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Part 1
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四月、桜が咲き春が訪れる季節。多くの学生にとって、始まりの季節と言っても過言ではない。
高校、大学、専門学校、新たな学校へ、出会いの為、知識を学ぶ為、人によって様々だが、その一歩を踏み出す為、彼らは向かう。
「ちょっと早く来すぎちゃったな」
光村哉汰、彼もまた新たな世界へと踏み出す一人の青年だ。
「かなた~」
そんな青年に走りながら声をかけた一人の少女、野村佳奈。
「ごめん……準備に時間かかっちゃって」
「大丈夫だよ。 僕も今来た所だから」
「ありがとう。それじゃあ行こ……かなた」
「うん!」
二人は学校まで徒歩十分の距離にある駅前で待ち合わせをしていた。
約束の時間十分前に着いた哉太と五分前に着いた佳奈。
二人は中学時代の同級生で、二年生に進学し、同じクラスになった時に知り合い仲良くなった。
お互い口には出さないが、哉太は佳奈が、佳奈は哉太が異性として好きなのだ。
だが口に出していないが為に、相手が自分の事を異性として好きだと気づいていない。
二人の関係は、友達以上恋人未満というような形である。
「ねえ哉太、哉太は高校では何部に入部するの?」
「え……僕は」
「もしかして……高校でも帰宅部?」
「それは……その」
「皆気づいてないけど、哉太は運動神経良いんだから、運動部に入れば良いのに」
「僕は普通だよ。それに運動部特有のテンションとか苦手で……自信ないよ」
「大丈夫だよ。この前だって凄い動きで私を助けてくれたじゃん」
「あの時は……必死だったんだ。佳奈が危うく自転車にぶつかる所だったから」
「でもそのおかげで……私はここにいるよ。哉太って自分に対して結構ネガティブに捉えちゃってるけど、私は……私だけは哉太の良い所……ちゃんと知ってるから」
「佳奈」
「まあ運動部への強制はしないけどさ、皆にも哉太の良い所を知ってほしいんだよね。私もマネージャーになって……哉太を支えるから」
「でも僕……得意なスポーツとかないからな」
「あ……でもマズイかな」
「? なんで?」
「哉太ってスタイルいいし、その上運動神経も抜群……モテちゃう」
「え……モテ、え……えー! いやいやいや、僕なんてモテないよ」
「でも女子にキャーキャー言われたら嬉しいでしょ」
「それは……」
「どうなのよ」
「嬉しくないことは……ないけど……」
「そうだよねー……哉太も男の子だもんねー」
「どういう意味さぁ」
「運動部じゃなくて文芸部系の方が良いのかな」
「どっちだよ~」
「まあなんにせよ……哉太が行く部活には私も行くから」
「え……佳奈も?」
「なにかご不満でも?」
「いや! むしろそのぎゃ」
「ぎゃ?」
「な……なんでもない!」
「なによー……そこまで言ったなら最後まで言いなさいよー」
「恥ずかしいよ」
「え……まさか……なにかエッチな事?」
「違うから!」
「ふーん……ほんとに?」
「ホントだよ!」
「__まあそういう事にしておいてあげるわ」
「(良かったぁ……むしろその逆なんて言ったら……告白同然の行為だし……恥ずかしい)」
「ん……ねえ哉太」
「? どうしたの佳奈」
「あの人、なんか怪しくない?」
「え?」
佳奈は前方から歩いてくる。フードを被り顔が見えない上に、ポケットに手を突っ込んでフラフラで歩いている怪しい人物を見つける。
「なんか怖いね」
「うん」
フラフラで歩いていた為、通行人にぶつかってしまう。
「……!」
その時、フードの人物のポケットからなにかが落ちた音が聞こえ、その音は金属音だった。
「え……ねえ哉太……あれって」
落ちたのは包丁だった。
「包丁だ」
「くっ! あぁぁあぁ!」
