かわいいお兄さんは好きですか?

すずかけあおい

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かわいいお兄さんは好きですか?⑥

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 マーケットは色々な店があって見ていてとても楽しい。でも高校生で小遣い頼みな俺には高いものばかり。そんな俺に鼓さんは食べ物を買ってくれる。

「今日くらいは年上らしいことさせて?」

 少し頬を赤く染めてこちらを上目遣いに見る鼓さん……だからそういうところが本当にかわいいんだって。
 遠慮すると逆に鼓さんが気にするだろうから、ありがとう、と素直に言うと嬉しそうに微笑むのがめちゃくちゃかわいい。ステーキやドイツ風の串焼き、鮎の丸焼きも見つけて、俺が気になるものと鼓さんが気になるものを次々買ってくれて二人で食べる。
 もう食べ物はいいかな、と話していたらおいしそうなイチゴのクレープを見つけ、二人で顔を見合わせる。

「……二人で一つなら、いける?」
「史崇は大丈夫?」
「うん。すごくおいしそう」

 一つ買って二人で食べるけれど突然、これって間接キス? と思い、以前シャーペンでした間接キスを思い出してしまい、少し頬が熱くなる。

「つ、鼓さんは……キス、したことある?」

 どきどきしながら聞いてみる。お願い、ないって言って!

「ないよ」

 飛び上がりたくなるほど嬉しかった。

「ふうん」

 なんでもない風を装うけれど、心臓がばくばく言っている。鼓さんの初キスが欲しい……と思い始めたら唇ばかり目に入る。

「史崇?」
「えっ」
「どこ見てるの?」
「えっ、えっ」
「……」

 じとっと俺を見る鼓さんの、やっぱり唇に目がいってしまう。鼓さんのキス、初キス、とそればかりになっている俺の脳内を覗かれそうで目を逸らすけれど、つい視線が唇に戻ってしまう。

「……後でね」
「えっ」

 それは……どういうこと!?
 聞きたいけれど、鼓さんはさっさと先に行ってしまったので慌てて追いかける。

「今日の記念になるようなものを買ってあげよう」

 少し頬を赤く染めた鼓さんがぽつりと言う。その鼓サンタ口調が本当にかわいくて口元が緩んでしまう。

「二人で来れた思い出があるから、物はいらないよ」

 俺の答えに鼓さんがきょとんとした顔をする。めちゃくちゃかわいい。

「でも……俺がプレゼントしたものを見て、そのたびに史崇に俺を思い出してもらいたい」
「っ……」
「だめ?」

 そんなのかわいすぎて、違う意味でだめだ。きらきらしているマーケットの飾りつけより鼓さんのほうが輝いて見える。

「ということで、これにしよう」
「えっ、もう決まってるの?」
「そう。いつも机に置いておくこと」

 鼓さんがサンタクロースの入ったスノードームを手に取る。こんな特別な日にプレゼントしてもらったもの、一生飾り続けるに決まっている。それから別の店でチョコレートも買ってくれた。全部鼓さんが払ってくれていて、さすがに申し訳なくなってくる。

「鼓さん、なにかお返しがしたい」
「お返し?」
「お金出してもらってばっかで申し訳ないから」
「お返しねえ……」

 思案するような顔をしてから、鼓さんが俺の手をきゅっと軽く握るので心臓がどくんと跳ねた。

「だったらずっとそばにいて」
「えっ」
「それで、史崇がバイトしたり就職したり、お金に余裕ができたら今度は史崇の奢りね」
「……」
「いいでしょ?」
「就職なんて、そんな先まで一緒にいてくれるの?」

 えっ、と大きな声を出されてしまいびっくりする。

「違うの!? 俺は史崇がずっとそばにいてくれるものだとばっかり……」
「っ……」

 そんなこと言われたら今すぐ抱きしめたくなってしまう。俺だって別れるつもりなんてまったくない。

「違わない。ずっとそばにいる」
「よかった」

 心底ほっとしたような表情をされて、心がむずむずしてしまう。動悸のような、心臓が疼くような、不思議な感覚。

「絶対お返しするから!」
「じゃあまた来ようね」
「来る!」

 こんなの将来の約束じゃん! 鼓さんは俺の心臓を壊す気か。
 きらきらのクリスマスマーケットを見て回り、鼓さんがはしゃいでいる。ステージを観たり、店を見たり……気がついたら薄暗くなってきていた。冬は夜が早い。ライトアップされたツリーが綺麗で、でもそれ以上に鼓さんが綺麗で、一瞬も目を離せなかった。


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