離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革！気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります

番外編1「エルヴィンの恋、実りの季節」

　グレンドールが目覚ましい発展を遂げ、リセラが王妃としてベルガリア王国へ嫁いだ後も、エルヴィン・ハルトマンはこの土地に残り、農業技術センターの所長として多忙な日々を送っていた。彼はリセラの最も信頼する右腕であり、グレンドールの生き字引のような存在だった。仕事に生きがいを感じ、充実してはいたが、四十代半ばを過ぎた彼の私生活は、寂しいものだった。妻に先立たれて久しく、一人息子も結婚して独立していたからだ。

　そんなある日、エルヴィンは技術指導のために隣村を訪れた。その村で、彼は一人の女性と出会う。名前はハンナ。三年前に夫を亡くし、女手一つで小さなパン屋を切り盛りしている未亡人だった。
　ハンナは、エルヴィンの実直な人柄と、農業に対する深い知識と情熱に、次第に惹かれていった。エルヴィンもまた、いつも明るく、気丈にパンを焼くハンナの姿に、亡き妻の面影を見出し、心惹かれるようになっていった。

　しかし、二人とも奥手な性格で、なかなか想いを口に出すことができない。もどかしい日々が続いた。
　そんな二人の様子を知ったのが、里帰りでグレンドールを訪れていたリセラだった。話を聞いたリセラは、「まあ、素敵！　それは応援しないと！」と、持ち前の行動力を発揮する。

　リセラは、「グレンドールの新しい小麦粉の試食会」という名目で、ハンナをグレンドールに招待した。そして、エルヴィンにはその案内役を命じる。二人きりになる時間を作り、背中を押してあげようという、リセラの粋な計らいだった。

　最初は緊張していた二人だったが、リセラの用意した美しい庭園を散歩し、思い出話に花を咲かせるうちに、自然と打ち解けていった。

「ハンナさんの焼くパンは、本当に美味しい。まるで、太陽のような味がします」
「まあ、嬉しい。エルヴィンさんが育てた小麦だからですよ。愛情がこもっているのが分かります」

　夕暮れの丘の上、エルヴィンはついに意を決して、不器用ながらも自分の気持ちを伝えた。

「わ、私の残りの人生を……あなたと一緒に、歩んではいただけないだろうか」

　ハンナは顔を真っ赤にしながらも、涙を浮かべて、こくりとうなずいた。
　二人の結婚式は、グレンドールと隣村の合同で盛大に行われた。仲人を務めたのは、もちろんリセラとアレクサンダーだ。実直な所長と、心優しいパン屋の女将の結婚は、皆に祝福された。

　エルヴィンの人生にも、ようやく遅い春が訪れ、豊かな実りの季節が始まったのだった。