4 / 10
かわいいお兄さんは好きですか?④
しおりを挟む
今日は鼓さんの家庭教師日。十二月に入り、クリスマスも近づいてきた。俺は毎晩寝る前に鼓さんにプレゼントを渡す練習をしている。「いつもありがとう。これ、よかったら使って」……うん、もうすらすら言える。
でも気になるのが、最近鼓さんの様子がずっとおかしいこと。あの買い物の日以来、上の空のような状態のときが多くて、話しかけてもぼうっとしていることがある。
「鼓さん」
問題が解けたので声をかけると、無反応。
「鼓さん?」
「っ!」
もう一度呼びかけるとはっとしたようにこちらを見てくれてほっとする。本当にどうしたんだろう。
「なに考えてたの?」
「それは……」
もごもご。鼓さんがなにか考え込んでいたのは当たっているらしい。それはなんだ。家庭教師中にそんな風になるなんて、あの買い物の日以前はなかった。あの日、なにかあったんだろうか。
「教えてよ」
「……好きな人のこと」
「!」
鼓さんにも好きな人がいるんだ……いるよな。こんなときでも考えてしまうくらいその人のことが好きなのか。
ショックを隠せず、どう反応していいかわからずにいると、鼓さんが自分のバッグの中をがさがさと漁る。
「あ、あれっ」
「え?」
妙に演技臭い「あれ」が聞こえてきて何事かと鼓さんを見ると、少し頬を赤く染めてバッグの中に視線を落としている。
「参考書、部屋に忘れてきちゃったみたいだ」
「そうなの?」
「う、うん。あの」
「?」
「よかったら続きは俺の部屋でやらない?」
行くに決まってる。鼓さんの部屋はいい香りがするし、ここで生活しているんだな、と思うととてもどきどきするので大好きだ。即頷くと鼓さんが机の上を片付け始めるので手伝ったら手が当たってしまった。
「あっ」
「ごめん」
過剰に反応されてしまって慌てて謝るけれど、そんなに驚くことだっただろうか。挙動不審な鼓さんと一緒に俺の部屋を出た。
「お邪魔します」
「誰もいないから、気にしなくていいよ」
「そうなんだ」
二人きり……。冷静なふりをして「そうなんだ」なんて返したけれど心臓はばくばく言っている。部屋に入ると、鼓さんはバッグを置いて勢いよく俺に抱きついてきた。
「えっ」
どういうことだ。
「……史崇、童貞だよね?」
「えっ!?」
なにを聞かれているのかわからず、脳内で今の言葉を繰り返してからびびる。なんだ、なんなんだ。
「な、なんで?」
なんとか聞き返すけれど、声が震えているのが自分でもわかる。だってこの状況、わけがわからなすぎる。
「味見していい?」
「待って、なにこれどういうこと!? ちょっ、待って!」
鼓さんがしゃがんで俺の履くジーンズを脱がせようとするので慌てて止める。でも鼓さんは俺の制止を振り切ってジーンズのファスナーを下ろす。
「なに!? ほんとになんで!?」
「だってこのままじゃ史崇取られちゃう!」
「は……?」
ぺたりと床に座り込み、俯いている鼓さんは泣いているようだ。とりあえずジーンズを直してしゃがみ、鼓さんの肩に触れる。ぴくりと震えて俺の顔を見るその表情は、不安と悲しさがごちゃ混ぜになったような、心が痛くなるものだった。
「どういうこと?」
「っ……」
「わっ」
しゃがんだ俺にまた襲いかかってくるのでよけると、鼓さんが悲痛な顔をする。
「味見くらい、いいじゃん!」
とんでもないことを言っている。
「だめ! 鼓さんは俺が好きなわけじゃないだろ?」
「好きだよ! 好きだから史崇の初めて欲しいんだ!」
「……え?」
今なにを言われた? 好き? 鼓さんが俺を?
ぽかんとする俺の前で鼓さんが泣き崩れる。これはどういう状況で俺はどうしたらいいんだ。とりあえず一度深呼吸をして、鼓さんの頭を撫でる。
「史崇の馬鹿……」
馬鹿って言われても。
「ねえ鼓さん、なんでこんなことするの?」
「……」
鼓さんも少し落ち着いたようで、俯いたまま、だって、と言う。
「友達に『好きな人が手に入らないけど諦められない』って相談したら、『じゃあそいつの初めてなんでもいいからもらってしまえ』ってアドバイスされたから……」
「いやいやいや」
「史崇の初めて欲しいんだもの……くれたっていいじゃない。全部好きな子にあげるなんて許さない」
涙目で睨んでくる表情がめちゃくちゃかわいい。わけのわからないことを言っているのに、それすらかわいい。なんだろう、この人……勘違いはすごいし、とんでもないアドバイスしたお友達もすごいし、かわいさもすごい。俺の好きな子のことをなんでもない顔で話していたくせに、心の中ではそんなことを考えていたのだろうか。
「つまり、鼓さんに全部あげたら許さないの?」
「え?」
「俺の好きな人、鼓さんなんだけど」
「……え?」
「ずっと鼓さんが大好き」
さらっと告白してしまった……少し後悔。鼓さんは固まってしまった。
「じゃ、じゃあ……前に言ってた、しっかりしてる、とか年の割に子どもっぽいとか、……ぜ、全部かわいい、って……」
「鼓さんのこと」
驚いた表情もかわいいな、と思って見ていたら、鼓さんの頬がどんどん赤く染まっていく。そして俺は部屋から追い出された。
「もうやだ帰って!」
「つまり付き合ってくれないってこと? ノーなの?」
ここにきてそれはショックだ。
「イエスだけど恥ずかしすぎて消えたいから帰って!」
「イエスなら帰らない」
「帰って!」
謎の攻防が始まって、ドア越しに鼓さんに気持ちを送る。俺がどれくらいあなたを好きかが届いて欲しい、と。それが届いたのか、鼓さんがドアの隙間から顔を覗かせる。
「鼓さん、クリスマスイブ空けておいて」
「へ?」
「デートしよう」
バタンと勢いよく閉まったドアの向こうから悲鳴が聞こえる。大丈夫か。
でも気になるのが、最近鼓さんの様子がずっとおかしいこと。あの買い物の日以来、上の空のような状態のときが多くて、話しかけてもぼうっとしていることがある。
「鼓さん」
問題が解けたので声をかけると、無反応。
「鼓さん?」
「っ!」
もう一度呼びかけるとはっとしたようにこちらを見てくれてほっとする。本当にどうしたんだろう。
「なに考えてたの?」
「それは……」
もごもご。鼓さんがなにか考え込んでいたのは当たっているらしい。それはなんだ。家庭教師中にそんな風になるなんて、あの買い物の日以前はなかった。あの日、なにかあったんだろうか。
「教えてよ」
「……好きな人のこと」
「!」
鼓さんにも好きな人がいるんだ……いるよな。こんなときでも考えてしまうくらいその人のことが好きなのか。
ショックを隠せず、どう反応していいかわからずにいると、鼓さんが自分のバッグの中をがさがさと漁る。
「あ、あれっ」
「え?」
妙に演技臭い「あれ」が聞こえてきて何事かと鼓さんを見ると、少し頬を赤く染めてバッグの中に視線を落としている。
「参考書、部屋に忘れてきちゃったみたいだ」
「そうなの?」
「う、うん。あの」
「?」
「よかったら続きは俺の部屋でやらない?」
行くに決まってる。鼓さんの部屋はいい香りがするし、ここで生活しているんだな、と思うととてもどきどきするので大好きだ。即頷くと鼓さんが机の上を片付け始めるので手伝ったら手が当たってしまった。
「あっ」
「ごめん」
過剰に反応されてしまって慌てて謝るけれど、そんなに驚くことだっただろうか。挙動不審な鼓さんと一緒に俺の部屋を出た。
「お邪魔します」
「誰もいないから、気にしなくていいよ」
「そうなんだ」
二人きり……。冷静なふりをして「そうなんだ」なんて返したけれど心臓はばくばく言っている。部屋に入ると、鼓さんはバッグを置いて勢いよく俺に抱きついてきた。
「えっ」
どういうことだ。
「……史崇、童貞だよね?」
「えっ!?」
なにを聞かれているのかわからず、脳内で今の言葉を繰り返してからびびる。なんだ、なんなんだ。
「な、なんで?」
なんとか聞き返すけれど、声が震えているのが自分でもわかる。だってこの状況、わけがわからなすぎる。
「味見していい?」
「待って、なにこれどういうこと!? ちょっ、待って!」
鼓さんがしゃがんで俺の履くジーンズを脱がせようとするので慌てて止める。でも鼓さんは俺の制止を振り切ってジーンズのファスナーを下ろす。
「なに!? ほんとになんで!?」
「だってこのままじゃ史崇取られちゃう!」
「は……?」
ぺたりと床に座り込み、俯いている鼓さんは泣いているようだ。とりあえずジーンズを直してしゃがみ、鼓さんの肩に触れる。ぴくりと震えて俺の顔を見るその表情は、不安と悲しさがごちゃ混ぜになったような、心が痛くなるものだった。
「どういうこと?」
「っ……」
「わっ」
しゃがんだ俺にまた襲いかかってくるのでよけると、鼓さんが悲痛な顔をする。
「味見くらい、いいじゃん!」
とんでもないことを言っている。
「だめ! 鼓さんは俺が好きなわけじゃないだろ?」
「好きだよ! 好きだから史崇の初めて欲しいんだ!」
「……え?」
今なにを言われた? 好き? 鼓さんが俺を?
