悪役やるならこんな風に

リボン🎀会長

文字の大きさ
19 / 36

17話

しおりを挟む
 
 お暇、できなかった。

 唐突に他家の騎士団から挨拶したいなんて言われるとは微塵も思っていなかった。私としては、これからも仲良くやっていきたいマルティムの家の騎士たちだ、挨拶はむしろしておきたい。だけど派閥が違うので、家同士の交流に結びつきそうな騎士団と挨拶をして良いのだろうかと悩む。ついこの間、派閥関係の失敗をしたばかりの私は側近と相談するようにと言われていた事を思い出す。

「時間が許すなら」

 そう言って私はカシモラルに顔を向ける。私が勝手にOK出していないし、挨拶受ける意思があることはマルティムに示せたし、上手くカシモラルにバトンタッチできたんじゃ無いだろうか。ダメだったら「今日はやめておきましょう」とか言って有耶無耶にしてくれるだろう。
 マルティムとボルフライもカシモラルに視線を向ける。

「少しの時間なら構いませんが、人数はどのくらいでしょうか。今から順番に部屋に招いていてはこちらだけではなく、マルティム様のご予定にも支障が出るのではございませんか?」

 カシモラルから交流の許可は出たが、うーん確かに。あまり時間をかけずに済む方法はないだろうか。考え込んで、自分が騎士の訓練に初めて参加した時を思い出した。

「わたくしが騎士団の訓練場へ向かうのはいかがでしょうか?」

 ナイスアイデア⭐︎くらいに思っていたが、周りがザワザワし出したので私はまたミスをしたらしい。

「ハーゲンティ様にご足労いただくわけにはまいりません」
「距離もございますし」

 マルティムの側仕えたちが口々に言う。

「ウハイタリの城と訓練場は離れていましたし間に庭もありました。同じように離れているのなら案内をするのも大変ですね」
「そこまでの広さはございません」

 私が離れているなら大変だと納得しようとしたが、マルティムが否定した。マルティムの側仕えたちが仕方なさそうにしている。騎士たちが突然言い出したようだし、もしかするとあちら側としても有耶無耶にしたかったのかもしれない。
 常識が足りない私と、単純に幼すぎたマルティムの組み合わせにより予定を増やしてしまいましたとさ。ごめんね。

「移動するのなら早いほうが良いでしょう。さっそくですが案内をお願いできますか?」

 私がマルティムに確認をとっている間にボルフライは自分の側仕えと軽く打ち合わせをし、私の方を向いてスっと手を上げた。

「わたくしの同行に許可をいただけませんか?」

 許可出すの、私?

「わたくしは問題ございません。マルティムはいかがですか?」

 マルティムに許可を求めると頷いてくれた。

「もちろんです。ボルフライも一緒に向かいましょう」

 と、言うわけで、夕方が近づき帰りの馬車が動き出すこの時間に私たちは騎士団の訓練場へ向かうことになった。





「ハーゲンティ様」

 移動のために周りがバタバタし始めたタイミングでカシモラルが内緒話を始める。

「なぜ訓練場へ向かうとおっしゃったのですか?」
「現地へ向かった方が効率が良いと思ったのです」

 どういうことだとカシモラルが首をかしげる。

「わたくしが初めて訓練場を訪れた日と同じようにできないかと。みなが並んでいて、挨拶の言葉を交わしたのは代表である騎士団長でした。同じようにできれば順番に全員と挨拶をせずに済むのではないかと考えたのです」

 ふむ、とカシモラルが考えるような顔になったので、私は好奇心の部分も付け加えておく。

「それと、お茶会中に騎士の訓練の話題を出しましたが、2人は訓練をしていないようでしたね。お話が聞けず残念に思っていたので、他家の騎士団を見学できる良い機会を作れたと思います」

 私が「楽しみでしょう?」と伝えると、カシモラルまで仕方がないなという顔になった。

 えー気になるじゃーん。

「お待たせいたしました」

 移動の準備が整ったようで、マルティムが声をかけてくれる。
 みんなでゾロゾロと歩きだし、大きな建物がすぐ目に入った。敷地が狭いわけではないが、館と訓練場の間に庭や寮が無い分、目の前に感じる。

「今日はマルティム様のお兄様も訓練に参加していらっしゃるのですよね?」

 ボルフライがマルティムに話しかける。

「はい、きっと挨拶をと言い出したのはお兄様です。なんと言えば良いのでしょう、とても、心配性なのです」

 シスコンか?今世も前世も兄がいない私はちょっとソワソワする。

「色々と気にかけてくださるのは嬉しいのですが、わたくしが帰敬式を終えてから、よりあれこれ口を出すようになりました」

 私は仲のいい兄妹だなぁくらいに思って歩みを進める。
 訓練場の入り口にはすでに大勢が並んで待ってくれていた。最前線に騎士団長ら幹部と思われる中年男性が並び、真ん中にものすごーく若い、と言うより少年が1人混ざっている。

「ハーゲンティ様、ようこそおいで下さいました。初めまして、マルティムの兄、オリアクスと申します。以後、お見知りおき下さい」

 少年がマルティムのお兄さんだった。髪はマルティムと同じワインレッドで、瞳は深い青色をしている。オリアクスとマルティムの顔立ちは似ている。つまり、悪役顔である。オリアクスは笑顔を向けてくれているが、どうにも含みがあるように感じてしまう。私は自分も似た系統の顔だということを棚に上げようとしてハっとする。

 私がオリアクスに向けている笑顔も同じように捉えられているかもしれない!

