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2巻
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すぐには答えられなかった。
知っているも何も、と心の中でつぶやく。
壱哉が今話した離婚話には、元妻への配慮も愛も感じられる。きっと夫婦関係は解消してしまったけれど、二人の間には強固な信頼関係が築かれているのだろう。
比奈は自分も元妻のように、壱哉の心に何かを残せているのだろうか、と考えた。けれど、何も残せている自信はない。彼にとって自分は、きっと懐かしいだけの過去の恋人。
だから、ここで今、自分の気持ちを言うことはできない。
「その人のこと、信用していいかどうかわからない」
比奈がそう言うと、壱哉は苦笑した。
「そんな相手なら、やめておいたほうがいいと思うけど」
「そう思います?」
「比奈さんが信用できないのならね」
壱哉は、腕時計を見る。ブルーのフェイスの時計は、比奈の見たことのないものだった。以前は黒いフェイスの時計だった。比奈も時間が気になってショップの時計を見ると、午後八時半を回っていた。
「時間、気になります?」
比奈が聞くと、壱哉は「別に」と言った。
けれど壱哉は、普段はあまり時間を気にするような人ではなかった。仕事の途中で抜けだしてきたから、気にしているのかもしれない。
だから比奈から、こう切り出した。
「もう遅いですよね。帰りましょうか」
そう言っておきながら、まだそんなに遅い時間などとは思っていなかった。だけど比奈には、今この場所にいることが、少し息苦しかった。
さっき壱哉は、比奈のことを今でも好きだと言ってくれたけれど、その言葉を思い出しても胸の苦しさは楽にならない。
壱哉は本当に比奈を思っているのだろうかと思う。
もしそうではなかったら、と考えると、怖くて壱哉に思いを伝えることなんてなおさらできない気がした。
「比奈さんは、明日仕事?」
「はい。午前中に準備をして、午後から講義が入ってます」
じゃあ帰ろうか、と壱哉はコーヒーを飲み干した。
「送ろうか」
「……車、ですか?」
「今日はね。会社に置いてあるから、一緒に取りに行こう」
いいえ私は電車で、と言おうとしてやめた。今さら何を意識する必要もない。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
壱哉はそう言って、先に店を出た。比奈もその背を追いかけて外に出ると、もう春だというのに肌寒い。急いで上着をはおった。
「壱哉さん、いつ帰国したんですか?」
「三月二十日」
「……すごい偶然ですね」
三月二十日は比奈の誕生日だ。そして二年半前の二十六歳の誕生日は、壱哉からはじめてプレゼントをもらった日でもある。ハート型のペンダントを贈られたのだ。
だけどその後、壱哉との交際は一年も続かなかった。それだけ浅い関係だったのかもしれない。なのに、比奈の心は壱哉を求めつづけているのだ。惹かれちゃいけない、と思いながらも、壱哉のことを考えずにいられなかった。
「あの日、気がついたら、比奈さんの誕生日だった」
と笑いながら話す壱哉を見上げて、比奈は尋ねた。
「三月二十日、私のことを思い出しました?」
別に本気で言ったつもりはない。だから、もし壱哉が冗談めかして返事をしても、比奈は笑って対応するつもりだった。ところが――
「そうだね。その日がくるたびに、いつも君のことを考えていたよ」
と壱哉は真剣な面持ちで言うのだった。
そこからは互いに話をせずに歩いた。
そして二人は目的地に着く。
比奈は、初めて壱哉の会社のロビーへ足を踏み入れた。思わず声が出そうなほど立派なビルで、外も内もシンプルだけど、とてもお洒落な雰囲気。床は鏡のようにピカピカで、姿が映りそうなほどによく磨かれている。
受付にいた女性が、壱哉に向かって軽く頭を下げる。
「こんな時間なのに」
「彼女ももうすぐ帰るよ。今日はちょっと残業したんだろう」
壱哉と比奈はエレベーターに乗り込み、地下の駐車場へ向かった。ランプが二回点灯する車が目に入った。比奈は促されたけれど、ここへ来て少しためらう気持ちが芽生えた。
運転席に行きかけた壱哉が足を止め、比奈のほうを振り向いた。
「壱哉さん、信用できる人じゃないとダメだって言いましたよね」
「そうだね。じゃないと、僕も心配だ」
「どうして心配なの?」
「君は僕の特別な人だから。変な男につかまってほしくないな」
