最悪な記念日に異世界へ飛ばされ、悪魔の血を受け継ぐ王子から溺愛されたんですけど!

沼田桃弥

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第1話:現実も異世界も心の準備が出来ていません!

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 「お疲れ様です!」


 笹本悠人はカルテ入力を済ませると、更衣室まで走り、白衣をそそくさと脱ぎ、ボーダーのTシャツに着替えながら、紙袋に入れておいた黒色のジャケットとパンツの上下セットアップの服を取り出し、着替える。靴はスウェード素材のローファーに履き替えた。


 「やばい、彼に連絡しなきゃ……今、仕事終わったよっと」


 今日は外科医の彼と付き合ってから一年目の記念日。なかなか休みが合わなくて、すれ違う毎日だったが、連絡を取り合ったりして、順調だと思っていた。
 悠人はタクシーを捕まえ、彼が待っているレストランへ向かった。


 「ごめん!お待たせ。急患があって、遅くなっちゃった」


 レストランがある階に着き、レストランの入り口から彼の姿を探し、窓側の席にいるのを発見し、小走りで歩み寄り、席に座った。
 窓側からは都内の夜景が見え、宝石のようにキラキラと輝いていた。訪れる事がなかなか無いため、思わず見惚れてしまった。


 「……はぁ、恥ずかしいから、落ち着けよ」
 「あぁ、ごめん。こういう所ってなかなか来ないからさ」


 いつも味わえないコース料理を堪能し、悠人はとても楽しい気分だった。しかし、彼はずっと無表情で冷たい感じだった。彼はシャンパンを飲み干し、ため息をつき、こう言った。


 「あのさ、俺ら、別れよ」
 「……え、なんで?」
 「悠人以外に好きな奴が出来た。お前といると疲れるんだよ」


 急に彼から別れ話を持ちかけられた事に驚いた。何もこんな記念日に言わなくてもいいのに、と悠人は思った。
 悠人はウェイターを呼び、飲みかけのグラスに水を入れる様に頼んだ。ウェイターが水入りのピッチャーを持って来て、グラスに水を注ごうとした瞬間、悠人はピッチャーをウェイターから無理矢理奪った。


 「――お客様!」


 悠人はピッチャーの蓋を開けて、彼の頭に水をぶっかけた。レストラン内は少し騒然とした。


 「……さようなら」


 着けていたリングを彼に向かって投げ捨て、泣きながら、レストランを出た。
 悠人は泣き顔を他人に見られたくないため、俯きながら、エレベーターフロアに小走りで向かった。ちょうど閉まりかけのエレベーターが来ており、閉まるドアを手で押し開けて、乗り込んだ。エレベーターには誰も乗っておらず、悠人は安心したのか、声を出しながら泣いた。


 「酷いよ、もう嫌だ。今日だって頑張って仕事終わらせて来たのに……」


 袖で涙を拭いていると、エレベーターの到着音がした。扉が開くと、そこは霧がかった暗い階であり、降りてはいけない雰囲気だった。悠人は恐怖感があったが、勝手に足が進み、吸い込まれるようにその階に降りた。数歩歩いた所で、後ろを振り向くと、エレベーターは消えていた。


 「あ、どうしよう。思わず降りちゃったけど……すみません、どなたかいますか?」


 悠人が右往左往していると、目の前が急に光り出し、眩しくて、思わず目を瞑った。
 恐る恐る目を開けると、重厚な金色の扉が目の前にそびえ立っていた。扉の上には異国の文字で『精霊の間』と書いてあった。


 「なんて読むんだろ……せいれいのま? って、なんで読めるんだろう」


 悠人は扉を両手で押し開け、恐る恐る中へ入った。


 「――お邪魔します」
 「あら、いらっしゃーい。待ってたわよ」


 そこにはキラキラと輝き、神々しい人間らしき人が四人居た。


 「えーっと、……もしかして、物語とかで出てくる四大精霊とかじゃないですよね? 違うかもしれないけど、あれは空想だし」
 「あら、四大精霊が分かるなんて、悠人は詳しいのね」
 「――あれ、なんで僕の名前を」
 「悠人とはもっとゆっくり話したいんだけど、時間がないの。貴方には救って欲しい世界があるの。悠人は看護師という素晴らしい職業をされていたみたいだから、四大精霊の力に加えて、光属性魔法と回復魔法を授けるわ。あぁ、もう時間だわ。人間ってせっかちね」
 「ええええ、ちょっと待ってください! 余りにも唐突過ぎますって! これ、あれでしょ? 異世界なんちゃらですよね? 心の準備も出来ていないのに」
 「本当にごめんなさいね。あぁ、後このブレスレットを身に着けて」


 悠人は左手首に温かさを感じたため、ふと見ると、シルバーの細いブレスレットが着けられていた。ブレスレットには四大精霊の水・風・火・地をモチーフとした四つの宝石が埋め込まれており、あともう一つはダイヤモンドのような宝石であった。


 「では、いってらっしゃい。幸運を祈ってるわ」


 ブレスレットに埋め込まれた宝石の輝きを見ていると、徐々に輝きを増し、目を瞑りたくなるような眩しさになっていき、右腕で目を覆った。
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