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第7話:漆黒の真実と純白の嘘
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「私は聖人ではないのです……天使なんです。しかし、地下牢の出来事があり、徐々にこの翼も穢れ始め、今では漆黒の片翼と純白の片翼になってしまいました。漆黒の翼側の目も瞳孔が血の色となり、瞳は禍々しい漆黒に変わりました……怖いでしょ?」
悠人は漆黒の瞳から赤黒い血の涙を流した。アスターと王妃以外は俯き、悠人の姿から目を背けて、黙り込んだ。
「……アスター、もう全部話していいんじゃない? ついでに都合が良いから、エルフィンの事も話しましょ。アスター、私と皆の分のハーブティーを一緒に淹れましょ」
「母上、突然どうしたのですか?」
「まぁ、とりあえず落ち着きましょう。こういう空気、私嫌いなのよね」
アスターは悠人にベッドで休むように伝え、翼を仕舞う様に促す。そして、王妃と一緒にハーブティーを淹れに行く。そして、皆、テーブルの椅子に腰掛け、神妙な面持ちで黙り込んでいた。
「こういう時こそ私達が淹れたハーブティーを飲んで、気を落ち着かせるのよ」
王妃は皆にハーブティーを配ると、全員の顔が視界に入る席に座った。ハーブティーを一口飲み、王妃は話し始めた。
「前王妃がシュライツを生んで、すぐに亡くなったでしょ? あれは国王が殺したのよ。公には産んだ時に亡くなったって事にしているけど……。そして、次の王妃を決めるために舞踏会が開かれ、私が選ばれたの。というより、選ばれる様に仕向けたのだけどね」
皆、顔を見合わせ、ティーカップを持つ手が震えて、皿の上でカチャカチャと音をさせていた。
「そして、私は執事としてアスターを選んで、一緒にこの王宮に招かれたの。でもね、国王は気付いていなかったけど、国王にはすでに子種が望めるような力は無かったの。私は昔からアスターの事を心から愛していたから、隠れて二人で愛を育み、エルフィンを授かったの。国王はあたかも自分の息子だと勘違いしているみたいだけど。この際だから言うわ。貴方の本当の父親はアスターなのよ」
エルフィンはひどく驚き、持っていたティーカップを床に落とした。
「……アスターが私の本当の父親」
「そして、アスターは人間じゃないの、悪魔なの。だから、貴方は悪魔の血を受け継いでいるの。ごめんなさいね、言う機会がなかなか無かったものだから」
「……いや、……そうか」
話を遮る様に、宮廷召喚士グラントが堅く閉ざしていた口を開いた。
「すみません、今までの話と悠人の存在にどのような関係があるのですか?」
王妃は少し黙り、ハーブティーに口を付け、アスターを横目で見て、カップを置いた。
「それはね、天使を召喚し、王宮の皆を殺してもらうためよ」
その場の空気が凍り付き、アスターと王妃以外の皆は血の気が引いた表情をして、王妃を見つめた。
「し、しかし! 召喚の儀では聖女様を召喚するようにと」
「そうよ、確かにそう伝えたわ。でもね、聖人じゃ対抗出来ないの、この汚れきった王宮と王国周辺の瘴気には。だから、召喚の間に描かれた魔法陣に私が細工したの、天使を召喚出来るように。まさか宮廷随一と呼ばれているグラント様が気付かないとはね」
「……くそっ、最初から騙されていたって事か」
「騙すつもりはなかったの、あそこで天使の召喚って言ったら、王宮中が大騒ぎになるから。……ごめんなさいね」
グラントは舌打ちし、握った拳をテーブルに叩きつけた。
「成功したのは嬉しかったわ、やっとこの災いから解放されるのだと。……そう思っていた。玉座の間で国王が悠人様にあんな無礼な発言をして、更にまさかシュライツが名乗りを上げるとは思っていなかった。……悠人様、本当にごめんなさいね、辛かったわよね」
王妃は悠人の方を見て、涙を流し、両手で顔を覆った。その姿を見たアスターは王妃の背中を優しく擦った。
「……あ、いいえ。こうやって助けて下さったので。私は皆さんを殺すような事はしません。これ以上、誰も悲しませたくないです」
悠人は泣いている王妃に微笑みかけた。王妃は悠人の言葉で感極まって、悠人に駆け寄り、抱き締めた。
「とりあえず事が収束するまでは悠人様は私の小屋でお過ごしください。私アスターが魔術を教えましょう。私は悪魔なもので……光属性はあまり得意分野ではないので、宮廷魔導師セレスト様から追々習うと良いでしょう、とても良い先生になってくださいますよ」
「……ちょっと気になっていたが、悠人様が身に着けてらっしゃるブレスレットを見てもよろしいでしょうか?」
「あ、これですか? 良いですよ」
グラントは席を立ち、悠人のブレスレットを目を凝らしながら、眺めた。
「……これはっ! 書物でしか見たことが無いですが、これはアナクレトゥスの輪ですよ。加護を祈られた者しか持てない、大変貴重な装飾品です」
「へー、これで何が出来るんだろ」
「宝石の純度や色、そして、種類によります。この四つの宝石は四大精霊のシンボルカラーですので、四大精霊は間違いなく召喚出来ます。あと、このダイヤモンドは天使で、こちらのヘマタイトは赤い血を意味していて、悪魔です。……これはなんと素晴らしい」
悠人はもう一度ブレスレットを見ると、黒色のヘマタイトの石が埋め込まれているのに気付いた。
「またじっくり見せて下さい。召喚術なら私が教えましょう。……おっと、そろそろ戻らないと怪しまれますね」
「では、宮廷魔導師セレスト様に、宮廷召喚士グラント様。そして、愛する王妃。自室まで転移いたしましょう」
