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15.お預けは失敗だった?
しおりを挟むキスなどの微エロ程度です。初夜は事後語りで。
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震える手で瓶を持ち、蓋を恐る恐るとろうとして、エルリック様を見た。
期待する目に輝き、じわじわとにじり寄ってくる姿に危機感を覚えた。
そこで、はたと気付く。
なぜ俺が今飲まなければならないんだ?
「ルクレオン?」
俺の手が止まったことに気付いたエルリック様が「どうした?」というように声をかけてくる。
「俺の覚悟が出来るまで待つと言ってくれたのは、嘘だったんですか?」
俺は手にした薬をサイドテーブルに戻しべながら、問いかけてくる彼をじっと睨みつけた。
「え……? ……あ、え……」
思うように俺を誘導できなかったからか、見るからに彼は狼狽えだした。
「いや、その……。
俺も飲んだら……安心できるかなぁっと……」
恐る恐る俺の顔を窺い、言い訳してくる。
「貴方が飲んでも妊娠しないのでしょう? それで俺が安心出来るとでも?」
毒ではないのだ。死ぬことはないかもしれない。
だが、やはり男が妊娠するという事態に未知の恐怖を感じる。
過去の王はどうやってその恐怖に打ち勝ったのかと思う。
ただ、そうまでしても魔力量の多い子孫が欲しかったのだろうか。
「もう少しで流されるとこでした……」
いずれはこの薬を飲むとしても、今でなくてはならない理由にならない。
そもそも待つと言ってくれた筈のこの男がフライングで飲んだのが悪い。
焦って俺も飲まないといけない雰囲気に流されそうになった。
「う……。
せっかく結婚したのにずっとお預けなんて……」
ずっと…って、結婚してからまだ三日目だ。
そもそも俺がこの屋敷に連れてこられた日にちゃっかり抱いたくせに何を言ってるのか。
「貴方が勝手に結婚を推し進めたのが悪いんでしょうが!」
まったく、少しも反省してないじゃないか。
「あと五日間、お触りも禁止です!!」
「ええぇぇ!? これから五日間? もう三日もお預けなのに?」
「破ったら、出ていきますよ」
「一週間、休みをとってたんだが……」
エルリック様は俺の台詞に悄然としながらも悪あがきを試みてくる。
成程、新婚生活の為に一週間の休みをとっていたということか。だが、俺の知ったことではない。
「知りません。指一本触れたら出ていきます」
最後通牒を突き付けてやると、エルリック様はがっくりと項垂れた。
ふんっ! 今まで振り回されたんだ。このぐらいは許される筈だ。
……まさかこのことが後々後悔を産むとは思わなかった。
それから本当に指一本触れさせないでいたら、エルリック様の顔つきがだんだんと悪くなっていった。
毎日食事の席で顔を合わせる度に俺をジト目で見てくるのだが、目つきの座りようが酷くなっている。
合計八日間のお預けはエルリック様には厳しかったか。
そういえば、コーデリア様のせいで娼館通い出来なかった時も段々目つきが悪くなって、部下に八つ当たりしてたっけ。
このままだとエルリック様が休み明けに部下たちに厳しく当たるのは確定だ。
私情を職場に持ち込まれても困る。
今の俺には関係ないとはいえ、元部下たちを苦しめたいわけではない。
エルリック様の最後の休みの日、俺は覚悟を決めて妊娠薬を持って彼の部屋へ向かった。
俺から歩み寄るのも癪だが、ここで一旦気を静めさせとかないと後が大変だ。
深呼吸してから彼の部屋の扉をノックする。
扉を開けたエルリック様は俺の顔を見て驚いた表情を見せた。
「ルクレオン?」
「入っていいですか?」
「あ、ああ……」
指一本触れるなと言っていた俺が彼の部屋に来たことを不思議に思ったのだろう。
呆然としながら俺を部屋へ招き入れた。
俺はすたすたと彼の寝台まで近づいて、そこに座った。
彼はまだ戸惑っている。
俺に近づいていいものか、推し量っているのだろう。手が中途半端な位置で止まったままだ。
俺はそんな彼にクスリと笑うと、声をかけた。
「もういいですよ。エルリック様」
「…え?」
まだ戸惑う彼に寝台をぽんぽんと叩いて促す。
「……いいのか? まだ五日経ってないぞ」
「もういいんです。日に日にあなたの顔が怖くなっていくのを見ていると、明日からの騎士団員達の境遇を思えば不憫にな……んぅっ」