「特別」という言葉が、胸に響く。けれど何だか余計にもどかしい気持ちになり、苦しかった。
「信用できる人ってどんな人? 教えてくれます?」
「誠実で、比奈さんのことだけを思ってくれる人。君が、心を許せると思った人」
「……そんな人、今のところ、健三以外にいませんよ」
「君は、まだ健三が好きなのか」
「友達として、ですよ」
壱哉はため息をついて、助手席側のドアを開ける。
「乗って、比奈さん」
比奈は黙って従った。壱夜は口では好きだと言っておきながら、それ以上のことは何も言ってくれない。
下を向くと涙が出そうだった。さっきの話の内容と、自分の心が苦しくて。
壱哉が運転席に乗ると、少しだけ車体が揺れる。ドアが閉まり、この話はもう終わりだな、と比奈は思った。だが、壱哉はなおも言う。
「僕は君だけを思っていたわけじゃないと思う。だから、誠実かといえば、そうじゃない。それに、僕は一度は別の人と結婚した身だ」
車のキーを差し込む音、そしてエンジンがかかる音が聞こえた。
「以前、僕とつきあっていた頃も、君はどこか心を許していないようなところがあった。それを思うと、僕は信用できる人物じゃあないね。そうだろう?」
「……」
「君は昔から、僕に好きだと言ったことがない。でも僕は君が好きだ。君がほしい」
比奈は唇を引き締める。そして壱哉の目を見ずに、こう打ち明けた。
「言ったことがなくても、わかってくれてると思ってました。は、はじめてエッチした時だって、どれだけ……もう、いいです。家に帰して」
早く帰りたい。もう、こんな話をしていたくない。そう思ったけれど、ここで何も言わずに離れてしまったら……
「辛い思いをさせて、ごめん」
比奈の頬に壱哉の手が優しく触れた。泣きそうになる。
「好きなんだ。だから、君もそう言って」
「好きなんだ」という言葉が、比奈の先ほどから苦しかった思いを救った。
元妻への包み隠さぬ思いを聞いても、やっぱり好きだという気持ちには変わりなかった。そんなことはどうでもよくて、この人は今、比奈のことをどう思っているのか、それだけが比奈の心を、不安要素として厚く覆っていた。
好きだと言う言葉を聞いた途端、比奈の心は浮上した。
たった、それだけで。これだけで。
比奈は壱哉の身体をシートに押しつけるようにして彼に抱きついた。
「……好きです。好きなんです、ずっと好きだった」
好き、好き、と比奈はうわごとのように繰り返した。壱哉は比奈の背に手をまわして、きつく抱きしめる。
「なんだか、本当に……君との恋愛は苦労する。……顔を上げて」
壱哉にそう言われて顔を上げる。首に壱哉の大きな手を感じていたら、彼のもう一方の手は比奈の腰を抱いた。
ゆっくりと唇が近づいてきて、壱哉が比奈の頬に軽くキスをする。
そして互いの唇が重なって、濡れた音が聞こえた。久しぶりのキスだった。
「ん……っ、壱哉さん……っ」
壱哉のキスは啄ばむようなものから、唇を深く合わせるものに変わっていく。
比奈も優しい舌の動きに応えながら、壱哉を抱きしめる手に力を込める。
「やばいな」
唇を離して壱哉がつぶやいた。そして苦笑しながら比奈を見る。
「これ以上すると、したくなる」
「私、と?」
壱哉は比奈の腕に触れる。二の腕から肘にかけてゆっくりと触れてゆき、にこりと笑った。
「……想像しているだけよりも、現実は、もっといい」
だけどこんなこと言う男は最低だ、と壱哉は言い、比奈の腕から手を離す。
比奈も壱哉の首から手を離す。
「私も前に他の男の人とキスしました」
「……誰と?」
「知らない人。いきなりされて、とても嫌だった。目蓋にも触られて……」
壱哉はその言葉にため息をつき、そして比奈の頬に触れる。
キスはもちろん、目蓋に触れられるのはとても不快だった。
壱哉しか触れたことがない、壱哉にしかされたくないことだったのに。
比奈の恋愛の基準は、いつも壱哉だ。
今、こうして抱きしめられているように、誰かの腕の中にいるとしたら、壱哉しか嫌だった。
キスも、目蓋に触れるのも、それ以上のことも。
「キスとセックスは違う。でも、その男、許せないな」
「私にとっては同じこと。泣きながら帰った」
比奈はそう言って、壱哉の肩に額を預けた。
「君は可愛いんだから気をつけないと。何かされてからじゃ遅いだろう」
呆れるように言ったその声を聞いて、比奈はまじまじと壱哉を見る。
「壱哉さんは、そういうつもりはまったくなかったんですか? 二日前も?」
比奈に好きだと言っておきながら、そういうつもりはなかったのだろうか。
「まったくなかったとは言えない」
「……私、可愛くないこと言いましたよね」