アスターはそう言うと、他者転移魔法であるテレポートオーダーを発動させ、各々の部屋へ転移させた。そして、悠人とエルフィンにお辞儀をし、黙って小屋から出ていった。
悠人は漆黒の瞳から赤黒い血の涙を流した。アスターと王妃以外は俯き、悠人の姿から目を背けて、黙り込んだ。
「……アスター、もう全部話していいんじゃない? ついでに都合が良いから、エルフィンの事も話しましょ。アスター、私と皆の分のハーブティーを一緒に淹れましょ」
「母上、突然どうしたのですか?」
「まぁ、とりあえず落ち着きましょう。こういう空気、私嫌いなのよね」
アスターは悠人にベッドで休むように伝え、翼を仕舞う様に促す。そして、王妃と一緒にハーブティーを淹れに行く。そして、皆、テーブルの椅子に腰掛け、神妙な面持ちで黙り込んでいた。
「こういう時こそ私達が淹れたハーブティーを飲んで、気を落ち着かせるのよ」
王妃は皆にハーブティーを配ると、全員の顔が視界に入る席に座った。ハーブティーを一口飲み、王妃は話し始めた。
「前王妃がシュライツを生んで、すぐに亡くなったでしょ? あれは国王が殺したのよ。公には産んだ時に亡くなったって事にしているけど……。そして、次の王妃を決めるために舞踏会が開かれ、私が選ばれたの。というより、選ばれる様に仕向けたのだけどね」
皆、顔を見合わせ、ティーカップを持つ手が震えて、皿の上でカチャカチャと音をさせていた。
「そして、私は執事としてアスターを選んで、一緒にこの王宮に招かれたの。でもね、国王は気付いていなかったけど、国王にはすでに子種が望めるような力は無かったの。私は昔からアスターの事を心から愛していたから、隠れて二人で愛を育み、エルフィンを授かったの。国王はあたかも自分の息子だと勘違いしているみたいだけど。この際だから言うわ。貴方の本当の父親はアスターなのよ」
エルフィンはひどく驚き、持っていたティーカップを床に落とした。
「……アスターが私の本当の父親」
「そして、アスターは人間じゃないの、悪魔なの。だから、貴方は悪魔の血を受け継いでいるの。ごめんなさいね、言う機会がなかなか無かったものだから」
「……いや、……そうか」
話を遮る様に、宮廷召喚士グラントが堅く閉ざしていた口を開いた。
「すみません、今までの話と悠人の存在にどのような関係があるのですか?」
王妃は少し黙り、ハーブティーに口を付け、アスターを横目で見て、カップを置いた。
「それはね、天使を召喚し、王宮の皆を殺してもらうためよ」
その場の空気が凍り付き、アスターと王妃以外の皆は血の気が引いた表情をして、王妃を見つめた。
「し、しかし! 召喚の儀では聖女様を召喚するようにと」
「そうよ、確かにそう伝えたわ。でもね、聖人じゃ対抗出来ないの、この汚れきった王宮と王国周辺の瘴気には。だから、召喚の間に描かれた魔法陣に私が細工したの、天使を召喚出来るように。まさか宮廷随一と呼ばれているグラント様が気付かないとはね」
「……くそっ、最初から騙されていたって事か」
「騙すつもりはなかったの、あそこで天使の召喚って言ったら、王宮中が大騒ぎになるから。……ごめんなさいね」
グラントは舌打ちし、握った拳をテーブルに叩きつけた。
「成功したのは嬉しかったわ、やっとこの災いから解放されるのだと。……そう思っていた。玉座の間で国王が悠人様にあんな無礼な発言をして、更にまさかシュライツが名乗りを上げるとは思っていなかった。……悠人様、本当にごめんなさいね、辛かったわよね」
王妃は悠人の方を見て、涙を流し、両手で顔を覆った。その姿を見たアスターは王妃の背中を優しく擦った。
「……あ、いいえ。こうやって助けて下さったので。私は皆さんを殺すような事はしません。これ以上、誰も悲しませたくないです」
悠人は泣いている王妃に微笑みかけた。王妃は悠人の言葉で感極まって、悠人に駆け寄り、抱き締めた。
「とりあえず事が収束するまでは悠人様は私の小屋でお過ごしください。私アスターが魔術を教えましょう。私は悪魔なもので……光属性はあまり得意分野ではないので、宮廷魔導師セレスト様から追々習うと良いでしょう、とても良い先生になってくださいますよ」
「……ちょっと気になっていたが、悠人様が身に着けてらっしゃるブレスレットを見てもよろしいでしょうか?」
「あ、これですか? 良いですよ」
グラントは席を立ち、悠人のブレスレットを目を凝らしながら、眺めた。
「……これはっ! 書物でしか見たことが無いですが、これはアナクレトゥスの輪ですよ。加護を祈られた者しか持てない、大変貴重な装飾品です」
「へー、これで何が出来るんだろ」
「宝石の純度や色、そして、種類によります。この四つの宝石は四大精霊のシンボルカラーですので、四大精霊は間違いなく召喚出来ます。あと、このダイヤモンドは天使で、こちらのヘマタイトは赤い血を意味していて、悪魔です。……これはなんと素晴らしい」
悠人はもう一度ブレスレットを見ると、黒色のヘマタイトの石が埋め込まれているのに気付いた。
「またじっくり見せて下さい。召喚術なら私が教えましょう。……おっと、そろそろ戻らないと怪しまれますね」
「では、宮廷魔導師セレスト様に、宮廷召喚士グラント様。そして、愛する王妃。自室まで転移いたしましょう」
アスターはそう言うと、他者転移魔法であるテレポートオーダーを発動させ、各々の部屋へ転移させた。そして、悠人とエルフィンにお辞儀をし、黙って小屋から出ていった。
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