1 / 10
1.始まりの結婚式
しおりを挟む
「君を愛する気はない」
本日、私レシール・リディーアと結婚をした旦那様セルト・クルーシアには婚約前からある噂があった。
「極度の女嫌いだ」、と。
私だって一公爵令嬢として政略結婚を受け入れる覚悟はあるが、女だからと舐められるのは冗談じゃない。
何より私は「女」という括りで相手の本質を見ないような人間は嫌いだった。
しかし所詮噂は噂、相手のことは直接会うまで分からないと考えていた。
にもかかわらず、私の旦那様セルト・クルーシアは結婚式当日まで私に会おうともしなかった。
相手は同じ爵位の公爵家といえど、公爵家の中では相手の方が力が強い。
私の家が言い返せないことも、文句の一つも言えないことも、分かっての対応だろう。
だから結婚式当日に初めて会った旦那様にこう言われても何も驚きもしなかった。
結婚式を無事に終えて、初めて二人きりになった瞬間だった。
「君を愛する気はない」
むしろよくそんな女嫌いの常套句のような言葉を仰ることが出来る、と驚いたくらいだった。
きっと今までそういう風に言えば、目に涙を溜めて身体を震わせて逃げていくご令嬢ばかりだったのだろう。
別にこれからこの人と関わらないで済むのなら、私だって泣いて逃げている。
しかし、そうはいなかい。
だって、私とこの人は今日結婚したのだから。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
「は?」
その時のセルト様の表情は眉間に皺がより、両目の目尻は吊り上がり、まさに怒っていると誰が見ても分かる表情だった。
「だってそうでしょう? 結婚した相手から逃げるなんて、ただのクズ夫ですわ」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
何より結婚当日に妻に「愛する気はない」と仰る旦那様の方が不敬だろう。
「レシール、自分が何を言っているのか分かっているのか」
「あら、ちゃんと名前で呼んで下さるのですね。セルト様」
私のそんな返答に分かりやすくセルト様の表情がさらに険しく変わる。
「セルト様。いくら政略結婚といえど、全く妻と向き合わずに結婚生活が送れるとお思いで?」
「仮面夫婦などこの世に数えきれないほどいるだろう」
「それで上手くいくのは両方が納得している場合だけですわ。私は全く受け入れておりませんもの」
セルト様が険しい表情のまま、私に一歩近づいた。
今まで逃げていく令嬢や離れていく令嬢ばかりだったのだろうと思うと、セルト様から一歩近づけさせられただけで私は勝利したような気分だった。
「レシール・リディーア。何を望む?」
それは叶えてくれるという意味ではない。
ただ純粋に私の思惑が気になっているだけだろう。
何か裏がある、そう私は疑われている。
「目を合わせて、逃げずに、私と向き合って下さいませ。私は良好な夫婦生活を望んでいる。それだけですわ」
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「損得勘定の話ではないのですけれど……まぁ良いですわ。セルト様にとっての一つの得をお教えします」
私には公爵令嬢らしく微笑み、口元に人差し指を当てて、自慢げな表情を浮かべる。
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
旦那様の険しい表情の中に少しだけ勝気が笑みが見えた気がした。
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それがどこまでも強気な令嬢レシール・リディーアとこれから強気な令嬢に振り回される公爵子息セルト・クルーシアの結婚初日の出来事だった。
本日、私レシール・リディーアと結婚をした旦那様セルト・クルーシアには婚約前からある噂があった。
「極度の女嫌いだ」、と。
私だって一公爵令嬢として政略結婚を受け入れる覚悟はあるが、女だからと舐められるのは冗談じゃない。
何より私は「女」という括りで相手の本質を見ないような人間は嫌いだった。
しかし所詮噂は噂、相手のことは直接会うまで分からないと考えていた。
にもかかわらず、私の旦那様セルト・クルーシアは結婚式当日まで私に会おうともしなかった。
相手は同じ爵位の公爵家といえど、公爵家の中では相手の方が力が強い。
私の家が言い返せないことも、文句の一つも言えないことも、分かっての対応だろう。
だから結婚式当日に初めて会った旦那様にこう言われても何も驚きもしなかった。
結婚式を無事に終えて、初めて二人きりになった瞬間だった。
「君を愛する気はない」
むしろよくそんな女嫌いの常套句のような言葉を仰ることが出来る、と驚いたくらいだった。
きっと今までそういう風に言えば、目に涙を溜めて身体を震わせて逃げていくご令嬢ばかりだったのだろう。
別にこれからこの人と関わらないで済むのなら、私だって泣いて逃げている。
しかし、そうはいなかい。
だって、私とこの人は今日結婚したのだから。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
「は?」
