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01 モテ過ぎ
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最近、どうも同僚のギルの様子がおかしい。
それ自体、特に私には実害はないんだけど、同じ部署に勤めている近しい距離感の同僚なので、変な態度を取られればやはり気になってしまうものである。
そして、私には、もしかしたらこれが原因だったのかもしれないと睨んでいる、とある出来事があった。
一週間ほど前にギルと話をしていた時に、長い髪を纏めて上げていた私の首筋に赤い痕が出来ていたらしく『なんだよ。キスマークか?』と、彼に揶揄われた。
自分ではそれが何かは確認出来ない位置だったけれど、多分、そろそろ暖かくなり湧き出した虫に噛まれてしまっていたんだと思う。生まれてからこの方、そんな場所にキスマークが出来るような状況に私は居た事がなかった。
だけど、ややこしい案件の予算希望の提出書類と格闘していた私は『それは違う』と、言い訳のように否定するのというもなんだか億劫で『……うん。虫刺され』と、正直に言って彼氏居ないネタいじりをされるのが面倒で、『ああ。首にもついてる?』と、彼の質問を適当に流した。
ギルがその時にそれについてどういう対応をしたのかは、あまり覚えていない。あの時の私には、目の前の書類の方が大事だった。
……そう。当の本人の私から見ると、その程度で軽い出来事だったから、何が悪かったのかがわからない。
けれど、それからというもの、ただの同僚であるはずのギルは私への態度が目に見えておかしくなってしまった。
これは自分の失敗を言い訳をするようになってしまうけど、自他ともに認める話下手な私のこなれた大人同士の冗談を真似たつもりだったのである。
『はー? お前、それ絶対嘘だろ。見栄を張るのもいい加減にしろよ』とあそこでギルが返してくれないと、嘘ついてまでモテているように見せたという笑えるオチに繋がらないので困る。
けど、今更あれを訂正するのもね……と放っておいた。だって、『何自意識過剰に思ってんだよ!』と言われてしまうのも怖くて。
そして、同僚である私たち二人が何の仕事をしているかというと、大変狭き門を潜り抜けた国の官僚で、深夜までに及ぶ激務が日常だった。
そんな過酷な仕事環境では、男女差別どうこうを議論する前に、通常勤務が体力勝負でそもそも女性は少ない。男性が多めの職場なので、そういった際どい性的な話題が飛び交うことだってままあった。
けれど、件のギルは寝る間を惜しむような多忙な日々のはずなのに、どんな便利な魔法を使っているのか、職場ではやたらと女性との噂を聞いた。
城中でも人気があるメイドやら女官やらに誘われて、可愛い女の子と良い感じのデートをして来たと仕事中に自慢げに語れてしまうほどの信じがたいモテっぷり。
彼の外見やいつもの様子を考えれば、それもそうなのかもしれないと思ってしまう。
ギルはちょうど良い男なのだ。金髪緑目で近づき難くない程度に爽やかで整った愛嬌ある容貌に、がっつかない距離感の自分が話したいことよりも、女性の好きそうな話題を優先な淀みない会話。
誰かに教わらなくともそういう気遣いの出来てしまう、モテるしかない男性だった。
それ自体、特に私には実害はないんだけど、同じ部署に勤めている近しい距離感の同僚なので、変な態度を取られればやはり気になってしまうものである。
そして、私には、もしかしたらこれが原因だったのかもしれないと睨んでいる、とある出来事があった。
一週間ほど前にギルと話をしていた時に、長い髪を纏めて上げていた私の首筋に赤い痕が出来ていたらしく『なんだよ。キスマークか?』と、彼に揶揄われた。
自分ではそれが何かは確認出来ない位置だったけれど、多分、そろそろ暖かくなり湧き出した虫に噛まれてしまっていたんだと思う。生まれてからこの方、そんな場所にキスマークが出来るような状況に私は居た事がなかった。
だけど、ややこしい案件の予算希望の提出書類と格闘していた私は『それは違う』と、言い訳のように否定するのというもなんだか億劫で『……うん。虫刺され』と、正直に言って彼氏居ないネタいじりをされるのが面倒で、『ああ。首にもついてる?』と、彼の質問を適当に流した。
ギルがその時にそれについてどういう対応をしたのかは、あまり覚えていない。あの時の私には、目の前の書類の方が大事だった。
……そう。当の本人の私から見ると、その程度で軽い出来事だったから、何が悪かったのかがわからない。
けれど、それからというもの、ただの同僚であるはずのギルは私への態度が目に見えておかしくなってしまった。
これは自分の失敗を言い訳をするようになってしまうけど、自他ともに認める話下手な私のこなれた大人同士の冗談を真似たつもりだったのである。
『はー? お前、それ絶対嘘だろ。見栄を張るのもいい加減にしろよ』とあそこでギルが返してくれないと、嘘ついてまでモテているように見せたという笑えるオチに繋がらないので困る。
けど、今更あれを訂正するのもね……と放っておいた。だって、『何自意識過剰に思ってんだよ!』と言われてしまうのも怖くて。
そして、同僚である私たち二人が何の仕事をしているかというと、大変狭き門を潜り抜けた国の官僚で、深夜までに及ぶ激務が日常だった。
そんな過酷な仕事環境では、男女差別どうこうを議論する前に、通常勤務が体力勝負でそもそも女性は少ない。男性が多めの職場なので、そういった際どい性的な話題が飛び交うことだってままあった。
けれど、件のギルは寝る間を惜しむような多忙な日々のはずなのに、どんな便利な魔法を使っているのか、職場ではやたらと女性との噂を聞いた。
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彼の外見やいつもの様子を考えれば、それもそうなのかもしれないと思ってしまう。
ギルはちょうど良い男なのだ。金髪緑目で近づき難くない程度に爽やかで整った愛嬌ある容貌に、がっつかない距離感の自分が話したいことよりも、女性の好きそうな話題を優先な淀みない会話。
誰かに教わらなくともそういう気遣いの出来てしまう、モテるしかない男性だった。
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