比奈が目を伏せると、その顎を持ち上げられる。そして少し荒っぽいキスをされて、きつく抱きしめられた。
狭い車内でもつれあい、比奈は心も身体も熱くなる。
「君を持ち帰るよ。いい?」
比奈は何も言わなかった。うなずきもしなかったけれど、壱哉はそれを肯定と受け取ったようだ。
壱哉はシートベルトをして車を発進させる前に、もう一度比奈の唇に食むようなキスをした。
明日は仕事だとか、そういうことはどうでもよくなっていた。
今、この人と一緒にいたい。ただそれだけだった。
2
壱哉は帰国以来、トレジャーホテルのスイートルームに長期滞在している。こんなに広い部屋は必要ない、と思っていたが、住んでみるとやはり快適そのものだった。
壱哉は財布の中からカードキーを取り出した。
「部屋は20001号室。比奈さん、先に行って。フロアには二つしか扉がないから、すぐにわかるよ」
「……壱哉さんは?」
「車を停めてから行く。先にあがって待っていて」
ホテルの地下のエレベーター前で別れる。すぐに来たエレベーターに乗る比奈を見送ってから、壱哉は車に戻った。
携帯電話のボタンをプッシュする。三度のコールで相手が出て、お疲れ様です、と言った。壱哉の秘書の春海だ。
「明日アメリカへ行く便を午後からのものに変更してほしい」
『ええ、構いませんが、どうかしました? 早く行って面倒な仕事を片づける、とおっしゃったのは篠原さんじゃないですか』
「急用ができた」
『わかりました。では、明日』
壱哉は、用件だけを手短に話し、電話を切った。
「さて、どうするかな……ホテルの前にコンビニがあるな」
エマと別れた時、これでしばらくは女性には縁がないだろうと思い、避妊具はすべて捨ててしまった。比奈と会ってもそういうことにはならない、と決めていたのだが。
あの日偶然、トレジャーホテルで比奈に再会した。比奈を見てしまったら、彼女を手に入れたくて、欲しくてたまらなくなった。何とかしてもう一度会えないかと、そればかりを考えていた。
「ここで迷っていてもしょうがない」
壱哉は車を降り、エレベーターで一階まで上がって、ホテルの外に出た。ホテルのすぐ前にあるコンビニに入り、迷わず目的のものを購入する。
それからホテルに戻ってフロントに立ち寄った。
「お帰りなさいませ、篠原様。お手紙をお預かりしております」
壱哉は手紙の束を受取り、マネージャーに言った。
「会社にカードキーを忘れてきてしまった。申し訳ないが、スペアを貸してもらえないだろうか」
「かしこまりました」
マネージャーは、スペアキーをフロントカウンターの下から取り出した。
「どうぞ、こちらをお使いください」
「ありがとう」
壱哉はうなずいた。すぐにエレベーターが来て、素早くそれに乗り込んだ、ほかに誰も乗ってこない。早く比奈の下へ行けと言わんばかりに、すべてがスムーズに進んだ。
ただしそれも、本当に比奈がいれば、の話だ。
「君を持ち帰る」と壱哉は言った。しかし、最後の決定は比奈に任せた。比奈が壱哉のことを思っているなら、きっと待っているはずだ。けれど、比奈の保守的な性格を考えれば、部屋へは行かずに帰ってしまう可能性もあった。
カードキーでドアを開けると、比奈は確かにそこに立っていた。
ちょっと驚く。
「ちゃんと待っていてくれたんだ?」
壱哉に抱かれるために、比奈が壱哉の部屋にいる。これがどういうことか、と考えた。比奈は壱哉に抱かれていいと思ったからここにいるのだ。
ただそれだけのことなのに、二年半ぶりだからか、緊張と嬉しさとが込み上げてくる。
「え?」
首を傾げた比奈に、壱哉は笑顔を向けた。
「もしかすると、待っていてくれないかもしれないと思った」
比奈が顔を伏せる。
やっぱり帰る、と言われるのが怖かった。部屋の照明を消すと、窓の外のネオンが、スイートルームの豪奢な白壁に反射した。
壱哉は比奈に近づいて身体を引き寄せる。そして唇を重ねていく。
唇を啄み、何度も吸い上げた。比奈の唇の感触をこんなに感じたのは久しぶりで、いつの間にか抱き締める手にも力がこもっていた。
「……っ」
壱哉を高ぶらせる感触。この細さ、この柔らかさ。強く抱きしめていることで、比奈の胸の感触が身体に伝わる。
全身で比奈を感じる。まったく男ってやつはしょうがない、と我ながら思ってしまうほど、壱哉の身体は正直に反応していた。
比奈が少し苦しそうに壱哉の胸元に手を置いた後、ジャケットの襟を強く握ったので、唇を離してやる。その代わりに、比奈の白く細い首から顎へ、唇で辿っていく。比奈のジャケットを脱がせ、ブラウス越しに柔らかい胸に触れる。
