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第12話「完全なる勝利」
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歳月は流れ、私はベルガリア王国の王妃として、そして二人の子供の母として、充実した日々を送っていた。最初に生まれたのは、アレクサンダーによく似た金色の髪を持つ男の子。その二年後には、私の黒髪を受け継いだ、利発そうな女の子が生まれた。王宮は、子供たちの明るい笑い声に満ち、かつてないほどの幸福な空気に包まれていた。
私のライフワークである農業改革は、ベルガリア王国に驚異的な豊かさをもたらした。かつては食糧の多くを輸入に頼っていたこの国は、今や大陸一の農業大国として、他国に食糧を輸出するまでに発展した。国内から飢餓は一掃され、民の生活は安定し、国力は飛躍的に増大した。
人々は、私を敬意と親しみを込めて「賢妃リセラ」と呼んだ。私が考案し、広めた農業技術は「リセラ農法」として体系化され、大陸中の農業の教科書となった。
そして、私の故郷であるグレンドール村は、その功績の中心地として、特別な地位を確立していた。もはや一介の村ではなく、「グレンドール自由都市」として、王国の直轄領でありながら高度な自治権を認められる特別な都市へと発展したのだ。そこには、大陸中から農業を志す若者が集まる「王立農業技術センター」が設立され、エルヴィンがその初代所長として、後進の指導にあたっている。
ユリアが率いる「グレンドール商会」は、大陸全土に支店を持つ巨大組織となり、経済界に大きな影響力を持つ存在となっていた。彼女は今や、「商女王」の異名で知られていた。
まさに、完全なる勝利。
悪役令嬢として処刑される運命だった私が、自分の知識と努力で運命を覆し、多くの人々に幸福をもたらし、そして誰よりも愛する家族と幸せに暮らしている。これ以上の勝利があるだろうか。
ある晴れた午後、私はアレクサンダーと子供たちを連れて、久しぶりにグレンドールを訪れた。活気に満ちた美しい街並みは、私が初めてこの地を踏んだ時の荒れ果てた光景が信じられないほどだ。
私たちは、すべての始まりである、あの小さな試験畑があった丘の上に立っていた。今はそこには、私たちの功績を記念した美しい庭園が広がっている。
「母上、ここが母上の最初の畑だったのですか?」
息子が、興味深そうに尋ねてきた。
「ええ、そうよ。この小さな場所から、すべてが始まったの」
私は、懐かしさに目を細めながら答えた。
ふと、遠くの街道に、一人の男が立っているのが見えた。粗末な旅人のような身なりだったが、その立ち姿には見覚えがあった。ルドルフだった。
彼は、ただ黙って、豊かに発展したグレンドールと、幸せそうに微笑む私たち家族の姿を、遠くから見つめているだけだった。その背中には、深い後悔と、取り返しのつかない過去への哀愁が滲んでいるように見えた。だが、彼がこちらに近づいてくることはなかった。やがて彼は、静かに背を向けて、去っていった。
もう、私たちの世界が交わることはない。
「リセラ?」
私の視線に気づいたアレクサンダーが、優しく声をかけてくれた。
「ううん、なんでもないわ」
私は彼に微笑み返すと、過去への最後の想いを、風の中に解き放った。
聖女セリーナは、追放された後、その美貌と口の上手さで各地を渡り歩いたと聞くが、結局どこにも安住の地を見つけることはできず、その後の消息は誰も知らない。彼女が手に入れようとした栄華は、所詮、他人の物語をなぞっただけの、虚構の城に過ぎなかったのだ。
私は、愛する夫と子供たちに囲まれ、自分が作り上げた豊かな大地の上に立っている。これこそが、私の真実。私の人生。
かつて悪役令嬢と呼ばれた私は、誰かを不幸にすることなく、自分の手で真の愛と成功を掴み取った。私の物語は、ハッピーエンド以外の何物でもなかった。そして、この幸せな日々は、これからも永遠に続いていくのだと、私は確信していた。
私のライフワークである農業改革は、ベルガリア王国に驚異的な豊かさをもたらした。かつては食糧の多くを輸入に頼っていたこの国は、今や大陸一の農業大国として、他国に食糧を輸出するまでに発展した。国内から飢餓は一掃され、民の生活は安定し、国力は飛躍的に増大した。
人々は、私を敬意と親しみを込めて「賢妃リセラ」と呼んだ。私が考案し、広めた農業技術は「リセラ農法」として体系化され、大陸中の農業の教科書となった。
そして、私の故郷であるグレンドール村は、その功績の中心地として、特別な地位を確立していた。もはや一介の村ではなく、「グレンドール自由都市」として、王国の直轄領でありながら高度な自治権を認められる特別な都市へと発展したのだ。そこには、大陸中から農業を志す若者が集まる「王立農業技術センター」が設立され、エルヴィンがその初代所長として、後進の指導にあたっている。
ユリアが率いる「グレンドール商会」は、大陸全土に支店を持つ巨大組織となり、経済界に大きな影響力を持つ存在となっていた。彼女は今や、「商女王」の異名で知られていた。
まさに、完全なる勝利。
悪役令嬢として処刑される運命だった私が、自分の知識と努力で運命を覆し、多くの人々に幸福をもたらし、そして誰よりも愛する家族と幸せに暮らしている。これ以上の勝利があるだろうか。
ある晴れた午後、私はアレクサンダーと子供たちを連れて、久しぶりにグレンドールを訪れた。活気に満ちた美しい街並みは、私が初めてこの地を踏んだ時の荒れ果てた光景が信じられないほどだ。
私たちは、すべての始まりである、あの小さな試験畑があった丘の上に立っていた。今はそこには、私たちの功績を記念した美しい庭園が広がっている。
「母上、ここが母上の最初の畑だったのですか?」
息子が、興味深そうに尋ねてきた。
「ええ、そうよ。この小さな場所から、すべてが始まったの」
私は、懐かしさに目を細めながら答えた。
ふと、遠くの街道に、一人の男が立っているのが見えた。粗末な旅人のような身なりだったが、その立ち姿には見覚えがあった。ルドルフだった。
彼は、ただ黙って、豊かに発展したグレンドールと、幸せそうに微笑む私たち家族の姿を、遠くから見つめているだけだった。その背中には、深い後悔と、取り返しのつかない過去への哀愁が滲んでいるように見えた。だが、彼がこちらに近づいてくることはなかった。やがて彼は、静かに背を向けて、去っていった。
もう、私たちの世界が交わることはない。
「リセラ?」
私の視線に気づいたアレクサンダーが、優しく声をかけてくれた。
「ううん、なんでもないわ」
私は彼に微笑み返すと、過去への最後の想いを、風の中に解き放った。
聖女セリーナは、追放された後、その美貌と口の上手さで各地を渡り歩いたと聞くが、結局どこにも安住の地を見つけることはできず、その後の消息は誰も知らない。彼女が手に入れようとした栄華は、所詮、他人の物語をなぞっただけの、虚構の城に過ぎなかったのだ。
私は、愛する夫と子供たちに囲まれ、自分が作り上げた豊かな大地の上に立っている。これこそが、私の真実。私の人生。
かつて悪役令嬢と呼ばれた私は、誰かを不幸にすることなく、自分の手で真の愛と成功を掴み取った。私の物語は、ハッピーエンド以外の何物でもなかった。そして、この幸せな日々は、これからも永遠に続いていくのだと、私は確信していた。
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