最悪な記念日に異世界へ飛ばされ、悪魔の血を受け継ぐ王子から溺愛されたんですけど!

沼田桃弥

文字の大きさ
19 / 23

第16話:忍び寄る魔の手

しおりを挟む
 ノーム達のお陰で、予定よりも早く、街には素敵な家々が建ち並び、街は人々で賑わい、活気が出てきた。悠人とエルフィンは城下が見渡せるバルコニーで寄り添いながら、そんな穏やかな光景を眺めていた。


 「――だいぶ活気が出てきたね」
 「そうだな。今では近隣諸国との交易も増えてきた。最初はどうなるかと思っていたが、こんなにも素晴らしい国に出来るとは思っていなかった。悠人のお陰だよ、感謝する」
 「僕なんて……何にもしてな……っん!」


 エルフィンは悠人を抱き寄せ、キスをする。


 「なんか変わったよね……最初は怖くて、近寄りがたいイメージだったけど、今は優しくて、……優しくて。ほっ、ほら、メイドさん達もエルが昔に比べて、すごい柔らかくなったって言ってたよ!」
 「それは褒めているのか?」
 「たぶん……いや、絶対! 僕はこの世界に来て、エルと出会って、今こうやって……エルの優しさに触れる事が出来て、幸せ。この世界に来て良かったと思ってるし、後悔してない」


 悠人はエルフィンの両手を取り、向かい合った。そして、潤んだ瞳でエルフィンを見つめた。


 「……あの、その……改めて言うのも恥ずかしいけど、エルの事……愛してるよ」
 「俺もだ……悠人、愛している」


 頬を赤く染め、照れくさそうに俯く悠人の顎に手を当て、エルフィンは優しくキスをした。


 「近々、中央広場で建国記念式をするんだ。お前にも出席して欲しい……嫌か?」
 「そんな事無いよ。皆の笑顔が見れるのなら、是非出席したい!」
 「そうか……良かった」


 建国記念式の日が近付くにつれ、街には華やかな飾りつけがされ、賑わいも徐々に増していった。一方、城内では式典の準備で皆が慌ただしく走り回っていた。悠人はアスターから社交界のマナーを朝から晩まで叩き込まれ、疲労困憊だった。一通りのマナーを学び終わり、やっと解放されたと大喜びするのも束の間、気付いたら、建国記念式当日を迎えていた。


 「はぁ……大丈夫かな。緊張してきた」
 「悠人なら大丈夫だ」


 悠人は新調された純白のローブに、レースがあしらわれた羽織るケープを身に纏った。メイドや兵士達はその美しい姿に終始見とれていた。
 エルフィンは恥ずかしがる悠人の頬に手を添え、耳元で囁いた。


 「悠人……今日も綺麗だぞ」
 「うぅっ、茶化さないでよ……余計に緊張しちゃうじゃん」
 「ほら、行くぞ」


 悠人はエルフィンの差し出した手を取り、壇上へ上がった。広場は多くの人で埋め尽くされ、二人の登場で大きな歓声が上がった。そして、エルフィンが片手を挙げると、広場は一気に静かになった。


 「今日は我が国の建国記念式に来てくれて感謝する。何も無かったこの土地をここまで見事に素晴らしいものに変えてくれた精霊達と国民に感謝する。それと同時に、国民には今まで辛い思いをさせてしまった事を詫びる。しかし、これからはアーベルトビッツ第二王国として、国民達が安心して暮らせるよう、国王の責務を果たす事をここに誓う」