「は……っん」
久しぶりに聞く甘い声を、比奈は出すまいとして手で唇を覆ってこらえていた。壱哉は比奈の甘い声をもっと聞きたくて、比奈の手を取ってそこへキスをする。それからまた唇を啄み、浅いキスを繰り返し、開いた唇の隙間から舌を差し入れる。
細い身体をすぐ近くの壁に押し付けて、胸に触れた後ブラウスの下に手を入れ、背に手を回してブラジャーのホックを外す。背中を優しく撫でてから、直に比奈の胸に触れた。
さらにキスを続けながら、胸を揉み上げる。二年以上の時を経て直接感じる、温かい肌の感触と乳房の柔らかさに、壱哉の口からは知らず小さなため息が零れた。柔らかい感触が壱哉の心も身体も興奮させる。
しかし、しばらくすると胸を揉む手を比奈が掴んで止めた。
「ここじゃ、嫌です」
「久しぶりに聞いたよ、そのセリフ」
つきあっていた当時、ベッド以外でしようとすると、比奈は嫌がった。変わらないセリフに苦笑する。
比奈は壱哉の愛撫の手を止めようとするが、構わず優しく揉み続けた。
「いつも、ベッド以外だとそう言っていたね」
言いながら柔らかい乳房を揉み上げると、比奈は熱い息を吐いた。もう一方の乳房も同じようにすると、比奈は壱哉の手を掴んで抵抗したが、その力は弱々しかった。
「あ、ん……っ」
壱哉は比奈の耳に唇を寄せて、言った。
「ベッドへ行く?」
「……さ、っきから、ここじゃ嫌、って……っ」
壱哉は愛撫の手を止めない。比奈が腕の中にいると思うと、身体に触れずにいられない。
大腿を彷徨っていた壱哉の手が、比奈のショーツにかかる。比奈は少し抵抗したが、壱哉は手を止めなかった。我慢できず、比奈のショーツを下げ、行為を進めようとした。
「い、ちやさん。お願い……っん」
比奈に懇願している比奈を見て、壱哉は観念した。そのまま比奈の身体をお姫様抱っこする。相変わらず軽い身体だ。
ベッドの上で優しくしようとしても、今夜は無理かもしれない。
壱哉は、比奈をベッドへと連れて行った。
「君がほしい」
そうささやいたが、比奈にその言葉はすでに聞こえていない様子だった。すでにぐったりしており、壱哉からされるがままだった。
けれど、それでもいい。ほしいと言ったのは素直な気持ちで、もう一秒だって待てそうにない。
比奈の身体をまたいで膝立ちになり、壱哉は服を脱ぎながらコンビニで買った箱を枕元に放った。手を伸ばした比奈は、それが何であるのか感触だけで分かった様子だ。
「いち、やさん、これ、いつ買った、の? 持ってた、の?」
「まさか、さっき買ったんだよ」
スラックスのベルトを抜いて、ボタンを外した壱哉が、比奈の身体に覆いかぶさる。
素早く比奈のブラウスを脱がせ、スカートも脱がす。それからショーツの中に手を入れようとすると、逃げようとしたので身体で抑えた。
「は、ぁ」
そうしてショーツの中に手を入れ、比奈の大切なところに触れる。すでに少し濡れている。比奈は目を開いて大きく息を吐き、それから目を閉じて壱哉の肩に手を回した。
「ん……っふ」
比奈の声に煽られて、壱哉は比奈の隙間に指を入れる。少しずつ、ゆっくり入れたが、とっても狭い。何度か指を中で動かすと、肩に回した手に力がこもる。
「痛くない?」
すると比奈が甘い息を吐きながら首を横に振ったので、指を一本増やした。濡れた感触が最初よりも数段増し、部屋中に水音が響く。指で比奈の中を愛撫しながら、唇で胸を愛撫する。
比奈は最初は身体を硬くしていたが、行為が進むにつれ、力が抜けていった。比奈は以前、自分の身体に触れた男は壱哉だけだと言っていた。比奈の性格と今日の反応を考えると、今も自分しか知らないように感じる。壱哉しか触れたことのない身体というのに、ひどく興奮した。身体中に触れたくてたまらなかったが、下半身も張りつめてズキズキと痛いくらいだった。
指を抜いて脱力している比奈の足を開く。抵抗しないのを確認して彼女の顔を見る。目が合うと恥ずかしそうに目を逸らされた。壱哉はその様子にもひどく興奮した。比奈は壱哉を煽るのが、いつも上手い。早く入りたい気持ちを抑えるのは、至難の業だった。キスをしながら自分のモノをあてがって、ゆっくりと押し入る。狭い、と思った。だが、この感覚が気持ちよかった。しばらく動かず、比奈の中を堪能する。
入れた時、比奈は少し痛そうな顔をしたが、壱哉はすっかり煽られていて、優しくする余裕がない。
けれど何とか自制心を奮い立たせて、比奈の頬を撫でた。
「この感覚、久しぶりだ」
壱哉の声に応えるように比奈が少しだけ笑う。そんな顔をしたら、ますます優しくしてあげられなくなる、と思いながら身体を少し強く突き上げた。
「あっ……!」
知っているも何も、と心の中でつぶやく。
壱哉が今話した離婚話には、元妻への配慮も愛も感じられる。きっと夫婦関係は解消してしまったけれど、二人の間には強固な信頼関係が築かれているのだろう。
比奈は自分も元妻のように、壱哉の心に何かを残せているのだろうか、と考えた。けれど、何も残せている自信はない。彼にとって自分は、きっと懐かしいだけの過去の恋人。
だから、ここで今、自分の気持ちを言うことはできない。
「その人のこと、信用していいかどうかわからない」
比奈がそう言うと、壱哉は苦笑した。
「そんな相手なら、やめておいたほうがいいと思うけど」
「そう思います?」
「比奈さんが信用できないのならね」
壱哉は、腕時計を見る。ブルーのフェイスの時計は、比奈の見たことのないものだった。以前は黒いフェイスの時計だった。比奈も時間が気になってショップの時計を見ると、午後八時半を回っていた。
「時間、気になります?」
比奈が聞くと、壱哉は「別に」と言った。
けれど壱哉は、普段はあまり時間を気にするような人ではなかった。仕事の途中で抜けだしてきたから、気にしているのかもしれない。
だから比奈から、こう切り出した。
「もう遅いですよね。帰りましょうか」
そう言っておきながら、まだそんなに遅い時間などとは思っていなかった。だけど比奈には、今この場所にいることが、少し息苦しかった。
さっき壱哉は、比奈のことを今でも好きだと言ってくれたけれど、その言葉を思い出しても胸の苦しさは楽にならない。
壱哉は本当に比奈を思っているのだろうかと思う。
もしそうではなかったら、と考えると、怖くて壱哉に思いを伝えることなんてなおさらできない気がした。
「比奈さんは、明日仕事?」
「はい。午前中に準備をして、午後から講義が入ってます」
じゃあ帰ろうか、と壱哉はコーヒーを飲み干した。
「送ろうか」
「……車、ですか?」
「今日はね。会社に置いてあるから、一緒に取りに行こう」
いいえ私は電車で、と言おうとしてやめた。今さら何を意識する必要もない。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
壱哉はそう言って、先に店を出た。比奈もその背を追いかけて外に出ると、もう春だというのに肌寒い。急いで上着をはおった。
「壱哉さん、いつ帰国したんですか?」
「三月二十日」
「……すごい偶然ですね」
三月二十日は比奈の誕生日だ。そして二年半前の二十六歳の誕生日は、壱哉からはじめてプレゼントをもらった日でもある。ハート型のペンダントを贈られたのだ。
だけどその後、壱哉との交際は一年も続かなかった。それだけ浅い関係だったのかもしれない。なのに、比奈の心は壱哉を求めつづけているのだ。惹かれちゃいけない、と思いながらも、壱哉のことを考えずにいられなかった。
「あの日、気がついたら、比奈さんの誕生日だった」
と笑いながら話す壱哉を見上げて、比奈は尋ねた。
「三月二十日、私のことを思い出しました?」
別に本気で言ったつもりはない。だから、もし壱哉が冗談めかして返事をしても、比奈は笑って対応するつもりだった。ところが――
「そうだね。その日がくるたびに、いつも君のことを考えていたよ」
と壱哉は真剣な面持ちで言うのだった。
そこからは互いに話をせずに歩いた。
そして二人は目的地に着く。
比奈は、初めて壱哉の会社のロビーへ足を踏み入れた。思わず声が出そうなほど立派なビルで、外も内もシンプルだけど、とてもお洒落な雰囲気。床は鏡のようにピカピカで、姿が映りそうなほどによく磨かれている。
受付にいた女性が、壱哉に向かって軽く頭を下げる。
「こんな時間なのに」
「彼女ももうすぐ帰るよ。今日はちょっと残業したんだろう」
壱哉と比奈はエレベーターに乗り込み、地下の駐車場へ向かった。ランプが二回点灯する車が目に入った。比奈は促されたけれど、ここへ来て少しためらう気持ちが芽生えた。
運転席に行きかけた壱哉が足を止め、比奈のほうを振り向いた。
「壱哉さん、信用できる人じゃないとダメだって言いましたよね」
「そうだね。じゃないと、僕も心配だ」
「どうして心配なの?」
「君は僕の特別な人だから。変な男につかまってほしくないな」
「特別」という言葉が、胸に響く。けれど何だか余計にもどかしい気持ちになり、苦しかった。
「信用できる人ってどんな人? 教えてくれます?」
「誠実で、比奈さんのことだけを思ってくれる人。君が、心を許せると思った人」