その時のセルト様の表情は眉間に皺がより、両目の目尻は吊り上がり、まさに怒っていると誰が見ても分かる表情だった。
「だってそうでしょう? 結婚した相手から逃げるなんて、ただのクズ夫ですわ」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
何より結婚当日に妻に「愛する気はない」と仰る旦那様の方が不敬だろう。
「レシール、自分が何を言っているのか分かっているのか」
「あら、ちゃんと名前で呼んで下さるのですね。セルト様」
私のそんな返答に分かりやすくセルト様の表情がさらに険しく変わる。
「セルト様。いくら政略結婚といえど、全く妻と向き合わずに結婚生活が送れるとお思いで?」
「仮面夫婦などこの世に数えきれないほどいるだろう」
「それで上手くいくのは両方が納得している場合だけですわ。私は全く受け入れておりませんもの」
セルト様が険しい表情のまま、私に一歩近づいた。
今まで逃げていく令嬢や離れていく令嬢ばかりだったのだろうと思うと、セルト様から一歩近づけさせられただけで私は勝利したような気分だった。
「レシール・リディーア。何を望む?」
それは叶えてくれるという意味ではない。
ただ純粋に私の思惑が気になっているだけだろう。
何か裏がある、そう私は疑われている。
「目を合わせて、逃げずに、私と向き合って下さいませ。私は良好な夫婦生活を望んでいる。それだけですわ」
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「損得勘定の話ではないのですけれど……まぁ良いですわ。セルト様にとっての一つの得をお教えします」
私には公爵令嬢らしく微笑み、口元に人差し指を当てて、自慢げな表情を浮かべる。
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
旦那様の険しい表情の中に少しだけ勝気が笑みが見えた気がした。
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それがどこまでも強気な令嬢レシール・リディーアとこれから強気な令嬢に振り回される公爵子息セルト・クルーシアの結婚初日の出来事だった。
72
あなたにおすすめの小説
さようなら、私の王子様
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「ビアンカ・アデライド、お前との婚約を破棄する!」
王太子リチャードの言葉に対し、侯爵令嬢ビアンカが抱いたのは怒りでも哀しみでもなく、「ついにこの時が来たか」という感慨だった。ビアンカにしてみれば、いずれこうなることは避けられない運命だったから。
これは二度の婚約破棄を経験した令嬢が、真実の愛を見つけるまでのお話。
“妖精なんていない”と笑った王子を捨てた令嬢、幼馴染と婚約する件
大井町 鶴
恋愛
伯爵令嬢アデリナを誕生日嫌いにしたのは、当時恋していたレアンドロ王子。
彼がくれた“妖精のプレゼント”は、少女の心に深い傷を残した。
(ひどいわ……!)
それ以来、誕生日は、苦い記憶がよみがえる日となった。
幼馴染のマテオは、そんな彼女を放っておけず、毎年ささやかな贈り物を届け続けている。
心の中ではずっと、アデリナが誕生日を笑って迎えられる日を願って。
そして今、アデリナが見つけたのは──幼い頃に書いた日記。
そこには、祖母から聞いた“妖精の森”の話と、秘密の地図が残されていた。
かつての記憶と、埋もれていた小さな願い。
2人は、妖精の秘密を確かめるため、もう一度“あの場所”へ向かう。
切なさと幸せ、そして、王子へのささやかな反撃も絡めた、癒しのハッピーエンド・ストーリー。
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です
有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。
ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。
高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。
モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。
高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。
「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」
「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」
そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。
――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。
この作品は他サイトにも掲載しています。
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる