北村くんは秘密主義

雨宮結城

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第一章 学園編

Battle 3

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 HRが終わり、1時間目の授業が始まるまでの空白のタイミングで、北村春来きたむらはるきは先輩である河西魔夜かわにしまやに教室を出てすぐの階段の前に呼ばれた。

「えっと……魔夜先輩。 ご用と言うのは」

「これ、北村君のだよね?」

 そう言って河西魔夜は、ポケットから北村春来の学生証を出した。

「あ!  これ僕の」

「やっぱり!  帰り道でたまたま見つけて、同じ学校みたいだったし、もしかしたらと思って」

「わざわざ拾ってくれたんですね。 ありがとうございます……魔夜先輩」

「無事に渡せて良かった。 それでね、北村君」

「はい?」

「今日の放課後……ちょっと時間あるかな?」

「あ、はい。放課後は特に用事がないので、大丈夫ですけど……」

「良かった。 実はちょっと付き合ってほしい場所があって」

「ここじゃ話しにくい事なんですか?」

「うん。  だからこれは、私と北村君、2人だけの秘密ね」

「ひ、秘密!」

「……じゃあ、放課後校門の所で待ってるから、よろしくね、北村君」

 そう言うと河西魔夜は、自分の教室へと去っていった。

 北村春来はと言うと、2人だけの秘密と言われ、顔が真っ赤になるほどに、割と浮かれていた。

「(2人だけの秘密、秘密かぁ……)ど、どうしよう、放課後まだなのに、なんか緊張してきた」

 そんな事を言いながら、北村春来は自分の教室へと戻った。

 そんな彼を、上の階段で聞いていた人物がいた。 鷹村遥たかむらはるか、3年生だ。

 そして、時は早くも16時、放課後の時間になり、北村春来は言われた通り校門の方まで向かい、そこで待っている1人の少女が目に映る。

「あ! 北村君」

「すいません魔夜先輩。  お待たせしちゃいました」

「ううん、私も今来た所だったし、気にしないで」

 河西魔夜は笑顔で答える。

「じゃあ行こっか、北村君」

「あ、はい!」

 なにか話さなければと思う北村春来だったが、初対面かつ相手が女の子であり先輩でもある為、沈黙が続いた。

「(ヤバい、なんか気まずいな。なにか、なにかを話題出さなきゃければ)えっと、魔夜先輩は、いつもこの道から帰っているんですか?」

「ううん、普段は別の道から帰ってるかな。 私人と話すのは好きなんだけど、会話の内容だったり、伝えたい事が空回りしちゃって、上手く伝えられなくて」

「え、なんか意外ですね」

「そう?」

「だって魔夜先輩って、なんでも器用にこなす人だと思ってましたから」

「そんなことないよぉー」

 笑いながら彼女は答えた。

「私結構不器用なんだよ?  でもそうね、器用に見えたのは、そう在らなきゃって思ったからかなー」

「そう在らなきゃって、どうしてです?」

「北村君は知ってる? 私と鷹村先輩が、裏で何て呼ばれているか」

「!  そ、それは……」

「その様子じゃ知ってそうね」

「あ……はい」

「別に怒ってないのよ。 表と裏の美少女、男子が勝手に付けた呼び名」

「知っていたんですね」

「そりゃあね」

「じゃあ、どうして」

「どうしてって?」

「だって、勝手に裏で呼び名を決められて、でも魔夜先輩は、いつもと変わらず挨拶とかして、今日だって」

「__君は優しいね」

「え!?」

「まあ、男子ってそんな感じなんだろうなぁって思ってたから、勝手に裏で呼ばれていた事も、今となっては全然気にしていないのよ」

「……」

「そんな顔しないで……別に北村君に言ってる訳じゃないからさ」

「今日僕を呼んだのは、その事について、改めて事実であるか確認する為、なんですか?」

「ううん。それとは別で、北村春来君、君に興味があるの」

「え……」

「この場所知ってる?」

「え、いや、ただの道ですし、見覚えなん……て……!?」

 北村春来はある事に気づいた。河西魔夜との会話で気づかなかったが、立ち止まり辺りを見ると、そこは前日、北村春来がトラックに乗っていた山中京也という男に襲われた場所だったのだ。

「どうかしたの、北村春来君。 なんか汗かいてるけど」

「!  すいません。でも、ここがどうかしたんですか?」

「北村君はニュースとか見るかな。  ここで昨日、トラックに乗っていた男性が居眠り運転でね、そこの電柱でぶつかってしまったんだって」

「クラスでその話が聞こえて、それで知ってるレベルです」

「あんまり驚かないのね」

「え……」

「ここなんだよね」

「?」

「私が、北村君の学生証を拾った場所」

「!」

 その言葉を聞いて北村春来は焦りを感じた。

「北村春来君、君、なにか皆に隠している事、あったりするのかな」

「(ヤバい、どうしよう。 この人はどこまで知ってる? 全部? いや、それならわざわざ探りをいれる真似はしない、狙いはきっと別にある。でもそれはなんだ)」

「私、父さんを殺した奴を許せないんだよね」

「……父さんを殺した?」

「ニュースで事故って言われるけど、私はその場にいたから、全部知ってるのよ」

「(この人は、あのトラック運転手の、娘……)」

 昨日殺した男が、学校の先輩の父親だった。そう聞いた北村春来は、複雑な感情になり、なんて答えれば良いか分からなかった、だが河西魔夜は、そんな北村春来の表情を見て、確信した。

「山中京也」

「!?」

「殺したのは、君だったんだね。 北村春来君」

「いや、その、僕は……ただ」

「君は分かりやすいね」

「え……」

「その返事で確信したわ。貴方もこっち側だったのね」

「こっち……側?」

 河西魔夜の言葉に北村春来は戸惑っていた。彼女が何を言っているのか、まるで分からなかったからだ。

と一緒に、来てくれないかな?」

「私たち?  !?」

 その言葉を聞いて、北村春来はすぐに能力を使い、周囲に人間がいるかの確認を行なった。

 その結果、河西魔夜を除いて、2つの反応があった。 1つは河西魔夜のすぐ近く、そしてもう1つは、学校の方角からだった。

「(この人は、僕と同じ、超能力……)」

 北村春来は考えた。この場から去る方法を。

「(急いでこの場から、でも、この人とは学校も同じだし、いやでもそんな事言ってる場合じゃ、ちくしょう、どうすれば)」

 そんな中、後ろから能力の反応があった。

「!?」

 後ろを振り向くと、そこにいたのは、丸山高校で裏の美少女と呼ばれていた。 3年の鷹村遥だった。

 驚きと同時に、北村春来は自身でも分からないが、なぜか彼女を見たその瞬間、涙がこぼれていた。
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