その人物は、冷静さがなく、視界に入った目の前の会社員の男を刺し、次に視界に入った佳奈の方へ、走って向かってきた。
「あぁぁ!」
「!」
佳奈はあまりの恐怖に身体が動かなかった。このまま刺されると思った佳奈。
だがその状況の中、哉太は動いた。
「佳奈!」
哉太は佳奈の前に出た。その時の哉太は頭が真っ白だった。佳奈を助けなければ、その思いのみが哉太を動かした。
そして次の瞬間、哉太の腹に激痛と冷たさが走った。
「んっ!」
「哉太! だいじょ……」
佳奈の視界には、哉太の下にポタポタと落ちる赤い液体、血が映りこんだ。
「キャー!」
その光景に、周りの人も反応し、その辺りは騒ぎになった。
「おい警察!」
「刺されたぞ!」
「子供が刺されて……そうです! 早く!」
哉太を刺した通り魔は、薬をやっていたのか、口から泡を出し、その場で倒れた。
「哉太! ねぇ……哉太!」
「あか……な」
「嘘だよね……嘘だと言ってよ! やだ……哉太が死ぬなんて……私ヤダよ!」
「(あれ……なんだか……意識が……佳奈の声……聞こえない。佳奈が泣いてる……あれ……手が……動かない)」
「哉太……戻ってきて!」
「(か……な……ヤバい……色々思い出してきた、これ走馬灯だ。 僕……死ぬのか。 こんな所で)」
「哉太! 哉太!」
佳奈の声がどんどんと遠くなっていくのを感じる哉太。
「(まだ佳奈に……告白……できてないのに。嫌だ……死にたくない。まだ……生きたい)」
死にたくないと願う哉太、そんな彼の元に、ある声が聞こえた。
「__きたい?」
「(え……なんだ……なにか……聞こえる)」
「生きたい?」
「(生きたい? そうだ……まだ死にたくない。僕は……生きたい!)」
その瞬間、彼の意識は時間にして十秒間だけ停止した。
そして彼が目を覚ますと、現実ではない、どこか分からない謎の空間にいた。
「__ここは……」
「目が覚めましたか?」
「声?」
声の方へ顔を向けると、そこには一人の少女がいた。
「君は……」
「私の名前はセラ。女神セラです」
「女神?」
「はい。光村哉太さん、貴方はつい先程、不幸にも亡くなってしまいました」
高校、大学、専門学校、新たな学校へ、出会いの為、知識を学ぶ為、人によって様々だが、その一歩を踏み出す為、彼らは向かう。
「ちょっと早く来すぎちゃったな」
光村哉汰、彼もまた新たな世界へと踏み出す一人の青年だ。
「かなた~」
そんな青年に走りながら声をかけた一人の少女、野村佳奈。
「ごめん……準備に時間かかっちゃって」
「大丈夫だよ。 僕も今来た所だから」
「ありがとう。それじゃあ行こ……かなた」
「うん!」
二人は学校まで徒歩十分の距離にある駅前で待ち合わせをしていた。
約束の時間十分前に着いた哉太と五分前に着いた佳奈。
二人は中学時代の同級生で、二年生に進学し、同じクラスになった時に知り合い仲良くなった。
お互い口には出さないが、哉太は佳奈が、佳奈は哉太が異性として好きなのだ。
だが口に出していないが為に、相手が自分の事を異性として好きだと気づいていない。
二人の関係は、友達以上恋人未満というような形である。
「ねえ哉太、哉太は高校では何部に入部するの?」
「え……僕は」
「もしかして……高校でも帰宅部?」
「それは……その」
「皆気づいてないけど、哉太は運動神経良いんだから、運動部に入れば良いのに」
「僕は普通だよ。それに運動部特有のテンションとか苦手で……自信ないよ」
「大丈夫だよ。この前だって凄い動きで私を助けてくれたじゃん」
「あの時は……必死だったんだ。佳奈が危うく自転車にぶつかる所だったから」
「でもそのおかげで……私はここにいるよ。哉太って自分に対して結構ネガティブに捉えちゃってるけど、私は……私だけは哉太の良い所……ちゃんと知ってるから」
「佳奈」
「まあ運動部への強制はしないけどさ、皆にも哉太の良い所を知ってほしいんだよね。私もマネージャーになって……哉太を支えるから」
「でも僕……得意なスポーツとかないからな」
