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二話
しおりを挟む翌日。京助が昼の見回りに出ると、今日も界橋の上に川木拾いの小僧がいた。
こちらに背を向けているのを確かめると、京助は一気に橋の方へ泳ぐ。だが、昨日と同じぐらいの近さまで来ると、小僧がいきなり振り返った。
「おっ! 川の者よ!」
京助は慌てて川底へ潜り、近くの大きな岩の陰に身をひそめる。
(……クソ、昨日のあれはたまたまではなかったのか!)
しかし、なぜこちらが近づいたことがわかるのか。考えているうちに、京助はふと昔、親から聞いた話を思い出した。
(……まさか、あの畜生は霊感持ちか?)
人の中には、まれに霊感というものを持つ者がいるらしい。そういう相手の前では、どれほど上手に隠れても、姿を晒しているのと変わらないという。
霊感持ちの中でも、とりわけ山伏は勘が鋭い。確か、そんなことを教わった覚えがある。
橋の上の小僧は修験の装束でもなく、錫杖や法螺貝を持っているわけでもない。そのため、どうやら山伏ではなさそうだ。
それに、京助がそっと橋の上を盗み見ると、小僧は橋の上をドタドタと歩きながら辺りを見渡していた。
(オレが近くにいることは察しているが、細かい居所まではわからぬ……といったところか?)
ならば、小僧の霊感はさほど強くはないのかもしれない。
(……それでも厄介である。これ以上近づけぬではないか!)
京助の身を隠す大岩。そのすぐ向こうに、界橋があって小僧が立っている。
どうしたものかと考えていると、再び小僧の声がした。
「今日もまたブチを持って来たぞ! 今から投げるのは、川の者への土産だ!」
小僧が叫んだ後、須川に川の者への土産……ブチが落ちた。京助の知らない言葉でやはりその正体はわからない。
京助は川底へ潜り、手を伸ばしてそれを拾い上げる。そして大きな岩のところまで戻った。
(今日は……あの小僧をどうにかして川へ引きずり込んでやる!)
橋の上をうかがうと、小僧の手にもう一つブチが握られているのがわかった。
また川に投げるのかと身構えたその時。小僧はブチを顔の前に持ち上げ、そのままガブリとかじりついた。
「なっ……!」
「……やっぱりコジュウハンはブチだなぁ」
小僧はもぐもぐと口を動かしながら、間の抜けた顔でそんなことを呟いた。
(……川の者への土産は、食い物だったのか!)
手にしたブチを鼻先に近づけると、ほんのり香ばしい匂いが漂った。思わず腹がぐうっと鳴る。そういえば、朝から何も口にしていなかったことに気づく。この川で飯にありつくのは難しいのだ。
「ぐぬぬ……」
いつの間にか、京助の目はブチに釘付けとなっていた。
(だが、これは畜生の食い物であろう!)
京助はそう自らに言い聞かせるも、気づけば口に押し込んでいた。一口かじれば、もっちりとした皮の中からふわりと甘味が広がる。
そしてあっという間に平らげ、
「……ふむ、食えない味でもないな」
と京助はそんなことを呟いていた。その時、頭上から「やぁ!」と声がした。
「なっ……!」
京助はばっと顔を上げると、岩の上からにっと笑い下ろす川木拾いの小僧の顔があった。
京助がブチを食っている間に、橋からこの岩の上へ飛び移ったのだろう。小僧が口を開いた。
「昔からこの川には何かいるとは思ってたけど……やっぱり、おらの爺ちゃんの言う通り、河童だったか!」
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