この恋、止まれません!

すずかけあおい

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メリークリスマスが言えない ~この恋、止まれません! その後のふたり⑧

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「実里、ほら」
「え?」
 ひと口サイズのチキンをフォークに刺して差し出され、目をまばたく。これはまさか。
「あーん」
「……」
 ふたりきりだし、と素直に口を開けた。優しくフォークが運ばれるけれど、それ以上に創の眼差しが優しい。愛でるようないつくしむような、愛情に満ちた瞳で実里を見つめている。
「おいしいです」
「実里もして?」
「……創さんってけっこう甘えますよね」
「いいだろ」
 ポテトをフォークに刺して差し出すと、創は嬉しそうに口に含んだ。綺麗な唇が開いて閉じる。その動きだけでもどきどきしてしまう。
「俺が遊んでた事実は消せないから、どうすることもできないけど」
「……?」
「もう実里しか見えないから、責任取れ」
 もしかして、創も自身の過去に対して責めを負っているのだろうか。どこかせつなげな表情に胸がきゅっと痛んだ。
 優しい人だな。
 実里がいなければそんな責めを感じなかったのかもしれない。でも今、たしかに実里がいるから、出会えたから、彼は過去の自分を許せないのかも。そう思ったらとてつもなく創が愛しくなった。
「遊び人の創さんも好きでしたよ。優しい人だってわかってましたから」
「そんなこと言ってくれるのは実里だけだよ」
 苦笑した創もポテトを口に運んでくれる。実里もお返しでチキンを創に食べさせ、寄り添う。少しもたれかかるようにしたら肩を抱いてくれた。
「こうやって実里がもたれかかってくれること、嬉しい」
「え?」
「実里はなんでも自分でかかえ込んで、ひとりで頑張ろうとするから。そういうとこも好きだけど、やっぱり俺は頼られたい」
 そっか、と安心できた。創は頼られたいのだ。これまでも態度で表してくれていたが、言葉にされたことでほっとした。甘えたり寄りかかったりすることで創の負担になるのが怖かった。でもそうしないことのほうが創には寂しいことなのだろう。
 ぐーっとわざと思いきり体重をかけると、笑いながら受け止めてくれた。よしよし、と頭を撫でられてこそばゆいような、落ちつかない気持ちになる。
「それでいい。実里が全体重かけても受け止める。実里が階段で落ちてきても受け止めただろ?」
「はい。恰好よかったです」
 思い出しても頬がぽうっとなる、ひと目惚れの瞬間だ。あのとき階段から落ちたことですべてが変わった。
「そういうこと。安心して寄りかかりなさい」
 腰に腕がまわり、ゆらゆらと揺すられるのが心地よくて目を閉じる。幸せだ。
「シャワー、一緒に浴びるか」
「だ、だめです!」
 これは甘い空気のまま流されるわけにはいかない。やはり創は面白くなさそうな顔をする。
「なんでだよ」
「……お風呂は明るいですし」
「わかった。今日は寝室も明るくする」
「だめです!」
 明るいとすべてが見えてしまう。創のように整った体躯ならばいいけれど、実里の貧相な身体を見せるなんて。そんなものを見ても嬉しくないだろう。
「シャワーは先にどうぞ。そのあいだに俺は寝室の照明全部つけておく」
「本当にやめてください……」
 冗談なのか本気なのかわからないが、背を押されて浴室に向かう。一度振り向いたらにこにこと手を振られ、小さく振り返す。本当に明るくするつもりかもしれない。
 順番で創がシャワーを浴びているあいだにこっそり寝室を覗くと、照明はついていなかった。ほっとしてドアを閉める。冗談でよかった。
 ソファに座ってミネラルウォーターを飲む。ひんやりとした水が喉から落ちていくのがわかり、シャワー後の火照った身体に気持ちいい。
「今夜はちょっと甘えてみようかな」
 勇気を出してみたら、喜んでくれるかもしれない。きゅっと手を握り込むのと同時に背後から腕がまわってきて、びくんと肩が上下する。
「大歓迎」
「えっ」
 慌てて振り返ると、濡れ髪の創が実里を抱きしめている。頬をすり寄せられ、くすぐったい。まだ肌がしっとりと水分を含んでいる。
「いっぱい甘えてくれよ」
「き、聞いてたんですか」
 恥ずかしくて、頑張ろうと思った気持ちが一気にしぼんだ。
「髪、まだ乾かしてなかったのか?」
「あ、忘れてました」
 寝室の照明のことが気になって、それどころではなかった。ドライヤーを持ってきた創が隣に座り、髪を乾かしてくれる。交代で実里も彼の髪を乾かそうとしたのに、ドライヤーを取りあげられた。
「俺はいい」
「だめです!」
 背伸びをしてドライヤーを取り、スイッチを入れる。しっとりと濡れて重くなった髪に温風を当てていくと、乾いたところからふわっとしてくる。こういうなにげない時間がすごく好きだ。
「実里のお父さんに会いたいな」
「え?」
「ちゃんとご挨拶しないといけないから、考えといて」
「えっと」
 それはつまり、親に挨拶をしてくれるということで。いや、そう言われたのだけれど理解が追いつかない。
「父に会ってくれるんですか?」
 再確認すると、創はゆっくりと、でもしっかりと頷いた。
「俺なんかで認めてもらえるかわからないけど」
「創さんは素敵な人です。父も絶対気に入ります」
「どうかな。過去のこと説明したら追い出されるかも」
 でも、と創は実里の髪を指で梳く。
「隠しごとしないできちんと全部話したい。認めてもらえなかったら、認めてもらえるまで通う」
「創さん……」
「実里が笑うときには、いつでも心から笑ってほしいから」
 ドライヤーをソファに置き、伸びあがって両腕を創の首にまわす。ぎゅうっと抱きついてもまだ足りないと力を込める。こんなに素敵な人に出会えたことを、どう感謝したらいいだろう。
「ありがとうございます」
 何度惚れさせたら気がすむのかなとも思ってしまう。際限なく好きになっていけることが、こんなに幸せだなんて知らなかった。
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