「……そんな人、今のところ、健三以外にいませんよ」
「君は、まだ健三が好きなのか」
「友達として、ですよ」
壱哉はため息をついて、助手席側のドアを開ける。
「乗って、比奈さん」
比奈は黙って従った。壱夜は口では好きだと言っておきながら、それ以上のことは何も言ってくれない。
下を向くと涙が出そうだった。さっきの話の内容と、自分の心が苦しくて。
壱哉が運転席に乗ると、少しだけ車体が揺れる。ドアが閉まり、この話はもう終わりだな、と比奈は思った。だが、壱哉はなおも言う。
「僕は君だけを思っていたわけじゃないと思う。だから、誠実かといえば、そうじゃない。それに、僕は一度は別の人と結婚した身だ」
車のキーを差し込む音、そしてエンジンがかかる音が聞こえた。
「以前、僕とつきあっていた頃も、君はどこか心を許していないようなところがあった。それを思うと、僕は信用できる人物じゃあないね。そうだろう?」
「……」
「君は昔から、僕に好きだと言ったことがない。でも僕は君が好きだ。君がほしい」
比奈は唇を引き締める。そして壱哉の目を見ずに、こう打ち明けた。
「言ったことがなくても、わかってくれてると思ってました。は、はじめてエッチした時だって、どれだけ……もう、いいです。家に帰して」
早く帰りたい。もう、こんな話をしていたくない。そう思ったけれど、ここで何も言わずに離れてしまったら……
「辛い思いをさせて、ごめん」
比奈の頬に壱哉の手が優しく触れた。泣きそうになる。
「好きなんだ。だから、君もそう言って」
「好きなんだ」という言葉が、比奈の先ほどから苦しかった思いを救った。
元妻への包み隠さぬ思いを聞いても、やっぱり好きだという気持ちには変わりなかった。そんなことはどうでもよくて、この人は今、比奈のことをどう思っているのか、それだけが比奈の心を、不安要素として厚く覆っていた。
好きだと言う言葉を聞いた途端、比奈の心は浮上した。
たった、それだけで。これだけで。
比奈は壱哉の身体をシートに押しつけるようにして彼に抱きついた。
「……好きです。好きなんです、ずっと好きだった」
好き、好き、と比奈はうわごとのように繰り返した。壱哉は比奈の背に手をまわして、きつく抱きしめる。
「なんだか、本当に……君との恋愛は苦労する。……顔を上げて」
壱哉にそう言われて顔を上げる。首に壱哉の大きな手を感じていたら、彼のもう一方の手は比奈の腰を抱いた。
ゆっくりと唇が近づいてきて、壱哉が比奈の頬に軽くキスをする。
そして互いの唇が重なって、濡れた音が聞こえた。久しぶりのキスだった。
「ん……っ、壱哉さん……っ」
壱哉のキスは啄ばむようなものから、唇を深く合わせるものに変わっていく。
比奈も優しい舌の動きに応えながら、壱哉を抱きしめる手に力を込める。
「やばいな」
唇を離して壱哉がつぶやいた。そして苦笑しながら比奈を見る。
「これ以上すると、したくなる」
「私、と?」
壱哉は比奈の腕に触れる。二の腕から肘にかけてゆっくりと触れてゆき、にこりと笑った。
「……想像しているだけよりも、現実は、もっといい」
だけどこんなこと言う男は最低だ、と壱哉は言い、比奈の腕から手を離す。
比奈も壱哉の首から手を離す。
「私も前に他の男の人とキスしました」
「……誰と?」
「知らない人。いきなりされて、とても嫌だった。目蓋にも触られて……」
壱哉はその言葉にため息をつき、そして比奈の頬に触れる。
キスはもちろん、目蓋に触れられるのはとても不快だった。
壱哉しか触れたことがない、壱哉にしかされたくないことだったのに。
比奈の恋愛の基準は、いつも壱哉だ。
今、こうして抱きしめられているように、誰かの腕の中にいるとしたら、壱哉しか嫌だった。
キスも、目蓋に触れるのも、それ以上のことも。
「キスとセックスは違う。でも、その男、許せないな」
「私にとっては同じこと。泣きながら帰った」
比奈はそう言って、壱哉の肩に額を預けた。
「君は可愛いんだから気をつけないと。何かされてからじゃ遅いだろう」
呆れるように言ったその声を聞いて、比奈はまじまじと壱哉を見る。
「壱哉さんは、そういうつもりはまったくなかったんですか? 二日前も?」
比奈に好きだと言っておきながら、そういうつもりはなかったのだろうか。
「まったくなかったとは言えない」
「……私、可愛くないこと言いましたよね」
比奈が目を伏せると、その顎を持ち上げられる。そして少し荒っぽいキスをされて、きつく抱きしめられた。
狭い車内でもつれあい、比奈は心も身体も熱くなる。
「君を持ち帰るよ。いい?」
