召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
25 / 117
第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>

3-4:ブラッシングから始まる異世界生活?

しおりを挟む
 雫は果物を食べている最中、アレックスはずっと雫の事を見ていた。食事中にこんなにも凝視された事が無いため、雫は気まずかった。何か話題はないか考えたが、まずはここが何処だか知る必要があると思った。


「アレックス、ここは何処なんだ? 俺はちゃんと異世界に来れたのか……」
「主、何言ってる? ここはアーデルハイト王国から少し離れたい場所だ。主は記憶喪失なのか?」
「アーデルハイト王国か……。やっぱり、異世界に来たんだ。来たのはいいけど、本当に希空がいる世界なのか……」
「主、やっぱり、おかしい」
「だから、そもそもアレックスの主の生まれ変わりじゃないって。俺は雫って言うんだ」
「主、違う。でも、主のニオイする。雫は主の生まれ変わり。主が大事にしていた月のネックレスしてる」
「いや、だから……」


 雫が何度も否定するが、アレックスは聞く耳を持たなかった。雫は諦めて、アレックスにアーデルハイト王国の事について質問した。そして、本棚に目を向けると、一冊の手帳に目がいった。雫は立ち上がり、本棚からその手帳を取り出して、適当に読みながら、アレックスの話を聞いた。


「ここはアーデルハイト王国から少し離れた場所だ。高台から見えたのは王都。主は聖女だった。怪我人の治療をしていた。ある日、森で怪我をして、歩けなくなった俺を助けてくれた。優しかった。だから、主と暮らす事にした」
「へぇ、優しい主だったんだな」
「当分の間、主と二人暮らししてた。ある日、聖樹の調査任務の依頼を受けて、主は一人で旅に出た」
「なんでアレックスを置いていったの?」
「アレックス、人狼。人狼は保護区から無断で出る事出来ない。あと、主から家を守って欲しいと言われた」
「なるほど。そんな条約みたいなのがあるのか……」
「主、旅の途中で出会った吟遊詩人と仲良くなった。ここへ帰って来た時には子供がいた。主が幸せそうで、アレックス嬉しかった。でも、国王裏切った」
「えっ、裏切ったって?」
「聖女狩り……。子供産んだ聖女は使い物にならない。家族もろとも処刑する。おかしい言い伝え」
「聖女狩りって、しかも、家族までも巻き込んじゃうの? 幼い子供まで? ……あまりにも残酷過ぎる」


 雫は話の全貌がイマイチ分からないが、魔女狩りに似たようなものだと思った。でも、そんな理由で殺されてしまうこの世界に嫌悪感を示した。聖女は恐らく都合の良いものとしか思われていなくて、立場的には弱いのだろうと思った。
 手帳を読むと、綺麗な字でアレックスを助けた日の事や吟遊詩人との出会い、手放す我が子を思う気持ちなどが書かれていた。


「我が子を神聖セルベン王国へ……? あれ、子供は生きてるの?」
「……主に言われた通り、誰にも見つからないように、隣国に預けてきた。その後は知らない」
「そうなんだ。でも、アレックスも主の家族な訳だから、狙われたりしないの?」
「人狼は絶滅危惧種。殺すのは保護条約違反。世界の決まり」
「そうなんだ……。あ、あのさ。魔法って存在するの? アレックスは魔法使えるの? 俺、魔法とか分からないんだけど」
「主、魔法使える。アレックス、魔法使えない。主は魔法のニオイがする。魔法使えないのか?」
「そもそも魔法なんて使った事無いし、前にいた世界では魔法無かったから……」
「それだったら、主が読んでいた本を読むといい」


 アレックスは立ち上がり、雫の隣へやって来た。そして、本棚から数冊取り出すと、雫へ渡した。どれも分厚く、渡された瞬間、ずっしりとした重みを感じた。これを読むのかと雫は顔を引き攣らせた。


「主、勉強家。主も勉強家」
「ちょ、ちょっと待って。主、主って。どっちの事を言ってるか分からないから、雫って呼んでよ」
「断る。主は主」
「はぁ……」


 雫はアレックスから渡された本をテーブルに置くと、適当に一冊手に取り、本を開いた。難しい言葉が並んでおり、ザ・専門書という感じがしたが、読めなくはなかった。雫はハッとし、ここに来てからの事を思い出す。


「そう言えば、文字や言葉が分かる。なんでだろ? 異世界に召喚された特典的な?」
「主、疲れてる。ベッドで少し休め」
「だ、大丈夫だよ。――って、えっ!」


 雫が遠慮していると、アレックスは雫をひょいと持ち上げ、ベッドへ寝かせた。そして、狼の姿になり、雫の隣に丸まって寝ようとした。それにしても、毛の手入れが出来ていないのか、抜けた毛が雫の鼻をくすぐり、思わずくしゃみが出た。雫のくしゃみでアレックスはビクッと飛び上がるように驚いた。


「は、鼻が痒い……。それにしても、毛の手入れしてないのか? 抜け毛が凄いぞ」
「ぬ、抜け毛! 主、酷い。いつもブラッシングしてくれるのに」
「……それは、俺にブラッシングをしろって事か?」
「っ! 主、ブラッシング!」


 アレックスは雫の隣で尻尾を大きく振りながら、駆け回る。グルグルと回る度に、抜け毛が落ち、ベッド周りは抜けた毛が散乱していた。すっかり喜んでいるアレックスを見て、雫はブラシを取って来るように言おうとしたが、既に口に咥え、雫の元へ持って来ていた。アレックスは今か今かと目を輝かせながら、待っていた。


「分かったよ。やるよ。犬のブラッシングなんてやった事ないんだけどなぁ」
「主、犬じゃない。狼」
「はいはい、分かりました。……じゃ、お手!」
「ワンッ!」
「…………犬じゃん」


 雫はベッドサイドに座ると、膝の上をポンポンと叩き、アレックスに膝の上へ寝るように合図した。アレックスは嬉しそうに寝そべった。とりあえず優しくブラッシングを始めた。


「痛かったりしたら、言えよ」
「主、気持ち良い。もっとやれ」


 雫はアレックスにブラッシングして欲しい場所を聞きながら、アレックスが満足するまで優しくブラッシングした。だいぶ長い間やっていなかったのか、抜ける毛が尋常じゃなかった。次は体も洗ってやらないといけないなと思った。


(俺は異世界に来てまで、なんで犬……いや、狼のブラッシングなんかしてんだ? ま、犬は好きだから、いいけどさ。それよりも、早く希空の手がかりを見つけないと。希空がいなかったら、俺はコイツのブラッシングで余生を過ごすのか……)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...