とびらの向こうはおとぎの国 ~王子さまとドラゴンに愛され中~

このはな

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意外な手紙のあて先

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「うそ、どうして……? こんなことに……! だって、ドラゴンいらずは、ドラゴンを眠らせる薬草だって、おばあちゃんが……」
「ドラゴンいらずは、いぶして使う。おそらく、その量をまちがえたのだろう」
 ジェイク王子はくちびるをかみしめて、目を伏せた。
「すまない……気づかなかったおれのせいだ……!」
「死んで、しまったの?」
 アンドルーがいなくなるなんて考えたくなかった。
 わたしは頭を横にふった。
「いや、やだよ……!」
 せっかく仲よくなったのに。
 アンドルーのからだは、まだこんなに温かいのに。
 このぬくもりも消えてしまうの……?
「アンドルー! わたし、あなたを守れなかった。あなたのお姫さまになのに……! ごめんなさい……ごめんなさい……」
 あやまらずにはいられなかった。
 くやし涙があごをつたって、ポロポロ落ちる。
 そうしたら、ドレスの下にしまったはずの手紙が、ひとりでにスッとでてきて、わたしのもとを離れたんだ。
「あっ、おばあちゃんの手紙が……!」
 宙に浮かんだ手紙はヒラヒラとおりてきて、アンドルーのひたいに貼りついた。
 そして、白いやわらかな光を放つ。
「あっ!」
 アンドルーの瞳がゆっくりひらかれて、彼は大きなからだを起こした。
「チトセ、ありがとう。そなたのおかげでチカゲにもういちど会えた。チカゲの心を感じることができた。礼を言うぞ」
 アンドルーと話し方がちがっていた。
 威厳に満ちた、低く落ち着いた声だった。
 目の色が金色だ。
 アンドルーの姿をしていても、アンドルーじゃない。
「あなたは、だれ……?」
 不思議に思い、首をかしげる。
 彼はやさしいまなざしを向けてきた。
「わたしはアーレン。チカゲのドラゴンで、チカゲはわたしの姫。そしてアンドルーはわたしの生まれ変わりだ。アンドルーの意識がない今、わたしの意識だけこうして外に出てくることができたのだ」
「だから、急に手紙が反応したのね!」
 ティファニーはそう言うと、いちもくさんにアーレンさんの鼻先に飛んでいった。
「あのとき、たくさんさがしまわったのよ! チカゲと必死に! なのに、あなたは、あなたは……!」
「すまない、妖精殿。あのとき、わたしにはもうチカゲを守る力がなかったのだ」
 アーレンさんは、とても悲しそうだった。
 おばあちゃんと、ティファニーと、アーレンさんのあいだに、とても悲しい別れがあったことだけはわかった。
 過去に何があったのか、今ここで聞くことはできるだろうけど、なんだかそうしてはいけないような気がした。
 なので、そこにはふれず、
「アンドルーは、どうなってしまうの?」
 アーレンさんに問いかける。
「わたしはまもなく消える。わたしが消えたら、アンドルーは目覚めるだろう」
 意外な答えが返ってきた。
「えっ! それじゃあ、あなたはいなくなってしまうの?」
 アンドルーが無事なのは、うれしい。
 けれど、よろこびよりもおどろきのほうが大きかった。
「もともと何十年も前に、そうならなければならなかったのだ。それなのに、わたしはわたしの意識を持ったまま、この世に生まれてしまった。チカゲに会えなくなるのを恐れたのだ」
 アーレンさんは首をのばし、天を仰いだ。
「が、もう怖くはない……。チカゲが向こうで待っている。わたしもいこう」
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