ぽかんとする俺の前で鼓さんが泣き崩れる。これはどういう状況で俺はどうしたらいいんだ。とりあえず一度深呼吸をして、鼓さんの頭を撫でる。
「史崇の馬鹿……」
馬鹿って言われても。
「ねえ鼓さん、なんでこんなことするの?」
「……」
鼓さんも少し落ち着いたようで、俯いたまま、だって、と言う。
「友達に『好きな人が手に入らないけど諦められない』って相談したら、『じゃあそいつの初めてなんでもいいからもらってしまえ』ってアドバイスされたから……」
「いやいやいや」
「史崇の初めて欲しいんだもの……くれたっていいじゃない。全部好きな子にあげるなんて許さない」
涙目で睨んでくる表情がめちゃくちゃかわいい。わけのわからないことを言っているのに、それすらかわいい。なんだろう、この人……勘違いはすごいし、とんでもないアドバイスしたお友達もすごいし、かわいさもすごい。俺の好きな子のことをなんでもない顔で話していたくせに、心の中ではそんなことを考えていたのだろうか。
「つまり、鼓さんに全部あげたら許さないの?」
「え?」
「俺の好きな人、鼓さんなんだけど」
「……え?」
「ずっと鼓さんが大好き」
さらっと告白してしまった……少し後悔。鼓さんは固まってしまった。
「じゃ、じゃあ……前に言ってた、しっかりしてる、とか年の割に子どもっぽいとか、……ぜ、全部かわいい、って……」
「鼓さんのこと」
驚いた表情もかわいいな、と思って見ていたら、鼓さんの頬がどんどん赤く染まっていく。そして俺は部屋から追い出された。
「もうやだ帰って!」
「つまり付き合ってくれないってこと? ノーなの?」
ここにきてそれはショックだ。
「イエスだけど恥ずかしすぎて消えたいから帰って!」
「イエスなら帰らない」
「帰って!」
謎の攻防が始まって、ドア越しに鼓さんに気持ちを送る。俺がどれくらいあなたを好きかが届いて欲しい、と。それが届いたのか、鼓さんがドアの隙間から顔を覗かせる。
「鼓さん、クリスマスイブ空けておいて」
「へ?」
「デートしよう」
バタンと勢いよく閉まったドアの向こうから悲鳴が聞こえる。大丈夫か。
21
あなたにおすすめの小説
上手くいかない恋の話
Riley
BL
友人の恋に嫉妬し軽はずみに悪口を言ってしまったーー。
幼なじみ兼、大好きなアイツ《ナオ》から向けられる軽蔑の目。顔を合わすことさえ怖くなり、ネガティブになっていく《カケル》。
2人はすれ違っていき……。
不器用男子×ネガティブ考えすぎ男子
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
【2025/11/15追記】
一年半ぶりに続編書きました。第二話として掲載しておきます。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
魚上氷
楽川楽
BL
俺の旦那は、俺ではない誰かに恋を患っている……。
政略結婚で一緒になった阿須間澄人と高辻昌樹。最初は冷え切っていても、いつかは互いに思い合える日が来ることを期待していた昌樹だったが、ある日旦那が苦しげに花を吐き出す姿を目撃してしまう。
それは古い時代からある、片想いにより発症するという奇病だった。
美形×平凡
テメェを離すのは死ぬ時だってわかってるよな?~美貌の恋人は捕まらない~
ちろる
BL
美貌の恋人、一華 由貴(いっか ゆき)を持つ風早 颯(かざはや はやて)は
何故か一途に愛されず、奔放に他に女や男を作るバイセクシャルの由貴に
それでも執着にまみれて耐え忍びながら捕まえておくことを選んでいた。
素直になれない自分に嫌気が差していた頃――。
表紙画はミカスケ様(https://www.instagram.com/mikasuke.free/)の
フリーイラストを拝借させて頂いています。
運命はいつもその手の中に
みこと
BL
子どもの頃運命だと思っていたオメガと離れ離れになったアルファの亮平。周りのアルファやオメガを見るうちに運命なんて迷信だと思うようになる。自分の前から居なくなったオメガを恨みながら過ごしてきたが、数年後にそのオメガと再会する。
本当に運命はあるのだろうか?あるならばそれを手に入れるには…。
オメガバースものです。オメガバースの説明はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる