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第三章:Side Shizuku <友を助けるための決心>
3-9:これぞ、理想のスローライフ!
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川魚の下準備が終わり、外に出てみると、すっかり日が暮れ、辺りは薄暗くなっていた。アレックスは雫に言われた通りに、小枝や薪でピラミッド状に組み上げ、準備をしてくれていた。雫は焚き付け材に手をかざし、焚き火で燃え上がる炎を頭の中でイメージして、魔力を込めた。最初は小さな火だったが、大きめの薪を載せていくと、徐々にバチバチと音を立てながら、程良い火の大きさになった。そして、串に刺した川魚を地面に突き刺し、火が当たるようにした。
「準備してくれて、ありがとう。あと、さっきはごめんね」
「主、気にしない。謝る必要もない」
「そっか…………。それよりも、星が綺麗だね。こんなに星がいっぱいある中で、この世界に来て、アレックスに出会って……僕は幸せ者なのかな。まだそんなに日は経ってないけど」
雫がそう言いながら、満天の星空を見上げていると、反対側に座っていたアレックスが隣に来て、雫の肩に凭れかかった。アレックスのぴょこぴょこと動く耳が頬に当たり、少しくすぐったかった。
「前の主もそんな事言ってた。俺も主に出会えて、嬉しい。同じ気持ち」
「……そっか」
川魚の表面に良い焦げ色が付き、香ばしい香りが漂い、食欲をそそる。魚の串焼きをアレックスに渡し、自分も程良く焼けているものを選んだ。魚にかぶりつくと、表面はパリッとして、中はふっくらしていた。塩味も丁度良く、我ながら、良い出来だ。昔、家族旅行で行った鮎釣りの事を思い出す。この世界に醤油があればなと思う反面、何も言わずにこの世界へ来てしまった事を少し後悔した。
二人は川魚の塩焼きを堪能すると、焚き火を囲み、無言で星空を眺めた。前居た世界では街灯やらではっきりと星が見れなかったし、星をゆっくりと見る事自体無かった。
「アレックス、あの人が言っていたように、ここを離れた方がいいんじゃない?」
「主、アイツ、信用するの? アイツの国、悪い奴いっぱい」
「でも、見た目優しそうだったよ。それに、聖女狩り反対派って言ってたし……。それと、俺には目的がある」
「目的?」
「うん、それはこの世界に召喚された聖女に会う事。もしかしたら、その聖女が俺の大切な友達かもしれないから。まぁ、そんな奇跡じみた事は無いかもしれないけど……」
「主、一人で行けばいい。ここは主とアレックスの思い出の家。そして、今更、里に帰っても誰も歓迎してくれない」
アレックスは串焼きをもう一本食べると、無言で家の中へ入った。その顔は怒っているようにも見えたが、暗くて、はっきりとは見えなかった。雫は干物用の魚を軒先に干すと、火の始末をして、家に入った。家に入ると、アレックスは狼の姿になり、床で丸まって寝ていた。雫は仕方なく一人でお風呂に入った。そして、雫が布団に入った時、アレックスの耳がピクンと動いた。
「……ほら、おいで」
雫が布団を開け、隣に来るように誘った。アレックスは起き上がり、雫の隣にスッと入って来た。布団に入ってきたアレックスをギュッと抱き締めると、小さく尻尾を振っていた。アレックスの体は温かいし、なんだか安心する。本来の目的も果たしたいが、こんな何気ない生活も悪くないなと思いながら、深い眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
あれから数週間経った。窓から朝日が差し込み、寝ている雫の顔をアレックスは鼻先で突いて、強制的に起こす。雫は眠たい目を擦り、台所の棚にある焙煎されたチコリの根が入った瓶を開け、チコリコーヒーを淹れる。コーヒーとはまた違う独特の香りと苦味は目覚めの一杯としては身も心もすっきりとさせてくれる味だ。
午前中は家の前の小さな畑を耕す。以前、植えたトマトやナスはすっかり育ち、光の当たり方では、表面は艶やかで食べ頃だ。ほうれん草に似たチャードも青々として、こっちも食べ頃だろう。
この世界に来た時は心地良い涼しい風が吹いていたが、農作業をするだけで、汗が頬を伝って、輪郭を描くように流れ落ちる。アレックスは夏が苦手なのか、雫にしきりに魔力で水を出すようにせがんだ。ホースから水が出るイメージをして、狼の姿のアレックスに水をかける。アレックスは出された水に目掛けて、大きく口を開け、水圧ですごい変な顔になりながら、ゴクゴクと飲む。
「それにしても、平和だな……。何も気にしなくてもいい。あのウザい上司もいないし、仕事もない。俺はこういう地味な生活がしたかったんだ。自給自足は確かに大変だけど、アレックスがいるし、全然苦じゃない」
「アレックス、主と一緒。楽しい! 水いっぱいくれる」
「あのな、いくらそれなりに魔法が使えるようになったからって、俺を給水ポンプ車みたいな言い方は止めてくれないか」
「主、給水ポンプしゃ! 給水ポンプしゃ!」
あまりにも揶揄ってくるので、雫は水圧を強くして、アレックスの口めがけて、水を放った。アレックスは「ボボボボンブブブブブッ」と言いながら、はしゃいでいた。
畑仕事も一段落し、昼食を食べ終わると、次はアレックスとの昼寝だ。前までは一緒にくっついて、仲良く寝ていたが、最近暑いせいで、いつの間にかアレックスを蹴飛ばして寝ているらしい。アレックスはいつもそれが不服で怒るが、ブラッシングをすれば、すぐ笑顔に戻る。なんと単純な犬……いや、狼なのだろうかと雫は思った。
