離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

黒崎隼人

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第7話「前夫の後悔」

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 私が辺境の地で愛を育んでいた頃、アルトリア王国の王宮では、重苦しい空気が漂い始めていた。
 きっかけは、グレンドール村の驚異的な発展の噂だった。最初は誰もが「追放された元王太子妃が、田舎でままごとをしている」程度にしか考えていなかった。しかし、その村が隣国ベルガリア王国と正式な貿易協定を結び、莫大な利益を上げているという具体的な話が伝わると、王宮の人間たちは色めき立った。

 特に、その噂に最も心をかき乱されていたのが、私の元夫、ルドルフ・フォン・アルトリアその人だった。

「ベルガリアと貿易協定だと……? あの不毛の地で、一体何を生産しているというのだ!」

 執務室で報告を受けたルドルフは、信じられないといった様子で声を荒げた。彼にとって、グレンドール村はゴミ同然の土地。そんな場所から金が生まれるなど、天地がひっくり返ってもあり得ない話のはずだ。

 調査を命じると、すぐに詳細な報告が上がってきた。リセラが導入した新しい農法、土壌改良の成功、そして高品質な農産物と、それを加工した商品の数々。報告書を読んだルドルフは、愕然とした。

 彼が全く価値を見出せなかった女、リセラ。彼女が、これほどまでの才覚を隠し持っていたというのか。いや、隠していたのではない。自分が見ようとしなかっただけなのだ。ルドルフは初めて、自分が犯した過ちの大きさに気づき始めていた。

 リセラが王太子妃だった頃、彼女は確かに目立たない女だった。常に冷静で、感情を表に出さず、ただ黙々と妃としての務めをこなしていた。ルドルフはそれを、愛情のない冷たい女だと断じていた。
 しかし、今思えば、彼女は常に的確な助言をくれていたのではないか。干ばつの被害に苦しむ領地があれば、食糧支援だけでなく、長期的な視点での治水工事の必要性を説いていた。税収が落ち込んだ街があれば、新しい産業を興すための支援を提案していた。

 だが、ルドルフはそれらの進言をすべて「出過ぎた真似だ」と一蹴し、耳を貸そうともしなかった。彼の興味は、常に華やかで分かりやすい成果だけに向いていたからだ。
 それに引き換え、今の妻である聖女セリーナはどうか。
 彼女は、常にルドルフを褒めそやし、甘い言葉を囁いてくれる。ルドルフが望む「か弱く、庇護すべき聖女」を完璧に演じてくれている。しかし、それだけだった。国の未来や民の生活について、彼女が何か有益な意見を述べたことは一度もない。彼女が興味を示すのは、新しいドレスや宝石、そしてルドルフの愛を独占することだけ。

 最近では、その独占欲と計算高さが、ルドルフの目にも余るようになってきていた。彼が他の女性と少し言葉を交わしただけで、涙ながらに嫉妬をあらわにする。自分の意に沿わない侍女や官僚がいれば、ありもしない噂を流して遠ざけようとする。最初は可愛らしく思えたその振る舞いも、次第にルドルフを疲れさせ、うんざりさせる原因となっていた。

「リセラは……どうしている」

 ルドルフは、部下にぽつりと尋ねた。

「はっ。リセラ様は現在、領主として領民から絶大な支持を得ているとのこと。そして……その、ベルガリア王国のアレクサンダー第二王子が、足繁くリセラ様の領地を訪れている、と」

「アレクサンダーがだと!?」

 その名は、ルドルフのプライドを最も深く傷つけた。アレクサンダー王子は、ルドルフが密かにライバル視している相手だった。実務能力に長け、諸外国からの評価も高い。そんな男が、自分が捨てた女に執心しているというのか。

 それは、まるでルドルフ自身が「お前は見る目がない愚か者だ」と、全世界に公表されたような屈辱だった。
 後悔が、黒い奔流となってルドルフの心を支配し始めた。なぜ、自分はリセラの価値に気づけなかったのか。なぜ、あんなにも簡単に手放してしまったのか。

「……リセラに、会う。すぐに使いを出せ」

 いてもたってもいられなくなったルドルフは、周囲の反対も聞かず、リセラとの面会を求める使者をグレンドール村へと送ることを決定した。
 自分が過ちを認め、謝罪すれば、リセラも心を動かすかもしれない。彼女は元々、自分の妻だったのだ。もう一度、やり直せるはずだ。そんな身勝手な希望を胸に、ルドルフは返事を待った。

 だが、数日後に使者が持ち帰ったのは、リセラからの簡潔で、しかし揺るぎない拒絶の言葉だった。

「元殿下にお伝えください。私とあなたは、すでに何の関係もない他人です。お会いする理由がございません、と」

 その言葉は、ルドルフの淡い期待を粉々に打ち砕いた。彼は怒りと屈辱に身を震わせながら、リセラの名前をつぶやいた。
 その頃、セリーナもまた、リセラの成功とアレクサンダー王子の存在を知り、激しい嫉妬の炎を燃やしていた。自分が主役であるはずの物語が、思い通りに進んでいない。悪役令嬢は、惨めに落ちぶれていなければならないのに。

「リセラ……あの女だけは、絶対に許さない」

 美しい顔を歪ませ、セリーナは邪悪な策略を巡らせ始めるのだった。
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