俺の言葉に徐々に表情を明るくしていったエルリック様は、俺の言葉が終わるのを待たずに口づけてきた。
クチュ、クチュリ
濡れた音だけがしばらく続く。
気が付けば俺は寝台に押し倒されていた。
唇を解放したエルリック様が至近距離で俺の目を覗き込み、真摯に問いかける。
「本当に……いいんだな?」
「ええ」
肯定した途端、エルリック様の雰囲気が獰猛なものに変化する。
俺は気圧されて身動きが取れなくなった。
一瞬、許可したことを後悔したが一日早まっただけだと自分に言い聞かせた。
そこから先は言わずもがなだろう。
初夜を我慢させた抑圧が一気に爆発したらしい。
俺は猫に甚振られる鼠のように翻弄されるしかなかった。
途中で何度気を失ったか判らない。とにかく俺は声も出ない程抱き潰された。
エルリック様が仕事に出かけた後、何度か執事のジルバさんが様子を見に来たらしいが、俺は前後不覚に眠っていたようだ。
仕事から帰ってきたエルリック様が俺に触れるまで目が覚めなかったのだ。
その日は腕一本持ち上げられず、声も出ないまま寝台から離れることが出来なかった。
そんな俺をエルリック様は嬉しそうに甲斐甲斐しく世話をしてきた。
飲み物は口移しだし、食欲がない為食事も首を振って断ると、具のないスープを口移しで飲まされた。
風呂も全て彼が世話をしてくれたが、ものすごい羞恥に居たたまれなかった。
拒否したくても声は出ず、身体も動かせない為にどうしようもなかった。
エルリック様の絶倫ぶりを甘く見ていた。
次の日は一応俺の身体を案じて抱き枕にして寝ていたから、一応落ち着いたと思ったのだが……。
まさか五日間も寝台の上で過ごすことになるとは思わなかった。
七日も禁欲させたのが悪かったのか……?
いやしかし、あのままなし崩しで初夜を迎える気には到底なれなかった。
どちらに転んでも俺には踏んだり蹴ったりでしかない。
この五日間のエルリック様の執着振りを見ていれば、最初から受け入れていたとしても寝台から出して貰えなかったことは容易に想像がつく。
これがエルリック様の休暇中であれば、昼間も寝かせて貰えなかったのだろうか……。
想像したくないことを思ってしまい、俺はぶるりと肩を震わせた。
例の妊娠薬を飲んで五日経ったので、宮廷魔術師長官のバクローリッド様に診て貰わなければならない。
エルリック様に連れられて王宮へと向かったのは夕方だった。
昼まで起きられず、立って歩けるようになるまで時間がかかったのだ。
昨夜も何度も手加減してくれと言ったが無駄だった。
エルリック様に支えて貰いながら歩みを進めるが、原因となった男を恨めし気に睨む。
俺の視線に気づいた彼は上機嫌で俺の腰を支える手に力を込めてきた。
嫌みを言いたくてもその気力もなく、俺は深いため息を一つ吐いた。
「お体に異常はありませんか?」
バクローリッド様は俺の身体に掌を向けながら問いかけてきた。
魔力で俺の全身を診ているのだろう。
「ええ、怠い以外は特には」
そう言いながら、元凶を睨む。
妊娠薬を飲む前はあれだけ怖いと思っていたのが、エルリック様の絶倫ぶりのおかげかどうかわからないが、飲んだ後の恐怖が無くなってしまっていた。
実のところ、俺が飲んだというよりエルリック様が口移しで飲ませてきたため、それが水か妊娠薬か意識しないまま飲まされていたというのが真相だ。
その状態で気づけば五日過ぎていたのだ。
「妊娠薬による異常は特になさそうですね。ではこのまま様子を見るとしましようか」
バクローリッド様は次の妊娠薬を俺に渡してきた。
今度は五本ではなく七本ある。
「前より本数は多いですが、異常がなくてもその七本使ったらまた来てくださいね。もちろん異常があればその都度来るようにして下さい。
エルリック様もルクレオン殿に無理をさせないで下さいね」
「……わかっている」
俺がエルリック様の支えなしに歩けないことを悟ったバクローリッド様の言葉に、バツが悪そうにエルリック様は答えた。
本当に分かっているのかと問い詰めたいが、バクローリッド様の前だ。
俺は言葉を飲み込んだ。
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最終的にはがっつりR18にするつもりですが、今のところはさらりと流します。
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