死にたがりの君へ

雨宮結城

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第4話 ストーカー

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 私と共に闘い、助けてほしい。その言葉は決して軽いはずはなく、一人の人間を救うと言うもの。

 「僕で、良いのかな」

 早矢川蓮太郎はやかわれんたろうは探偵でもなければ刑事でもない。ただの学生である彼には大き過ぎる使命。

 だが彼女は話す。

 「私がお願いをしているのは、今目の前にいる君だよ。私と君は学校が同じで、席もたまたま隣ってだけ。君が私を救う義理なんて存在しない。断っても、君に一切の非はない。元は私の問題だし。でも、もし君が手伝ってくれるなら、私は嬉しい」

 「……僕は、いや……理由なんていらない。貴女を助けます、橘奏たちばなかなでさん」

 怖くない訳じゃない。だが、ここで彼女を助けなければ、きっと後悔し、罪悪感に襲われるだろう、彼はそう直感した。

 助ける事に理由がなくたっていい、彼は彼女の為、自分の為、橘奏と協力する決心をつけた。

 「ありがとう、早矢川蓮太郎君。それで早速なんだけど」

 「家まで送る、でしょ?」

 「うん、お願いします」

 橘奏はストーカー被害にあっている。そんな彼女を一人帰らせる訳にはいかない。彼は家まで送って行きながら、知っている事と、これからの対策を考える事とした。

 「ストーカー被害と言ってたけど、警察にはもう連絡したんだよね?」

 「うん。交番に行って話した。結果としては、聞き入れてくれなかった」

 「どうして?」

 「助言の様な言葉だけもらった。なにせ証拠、いや証言の内容かな」

 「内容? 追われたのに?」

 「うん……でも怖くてよく覚えてないの。覚えている事と言えば、全身黒くて、フードを被っていた事かな、あと君と同じぐらいの背丈だと思う。 他はうる覚え」

 「俺と同じ……169cmぐらいか」

 「足の速さは、正直なんとも。と言うのも、捕まえる気が多分ない。家の場所を知られたくないから、遠回りして大通りの方まで行くと、それ以降は追ってきてない」

 「その後はまた交番に?」

 「行ったけど、また同じ助言止まり」

 「証拠か」

 「土地勘のお陰で逃げられたのは良かったんだけど、逃げた後だし、警察からすれば、私が嘘を言ってる事も、きっと薄々思ってる」

 「電車で言う痴漢冤罪みたいな?」

 「それと似たような感じかな。全員がとは言わないけど、証拠がないと警察の動きは基本無い。街ではきっと、色んな事件や事故が常に起こってる。そりゃあ確実な方へ行くよね」

 「パニックの最中、犯人をスマホで撮りながら、なんて無理だしね」

 「証拠にはなるだろうけど、私も専門家じゃないし。変に疑われるかもって考えちゃう」

 「警察が動くには証拠、ストーカー行為を証明できるものと言えば、脅迫の手紙やメール、電話……でも橘さんをストーキングしてる奴って」

 「知り合いかどうかなんて分からないし、思いたくないけど。手紙やメールがないから、多分手馴れてる」

 「ニュースとかで見るのは、有名人にガチ恋して、好きを知ってほしくてメールや手紙、更には電話とかあるけど、正直それらが無いとなると……橘さんを狙う理由が分からない」

 橘奏は学校内問わず、近くの学生ならば知らぬ者はいない程の美少女。

 早矢川蓮太郎はそれ故に、橘奏を好きな誰かがストーキング行為を行なっているとまず考えたが、証拠となる手紙やらが存在しない事から、一旦考えから外した。

 「蓮太郎君」

 「ん?」

 「家に着いたよ」

 「もう?」

 「うん。話しながら一応遠回りをして、後ろもちょくちょく見たけど、後を付けられた感じはなかったと思う。蓮太郎君はどう?」

 「俺も同じかな。ちょくちょく後ろとか見たけど、誰もいないし」

 「そっか。改めて、ホントありがとう」

 「え?」

 「正直言うとね。私一人じゃ、怖くて堪らなかったの。帰りたいのに、帰りたくないって言うか。帰るのが嫌で、怖くて」

 「橘さん……」

 「でも蓮太郎君が隣にいてくれたから、安心できた。ホントにありがとう」

 学校で強く振る舞う彼女だが、橘奏も一人の女の子。ストーキング行為なんて、とても怖くて堪らないもの、恐怖を感じて当然。

 更に一人でとなると、その恐怖は増すばかり。早矢川蓮太郎と言う一人の男子の存在は、彼女の心に、確かな安心を与えていた。

 「僕がしたいから、してるだけだよ。絶対、君を守る」

 「え…///」

 彼の一言に、思わず顔が赤くなる彼女。

 「もう……カッコイイな。君は」

 二人はまた明日学校でと言い、蓮太郎は自分の家に帰宅した。

 ~どこかの住宅路にて~

 一人の女性が、息を切らしながら、ただひたすらに走っていた。

 彼女は駅から誰かに付けられていると感じ、怖くて走り逃げていた。その最中、ふと後ろを見ると、全身黒くずめのフードを被った誰かが立っていた。

 怖くなり彼女は、全速力で家まで走っていた。

 アパートの家に着き、カバンから鍵を出そうとするが、怖くて手が震えていた。

 「早く! 早く! 鍵どこ!」

 怖くて堪らない、早く家に。その焦りが、逆に奥の方にある鍵の存在に気づかなかった。

 「あ! あった!」

 ようやく鍵を見つけた彼女。だが後ろからハンカチで口を塞がれる。

 「ん!」

 激しく抵抗するが、だんだんと意識が遠のき、彼女は気を失ってしまう。

 その後鍵を手にした謎の人物は、ドアを開け、気を失った女性を引きずりながら、家の中へと消えた。
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