「あ……でもマズイかな」
「? なんで?」
「哉太ってスタイルいいし、その上運動神経も抜群……モテちゃう」
「え……モテ、え……えー! いやいやいや、僕なんてモテないよ」
「でも女子にキャーキャー言われたら嬉しいでしょ」
「それは……」
「どうなのよ」
「嬉しくないことは……ないけど……」
「そうだよねー……哉太も男の子だもんねー」
「どういう意味さぁ」
「運動部じゃなくて文芸部系の方が良いのかな」
「どっちだよ~」
「まあなんにせよ……哉太が行く部活には私も行くから」
「え……佳奈も?」
「なにかご不満でも?」
「いや! むしろそのぎゃ」
「ぎゃ?」
「な……なんでもない!」
「なによー……そこまで言ったなら最後まで言いなさいよー」
「恥ずかしいよ」
「え……まさか……なにかエッチな事?」
「違うから!」
「ふーん……ほんとに?」
「ホントだよ!」
「__まあそういう事にしておいてあげるわ」
「(良かったぁ……むしろその逆なんて言ったら……告白同然の行為だし……恥ずかしい)」
「ん……ねえ哉太」
「? どうしたの佳奈」
「あの人、なんか怪しくない?」
「え?」
佳奈は前方から歩いてくる。フードを被り顔が見えない上に、ポケットに手を突っ込んでフラフラで歩いている怪しい人物を見つける。
「なんか怖いね」
「うん」
フラフラで歩いていた為、通行人にぶつかってしまう。
「……!」
その時、フードの人物のポケットからなにかが落ちた音が聞こえ、その音は金属音だった。
「え……ねえ哉太……あれって」
落ちたのは包丁だった。
「包丁だ」
「くっ! あぁぁあぁ!」
その人物は、冷静さがなく、視界に入った目の前の会社員の男を刺し、次に視界に入った佳奈の方へ、走って向かってきた。
「あぁぁ!」
「!」
佳奈はあまりの恐怖に身体が動かなかった。このまま刺されると思った佳奈。
だがその状況の中、哉太は動いた。
「佳奈!」
哉太は佳奈の前に出た。その時の哉太は頭が真っ白だった。佳奈を助けなければ、その思いのみが哉太を動かした。
そして次の瞬間、哉太の腹に激痛と冷たさが走った。
「んっ!」
「哉太! だいじょ……」
佳奈の視界には、哉太の下にポタポタと落ちる赤い液体、血が映りこんだ。
「キャー!」
その光景に、周りの人も反応し、その辺りは騒ぎになった。
「おい警察!」
「刺されたぞ!」
「子供が刺されて……そうです! 早く!」
哉太を刺した通り魔は、薬をやっていたのか、口から泡を出し、その場で倒れた。
「哉太! ねぇ……哉太!」
「あか……な」
「嘘だよね……嘘だと言ってよ! やだ……哉太が死ぬなんて……私ヤダよ!」
「(あれ……なんだか……意識が……佳奈の声……聞こえない。佳奈が泣いてる……あれ……手が……動かない)」
「哉太……戻ってきて!」
「(か……な……ヤバい……色々思い出してきた、これ走馬灯だ。 僕……死ぬのか。 こんな所で)」
「哉太! 哉太!」
佳奈の声がどんどんと遠くなっていくのを感じる哉太。
「(まだ佳奈に……告白……できてないのに。嫌だ……死にたくない。まだ……生きたい)」
死にたくないと願う哉太、そんな彼の元に、ある声が聞こえた。
「__きたい?」
「(え……なんだ……なにか……聞こえる)」
「生きたい?」
「(生きたい? そうだ……まだ死にたくない。僕は……生きたい!)」
その瞬間、彼の意識は時間にして十秒間だけ停止した。
そして彼が目を覚ますと、現実ではない、どこか分からない謎の空間にいた。
「__ここは……」
「目が覚めましたか?」
「声?」
声の方へ顔を向けると、そこには一人の少女がいた。
「君は……」
「私の名前はセラ。女神セラです」
「女神?」
「はい。光村哉太さん、貴方はつい先程、不幸にも亡くなってしまいました」
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