 悠人はエルフィンの真っ直ぐな瞳と凛々しい姿を見て、ドキッとした。
 エルフィンが敬礼をすると、兵士達も敬礼し、広場は再び歓声が上がった。


 「ほら、次は悠人の番だ」


 悠人が頷くと、エルフィンは悠人の背中を優しく押し、一歩前に出た。それを見た国民達は悠人の名前を呼び、手を振ってくれた。間もなくして、広場は再び静まり返った。


 「……。わっ、私はこの国に聖人として召喚されました。でも、私は聖人なんかではありません。私は嘘をつきたくありません」


 そう言うと、悠人は祈りを捧げながら、純白の翼と漆黒の翼を広げた。それを見た国民達は動揺し、騒然とした。


 「えっ、天使?」
 「いや、あの翼はどう見ても悪魔だろ。あの瞳も見てみろよ」
 「どういう事?」
 「皆のもの、静ま……っ!」


 騒然とした広場にエルフィンは大声で静まるように伝えようとしたが、悠人がそれを止めた。


 「いいんだよ、エル。皆、知らないんだから、そりゃ驚くよ」


 悠人は眉間に皺を寄せるエルフィンに優しく微笑みかけた。


 「私は天使と悪魔のハーフです。皆さんがどう思われるかは大体理解しています。……だけど、これだけは伝えたいです! 私はこの国を……この国の人達を……誰よりも愛しています!」
 悠人は透明の涙を流し、震える声で言葉を詰まらせながら、国民達に聞こえるように喋った。少しの沈黙の後、広場からは段々と拍手する音が聞こえ、大歓声が上がった。
 「悠人様! 俺達も愛してるぜ!」
 「悠人様! 私達はどこまでもついていきます!」
 「……うぐっ。皆、ありがとう」


 悠人は溢れる涙を拭きながら、国民達に微笑みかけた。しばらくすると、再び広場が静まり返った。


 「私からも悠人に伝えたい事がある!」


 そう言うと、エルフィンは悠人を向かい合わせになり、ひざまづいた。そして、悠人の手を取ると、真剣な眼差しで悠人を見つめた。


 「――悠人、俺と結婚してくれ」
 「えっ! で、でも……」
 「……俺じゃ嫌か?」


 悠人は顔を真っ赤にし、首を横に振り、否定した。


 「……わ、わ、私で良ければ、喜んで」


 そうすると、エルフィンはポケットから小さな四角い箱を取り出した。そして、ダイヤの指輪を悠人の左手の薬指にはめた。その瞬間、広場は今日一番と言っていい程の歓声が上がり、メイドや兵士達も皆、抱き合って、喜んでいた。


 「悠人、愛している」
 「……うん、僕も」


 建国記念式は無事に終わり、二人は王宮へ戻った。


 「はぁ、……疲れた。あー、ふかふかのベッド気持ち良い」


 悠人は自室へ戻り、そのままベッドへ飛び込んだ。ベッドに頬擦りしていると、突然ドアが開いた。


 「悠人様、大変です! エルフィン様が倒れました!」


 悠人は驚き、ベッドから飛び起きた。


 「えっ! 本当ですか! エルは今どこにいますか!」
 「こちらです。私についてきてください!」


 悠人は血相を変え、その兵士についていった。悠人は息を切らしながら、兵士が案内した部屋へ入った。


 「ここは……物置。兵士さん、エルはどこに……えっ! 何これ!」


 悠人が物置の奥へ進むと、突然、魔法陣が出現し、紫色の触手が飛び出してきて、悠人の体を拘束した。


 「……ははははっ! まんまと引っかかったな」
 「ぐっ! 外れない! ……お前、誰だ!」


 その兵士は必死に抵抗する悠人を嘲笑い、正体を現した。そこには、二本の角を生やし、漆黒のマントを広げた魔王の姿があった。


 「っ! 魔王がなんでこんなところに! 結界が発動しているのに!」
 「あんな結界、俺様にとってはただの布にすぎん」


 魔王は悠人に歩み寄り、髪を引っ張り上げ、悠人の頬を舐めた。


 「さぁ、行こう。俺達の城へ……ふははははっ!」
 「エルッ! ……んぐっ!」


 悠人は助けを求めるように叫んだが、魔王に口を塞がれ、あっという間に魔法陣の中へ魔王とともに消えていった。


 ――バタンッ!
 「悠人ぉ! ……くそっ!」


 エルフィンと兵士達が部屋へ駆け付けた時には、すでに魔法陣が消えた後だった。エルフィンは眉間に皺を寄せ、強く握り締めた拳で壁を殴った。


 「……後を追うぞ!」


 そして、エルフィンは兵を率いて、山の向こうにそびえ立つ魔王城へ向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...