたか)
エレベーターのボタンを押す。
(まあ、俺、アルファだし?)
お前らオメガとは、余裕も器も違う。
ふんふん~♪ と鼻歌を歌いながら、エレベーターに乗り込んだ。
「……遠くに行っちゃいそうで、不安」
部屋に着くなり、理人がぎゅう……と抱きしめてくる。
(……もしかして、あれか? ヒートが終わったばかりだから……)
ヒートなのに離れていたから、不安にさせただろうか。
よしよし、と抱きしめ返す。
(――ん? “ヒート”、なのに――?)
「って、お前!! 病院行ったんだっけ!?」
俺は、気がついてしまった。
(ひとりで、病院行かせちゃったじゃん……!)
ヒート中のオメガは、アルファに襲われやすい。
そうとは知らず、病院に行かせてしまった。
急いで体をペタペタする。
「無事か!? なんか、痛いトコロとか……!?」
「……? まあ、“穴の奥”がちょっと痛むけど……」
(終わった)
遅かった。“穴”って――
……そうだ、もう一箇所!
「“首”は!?」
「首? 少し痛いけど……」
「見せろ!!」
首を覗き込む。噛み跡は――“ない”。
「……よかった。ごめんな、ひとりにして。次は、俺も一緒に病院行くから」
理人は、今日何度目かになる首を傾げながら、
「……ひとりで大丈夫だと思うけど。スオが来たいなら、好きにすれば?」
(……え、なに? クソムカつくのに、)
なんか急に、可愛く見えてきたんだけど?
――ハッ!!
(“俺の”オメガだからか!)
ひとりで盛り上がっていると。
「……変なの。ほら、行くよ?」
理人が俺を、寝室に連れ込んだ。
俺は振り返ることなく改札を抜けた。
ぎゅっと胸元を握りしめ、今起こったことを振り返る。
(なんかちょっと……ナンパっぽかった?)
上目遣いとか、思わせぶりな態度とか。
(ま、ナンパされたことないから、分からないけど)
……ちょっとだけ、胸がドキドキした。
なにより、
(……“あなたのオメガ”って、なに?)
……世間は、慢性的なアルファ不足。
(ストーカーされたら、困るし)
――何より俺には、理人がいるし。
一応、ついてきてないか振り返って確認する。
誰もついて来てないことを確認して――
「――スオ」「ひっ……!」
――目の前に、理人がいた。
「びっ………くり、した」
心臓が飛び跳ね、飛び出ないように押さえた。
「……なんでお前がここにいんの?」
理人は学校を休んで、病院に行ったはず。
その帰りか?
「降りそうだったから、迎えに来た」
よく見れば私服で、手には傘を持っている。
「お、おぉ?」
事態が読み込めないまま、俺はそれを受け取った。
「ありがとう。折りたたみ傘、忘れたから助かった」
取っ手に“受けくん”のシールが貼ってある、愛用のビニール傘。
面白がって穂積が貼ったものだ。
「……あれ? お前の分は?」
理人が“やっちゃった……”みたいな顔で。
「……ごめん、スオ。自分の分、忘れちゃったみたい」
「だったらお前がさしていいよ」
俺は瞬時に状況を理解し、理人に傘を押し付ける。
(……可愛いかよ!!)
内心、きゅんきゅんしながら。
……ちょっと、意地悪することにした。
(……さて。どう出る?)
ニヨニヨしながら見ていると。
「……じゃあ……」
しぶしぶ受け取り、しょぼん、みたいな顔をすると、
さっさと出口に向かい始めた。
「……え?」
(やばいっ、やりすぎた?)
「理人? ごめんって、ちょっと待って!!」
俺は焦りながら、急いで背中を追いかけた。
理人が傘を広げて……ゆっくり、振り返る。
「……そこまで言うなら、入れてあげようか?」
(やられた)
勝ち誇った顔で、傘を近づけてくれる。
(……なんか、生き生きしてるし)
昨日の夜は、死にそうだったくせに。
俺は、“アルファ”の余裕を見せる。
「傘持ちしてくれるなら、入ってもいいけど?」
すると理人が、首を傾げた。
俺も釣られて、首を傾げると。
「……なんか、違う」
理人にとっては、なんか違うらしい。
構わず俺は、歩き出そうとした。
「……降ってなくね?」
空を見上げると、まさかの快晴。
「ほんとだ。さっきは降りそうだったんだけど……」
理人が残念そうに傘を閉じた。
俺たちは肩を並べて、マンションに向かって歩き出す。
「そういえばさ。お前、発z…熱は平気なの?」
(あぶねー)
「平気。検査も問題なし」
「……よかったな」
もしかして、発情期、終わった?
どうやら、番になり損ねてしまったらしい。
(仕方ない。次の発情期を待とう)
俺はひとり頷きながら、理人を見つめる。
「昨日の続き、」
「昨日? 続き?」
「……できなかったから」
天才は記憶力が違う。
熱に浮かされていても、性欲が発動したことは覚えているらしい。
(――待てよ? これ、チャンスなんじゃ……)
「する?」
俺は微笑みながら、首を傾げた。
すると理人が、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
そして訝しげに、
「……なんか、スオじゃないみたい」
「どういう意味?」
「余裕がある」
(――気づいたか)
エレベーターのボタンを押す。
(まあ、俺、アルファだし?)
お前らオメガとは、余裕も器も違う。
ふんふん~♪ と鼻歌を歌いながら、エレベーターに乗り込んだ。
「……遠くに行っちゃいそうで、不安」
部屋に着くなり、理人がぎゅう……と抱きしめてくる。
(……もしかして、あれか? ヒートが終わったばかりだから……)
ヒートなのに離れていたから、不安にさせただろうか。
よしよし、と抱きしめ返す。
(――ん? “ヒート”、なのに――?)
「って、お前!! 病院行ったんだっけ!?」
俺は、気がついてしまった。
(ひとりで、病院行かせちゃったじゃん……!)
ヒート中のオメガは、アルファに襲われやすい。
そうとは知らず、病院に行かせてしまった。
急いで体をペタペタする。
「無事か!? なんか、痛いトコロとか……!?」
「……? まあ、“穴の奥”がちょっと痛むけど……」
(終わった)
遅かった。“穴”って――
……そうだ、もう一箇所!
「“首”は!?」
「首? 少し痛いけど……」
「見せろ!!」
首を覗き込む。噛み跡は――“ない”。
「……よかった。ごめんな、ひとりにして。次は、俺も一緒に病院行くから」
理人は、今日何度目かになる首を傾げながら、
「……ひとりで大丈夫だと思うけど。スオが来たいなら、好きにすれば?」
(……え、なに? クソムカつくのに、)
なんか急に、可愛く見えてきたんだけど?
――ハッ!!
(“俺の”オメガだからか!)
ひとりで盛り上がっていると。
「……変なの。ほら、行くよ?」
理人が俺を、寝室に連れ込んだ。
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