比奈は何も言わなかった。うなずきもしなかったけれど、壱哉はそれを肯定と受け取ったようだ。
壱哉はシートベルトをして車を発進させる前に、もう一度比奈の唇に食むようなキスをした。
明日は仕事だとか、そういうことはどうでもよくなっていた。
今、この人と一緒にいたい。ただそれだけだった。
2
壱哉は帰国以来、トレジャーホテルのスイートルームに長期滞在している。こんなに広い部屋は必要ない、と思っていたが、住んでみるとやはり快適そのものだった。
壱哉は財布の中からカードキーを取り出した。
「部屋は20001号室。比奈さん、先に行って。フロアには二つしか扉がないから、すぐにわかるよ」
「……壱哉さんは?」
「車を停めてから行く。先にあがって待っていて」
ホテルの地下のエレベーター前で別れる。すぐに来たエレベーターに乗る比奈を見送ってから、壱哉は車に戻った。
携帯電話のボタンをプッシュする。三度のコールで相手が出て、お疲れ様です、と言った。壱哉の秘書の春海だ。
「明日アメリカへ行く便を午後からのものに変更してほしい」
『ええ、構いませんが、どうかしました? 早く行って面倒な仕事を片づける、とおっしゃったのは篠原さんじゃないですか』
「急用ができた」
『わかりました。では、明日』
壱哉は、用件だけを手短に話し、電話を切った。
「さて、どうするかな……ホテルの前にコンビニがあるな」
エマと別れた時、これでしばらくは女性には縁がないだろうと思い、避妊具はすべて捨ててしまった。比奈と会ってもそういうことにはならない、と決めていたのだが。
あの日偶然、トレジャーホテルで比奈に再会した。比奈を見てしまったら、彼女を手に入れたくて、欲しくてたまらなくなった。何とかしてもう一度会えないかと、そればかりを考えていた。
「ここで迷っていてもしょうがない」
壱哉は車を降り、エレベーターで一階まで上がって、ホテルの外に出た。ホテルのすぐ前にあるコンビニに入り、迷わず目的のものを購入する。
それからホテルに戻ってフロントに立ち寄った。
「お帰りなさいませ、篠原様。お手紙をお預かりしております」
壱哉は手紙の束を受取り、マネージャーに言った。
「会社にカードキーを忘れてきてしまった。申し訳ないが、スペアを貸してもらえないだろうか」
「かしこまりました」
マネージャーは、スペアキーをフロントカウンターの下から取り出した。
「どうぞ、こちらをお使いください」
「ありがとう」
壱哉はうなずいた。すぐにエレベーターが来て、素早くそれに乗り込んだ、ほかに誰も乗ってこない。早く比奈の下へ行けと言わんばかりに、すべてがスムーズに進んだ。
ただしそれも、本当に比奈がいれば、の話だ。
「君を持ち帰る」と壱哉は言った。しかし、最後の決定は比奈に任せた。比奈が壱哉のことを思っているなら、きっと待っているはずだ。けれど、比奈の保守的な性格を考えれば、部屋へは行かずに帰ってしまう可能性もあった。
カードキーでドアを開けると、比奈は確かにそこに立っていた。
ちょっと驚く。
「ちゃんと待っていてくれたんだ?」
壱哉に抱かれるために、比奈が壱哉の部屋にいる。これがどういうことか、と考えた。比奈は壱哉に抱かれていいと思ったからここにいるのだ。
ただそれだけのことなのに、二年半ぶりだからか、緊張と嬉しさとが込み上げてくる。
「え?」
首を傾げた比奈に、壱哉は笑顔を向けた。
「もしかすると、待っていてくれないかもしれないと思った」
比奈が顔を伏せる。
やっぱり帰る、と言われるのが怖かった。部屋の照明を消すと、窓の外のネオンが、スイートルームの豪奢な白壁に反射した。
壱哉は比奈に近づいて身体を引き寄せる。そして唇を重ねていく。
唇を啄み、何度も吸い上げた。比奈の唇の感触をこんなに感じたのは久しぶりで、いつの間にか抱き締める手にも力がこもっていた。
「……っ」
壱哉を高ぶらせる感触。この細さ、この柔らかさ。強く抱きしめていることで、比奈の胸の感触が身体に伝わる。
全身で比奈を感じる。まったく男ってやつはしょうがない、と我ながら思ってしまうほど、壱哉の身体は正直に反応していた。
比奈が少し苦しそうに壱哉の胸元に手を置いた後、ジャケットの襟を強く握ったので、唇を離してやる。その代わりに、比奈の白く細い首から顎へ、唇で辿っていく。比奈のジャケットを脱がせ、ブラウス越しに柔らかい胸に触れる。
「は……っん」
久しぶりに聞く甘い声を、比奈は出すまいとして手で唇を覆ってこらえていた。壱哉は比奈の甘い声をもっと聞きたくて、比奈の手を取ってそこへキスをする。それからまた唇を啄み、浅いキスを繰り返し、開いた唇の隙間から舌を差し入れる。