夕食が終わると、お祈りをする。最初はアレックスが一人でやっていたし、雫はやらなくていいと言われていたが、自然と祈りを捧げるのに参加していた。そして、満天の星空を見て、また一緒のベッドで寝る。毎日が穏やかで幸せで、正直、希空に会う事や聖女狩りの事など、雫の頭からはすっかり抜けていた。
「準備してくれて、ありがとう。あと、さっきはごめんね」
「主、気にしない。謝る必要もない」
「そっか…………。それよりも、星が綺麗だね。こんなに星がいっぱいある中で、この世界に来て、アレックスに出会って……僕は幸せ者なのかな。まだそんなに日は経ってないけど」
雫がそう言いながら、満天の星空を見上げていると、反対側に座っていたアレックスが隣に来て、雫の肩に凭れかかった。アレックスのぴょこぴょこと動く耳が頬に当たり、少しくすぐったかった。
「前の主もそんな事言ってた。俺も主に出会えて、嬉しい。同じ気持ち」
「……そっか」
川魚の表面に良い焦げ色が付き、香ばしい香りが漂い、食欲をそそる。魚の串焼きをアレックスに渡し、自分も程良く焼けているものを選んだ。魚にかぶりつくと、表面はパリッとして、中はふっくらしていた。塩味も丁度良く、我ながら、良い出来だ。昔、家族旅行で行った鮎釣りの事を思い出す。この世界に醤油があればなと思う反面、何も言わずにこの世界へ来てしまった事を少し後悔した。
二人は川魚の塩焼きを堪能すると、焚き火を囲み、無言で星空を眺めた。前居た世界では街灯やらではっきりと星が見れなかったし、星をゆっくりと見る事自体無かった。
「アレックス、あの人が言っていたように、ここを離れた方がいいんじゃない?」
「主、アイツ、信用するの? アイツの国、悪い奴いっぱい」
「でも、見た目優しそうだったよ。それに、聖女狩り反対派って言ってたし……。それと、俺には目的がある」
「目的?」
「うん、それはこの世界に召喚された聖女に会う事。もしかしたら、その聖女が俺の大切な友達かもしれないから。まぁ、そんな奇跡じみた事は無いかもしれないけど……」
「主、一人で行けばいい。ここは主とアレックスの思い出の家。そして、今更、里に帰っても誰も歓迎してくれない」
アレックスは串焼きをもう一本食べると、無言で家の中へ入った。その顔は怒っているようにも見えたが、暗くて、はっきりとは見えなかった。雫は干物用の魚を軒先に干すと、火の始末をして、家に入った。家に入ると、アレックスは狼の姿になり、床で丸まって寝ていた。雫は仕方なく一人でお風呂に入った。そして、雫が布団に入った時、アレックスの耳がピクンと動いた。
「……ほら、おいで」
雫が布団を開け、隣に来るように誘った。アレックスは起き上がり、雫の隣にスッと入って来た。布団に入ってきたアレックスをギュッと抱き締めると、小さく尻尾を振っていた。アレックスの体は温かいし、なんだか安心する。本来の目的も果たしたいが、こんな何気ない生活も悪くないなと思いながら、深い眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
あれから数週間経った。窓から朝日が差し込み、寝ている雫の顔をアレックスは鼻先で突いて、強制的に起こす。雫は眠たい目を擦り、台所の棚にある焙煎されたチコリの根が入った瓶を開け、チコリコーヒーを淹れる。コーヒーとはまた違う独特の香りと苦味は目覚めの一杯としては身も心もすっきりとさせてくれる味だ。
午前中は家の前の小さな畑を耕す。以前、植えたトマトやナスはすっかり育ち、光の当たり方では、表面は艶やかで食べ頃だ。ほうれん草に似たチャードも青々として、こっちも食べ頃だろう。
この世界に来た時は心地良い涼しい風が吹いていたが、農作業をするだけで、汗が頬を伝って、輪郭を描くように流れ落ちる。アレックスは夏が苦手なのか、雫にしきりに魔力で水を出すようにせがんだ。ホースから水が出るイメージをして、狼の姿のアレックスに水をかける。アレックスは出された水に目掛けて、大きく口を開け、水圧ですごい変な顔になりながら、ゴクゴクと飲む。
「それにしても、平和だな……。何も気にしなくてもいい。あのウザい上司もいないし、仕事もない。俺はこういう地味な生活がしたかったんだ。自給自足は確かに大変だけど、アレックスがいるし、全然苦じゃない」
「アレックス、主と一緒。楽しい! 水いっぱいくれる」
「あのな、いくらそれなりに魔法が使えるようになったからって、俺を給水ポンプ車みたいな言い方は止めてくれないか」
「主、給水ポンプしゃ! 給水ポンプしゃ!」
あまりにも揶揄ってくるので、雫は水圧を強くして、アレックスの口めがけて、水を放った。アレックスは「ボボボボンブブブブブッ」と言いながら、はしゃいでいた。
畑仕事も一段落し、昼食を食べ終わると、次はアレックスとの昼寝だ。前までは一緒にくっついて、仲良く寝ていたが、最近暑いせいで、いつの間にかアレックスを蹴飛ばして寝ているらしい。アレックスはいつもそれが不服で怒るが、ブラッシングをすれば、すぐ笑顔に戻る。なんと単純な犬……いや、狼なのだろうかと雫は思った。
夕食が終わると、お祈りをする。最初はアレックスが一人でやっていたし、雫はやらなくていいと言われていたが、自然と祈りを捧げるのに参加していた。そして、満天の星空を見て、また一緒のベッドで寝る。毎日が穏やかで幸せで、正直、希空に会う事や聖女狩りの事など、雫の頭からはすっかり抜けていた。
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