「オリアクス、初めまして。マルティムには仲良くしていただいています。お会いする機会ができて嬉しいです」

 柔らかい雰囲気を出せるよう心がけて微笑んでみる。しかしオリアクスの頬が一度ヒクと動いたのできっと警戒された。コミュニケーションって難しい。

「あははは」

 少し離れたところから男の子の笑い声がする。視線を向けると、チェリーピンクの髪をした少年がいた。何その髪色ピンクスパイダー歌い出しそうじゃんカッケー。

「私にも挨拶をさせてください。オリアクス様と親しくしていただいております、バイェモンと申します。以後お見知り置きを」

 ピンク髪の少年はバイェモンと名乗った。スカイブルーのキラキラした瞳がイタズラ好きな雰囲気を醸し出している。そんな彼が笑い飛ばしてくれたので、私は空気が少し軽くなるかと思ったが、側近たちからはなんとも重い気配が放たれている。
 空気は重いが、ボルフライも同行しているのでいつまでも睨み合いをしていられない。ボルフライと挨拶のための位置を交代するため私は一歩下がった。その様子を見てバイェモンが意外そうな顔をする。

「ハーゲンティ様は噂に違わず面白い方のようですね。ただ、知人たちから聞いていた話よりはまともそうに見えます」

 いつものアレね、なんて私は流そうとしたが「まともそう」の言葉に護衛官見習いのチャクスが足元をジャリと言わせたので慌てて大きめの声を出す。

「んま~バイェモンったら、わたくしはとっても普通ですよ!面白いだなんて、またまた口がお上手ですね」
「まさかハーゲンティ様からお褒めの言葉を賜れるとは思ってもいませんでした」

 言葉遣いが丁寧ならば良いってもんじゃないでしょう、鼻で笑いながら言うんじゃないよ。私をバカに、いや、挑発しているのだろうか。取り繕ってもすぐにその化けの皮を剥いでやるって?やめてくれ。マルティムとボルフライが見ている前で、カッコつけな私がこんな安い挑発に乗りたくないが、バイェモンの口を閉じる必要がある。
 オリアクスの客人だし、止めてくれないかなと視線を動かしてみるが、オリアクスは私の一挙手一投足を見逃すまいと真剣な顔を向けている。止めて見せろとでも言いたげだ。なんでだ。
 私は小さくため息をついてからバイェモンに視線を戻す。

「本当に、よく回る口ですね。噂話などどこで尾鰭がついているかわからない空想をわたくしがいない所で楽しむ分には止めませんので、どうぞ続けてください」

 私が手で払うような仕草をすると「引っ込んでいろ」の思いが通じたようで、バイェモンは一瞬真顔になり、すぐ笑顔に戻して会釈をする。

「大変失礼いたしました」

 バイェモンが謝罪の言葉の後は口を閉じてくれたので、やっとボルフライの挨拶の順番が回ってきた。

「初めまして、オリアクス様。ボルフライと申します。以後お見知り置きください」

 そつなくオリアクスと挨拶を終わらせ、バイェモンとも挨拶をするようだ。

「こうしてお会いするのは初めてですねバイェモン様」
「そうですね。爵位は同じですが、派閥が違いますから」
「それこそ、バイェモン様の同派閥はハーゲンティ様でしょう?」

 えーそうだったのー!?

 声は出ていない、セーフ。
 城の使用人たちの態度を考えれば、バティン派も私にいい感情を持っていない人は少なくないだろう。頑張って少しずつ噂を塗り替えたいところだ。
 2人が静かに睨み合う。子供同士でよかった。よかった?よかったよね?
 区切りがついたと判断したのだろう、オリアクスが私の前に来て声をかける。

「ハーゲンティ様、どうぞこちらへ。中をご案内いたします」
「ありがとうございます。お願いいたします」

 オリアクスを先頭に私、マルティム、バイェモン、ボルフライの順番で訓練場の中へ入る。騎士たちは先に戻り訓練を再開していた。
 ウハイタリの訓練と同じように、年齢別のグループができているように見えた。

「わたくしはまだ訓練を始めたばかりなので、体力作りのために走り込みばかりなのです」
「我が家の訓練でも、帰敬式を終えたばかりの子供たちは走り込みばかりですよ」

 オリアクスは先ほどまで私を品定めするかのような態度だったが、少し態度を軟化させ、さらに私の問いにも答えてくれる。私、オリアクス、マルティムの3人でおしゃべりをしながらゆっくり訓練場を1周する。
 後ろからバイェモンとボルフライの話し声がちょっと聞こえてくる。

「本当に仲がいいのですか?てっきり強制されているのかと」
「違います。バイェモン様は一体何を見ていらっしゃるのです?その青い両の目は魔石ですか」

 ボルフライね、見た目はすごく儚げで可憐な少女なんだけどね、キッッッツ。好き。前回のお茶会に続いてまた助けられちゃったな。

 私が味方をしてくれるボルフライに嬉しくなり頭の中が少しふわふわしていると、いつの間にかオリアクスが歩みを止めていた。しまったと振り返って3歩ほど戻る。
 マルティムは怪訝そうな顔でオリアクスを見ている。その視線を気にせずオリアクスは口を開く。

「ハーゲンティ様は、私の妹マルティムが侯爵の跡取りになることをどのようにお考えですか?」

 あれ?跡取り決まってるって言ってたっけ?

 私がうーん?と首をひねるのとほぼ同時に、

「お兄様!何をおっしゃるのですか」

 マルティムが叫ぶように声を上げた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...