細い身体をすぐ近くの壁に押し付けて、胸に触れた後ブラウスの下に手を入れ、背に手を回してブラジャーのホックを外す。背中を優しく撫でてから、直に比奈の胸に触れた。
さらにキスを続けながら、胸を揉み上げる。二年以上の時を経て直接感じる、温かい肌の感触と乳房の柔らかさに、壱哉の口からは知らず小さなため息が零れた。柔らかい感触が壱哉の心も身体も興奮させる。
しかし、しばらくすると胸を揉む手を比奈が掴んで止めた。
「ここじゃ、嫌です」
「久しぶりに聞いたよ、そのセリフ」
つきあっていた当時、ベッド以外でしようとすると、比奈は嫌がった。変わらないセリフに苦笑する。
比奈は壱哉の愛撫の手を止めようとするが、構わず優しく揉み続けた。
「いつも、ベッド以外だとそう言っていたね」
言いながら柔らかい乳房を揉み上げると、比奈は熱い息を吐いた。もう一方の乳房も同じようにすると、比奈は壱哉の手を掴んで抵抗したが、その力は弱々しかった。
「あ、ん……っ」
壱哉は比奈の耳に唇を寄せて、言った。
「ベッドへ行く?」
「……さ、っきから、ここじゃ嫌、って……っ」
壱哉は愛撫の手を止めない。比奈が腕の中にいると思うと、身体に触れずにいられない。
大腿を彷徨っていた壱哉の手が、比奈のショーツにかかる。比奈は少し抵抗したが、壱哉は手を止めなかった。我慢できず、比奈のショーツを下げ、行為を進めようとした。
「い、ちやさん。お願い……っん」
比奈に懇願している比奈を見て、壱哉は観念した。そのまま比奈の身体をお姫様抱っこする。相変わらず軽い身体だ。
ベッドの上で優しくしようとしても、今夜は無理かもしれない。
壱哉は、比奈をベッドへと連れて行った。
「君がほしい」
そうささやいたが、比奈にその言葉はすでに聞こえていない様子だった。すでにぐったりしており、壱哉からされるがままだった。
けれど、それでもいい。ほしいと言ったのは素直な気持ちで、もう一秒だって待てそうにない。
比奈の身体をまたいで膝立ちになり、壱哉は服を脱ぎながらコンビニで買った箱を枕元に放った。手を伸ばした比奈は、それが何であるのか感触だけで分かった様子だ。
「いち、やさん、これ、いつ買った、の? 持ってた、の?」
「まさか、さっき買ったんだよ」
スラックスのベルトを抜いて、ボタンを外した壱哉が、比奈の身体に覆いかぶさる。
素早く比奈のブラウスを脱がせ、スカートも脱がす。それからショーツの中に手を入れようとすると、逃げようとしたので身体で抑えた。
「は、ぁ」
そうしてショーツの中に手を入れ、比奈の大切なところに触れる。すでに少し濡れている。比奈は目を開いて大きく息を吐き、それから目を閉じて壱哉の肩に手を回した。
「ん……っふ」
比奈の声に煽られて、壱哉は比奈の隙間に指を入れる。少しずつ、ゆっくり入れたが、とっても狭い。何度か指を中で動かすと、肩に回した手に力がこもる。
「痛くない?」
すると比奈が甘い息を吐きながら首を横に振ったので、指を一本増やした。濡れた感触が最初よりも数段増し、部屋中に水音が響く。指で比奈の中を愛撫しながら、唇で胸を愛撫する。
比奈は最初は身体を硬くしていたが、行為が進むにつれ、力が抜けていった。比奈は以前、自分の身体に触れた男は壱哉だけだと言っていた。比奈の性格と今日の反応を考えると、今も自分しか知らないように感じる。壱哉しか触れたことのない身体というのに、ひどく興奮した。身体中に触れたくてたまらなかったが、下半身も張りつめてズキズキと痛いくらいだった。
指を抜いて脱力している比奈の足を開く。抵抗しないのを確認して彼女の顔を見る。目が合うと恥ずかしそうに目を逸らされた。壱哉はその様子にもひどく興奮した。比奈は壱哉を煽るのが、いつも上手い。早く入りたい気持ちを抑えるのは、至難の業だった。キスをしながら自分のモノをあてがって、ゆっくりと押し入る。狭い、と思った。だが、この感覚が気持ちよかった。しばらく動かず、比奈の中を堪能する。
入れた時、比奈は少し痛そうな顔をしたが、壱哉はすっかり煽られていて、優しくする余裕がない。
けれど何とか自制心を奮い立たせて、比奈の頬を撫でた。
「この感覚、久しぶりだ」
壱哉の声に応えるように比奈が少しだけ笑う。そんな顔をしたら、ますます優しくしてあげられなくなる、と思いながら身体を少し強く突き上げた。
「あっ……!」
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