「洗い場のシミ落とし」と追放された元宮廷魔術師。辺境で洗濯屋を開いたら、聖なる浄化の力に目覚め、呪いも穢れも洗い流して成り上がる

黒崎隼人

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番外編「ブクブク日和」

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 ブクブク、ブクブク。

 僕の名前はブク。水の精霊だ。
 僕の世界は、きらきらしていて、とっても気持ちいい。特に、アルクの作るお水は最高なんだ。太陽みたいな匂いがして、力がどんどん湧いてくる。

 アルクは僕のご主人様。
 最初はちょっと怖そうな顔をしてたけど、本当はすごく優しい。僕が泡を立てると、時々、頭を撫でてくれる。その手は、大きくて、あったかい。

 アルクのお仕事は「せんたく」。
 汚れた布を、僕のいるお水に入れて、ごしごしする。そうすると、布の中から、黒くて嫌なモヤモヤが出てくる。アルクは、そのモヤモヤを、綺麗な光でやっつけてくれるんだ。すごいんだよ。

 せんたくが終わると、布はピカピカになって、とってもいい匂いがする。
 それを見ると、僕も嬉しくなって、ついついジャンプしちゃう。ブクン!

 最近、アルクはよく笑うようになった。
 特に、ヒマリが来ると、一番優しい顔になる。

 ヒマリは、太陽みたいな女の子だ。彼女が笑うと、周りがぱっと明るくなる。
 最初は、彼女の腕に、あの嫌なモヤモヤと同じ、黒いシミがついていた。それを見るたび、ヒマリは悲しそうな顔をしていたから、僕も悲しかった。

 でも、アルクが毎日、彼女の服をせんたくしてあげたら、あの黒いシミはどんどん消えていったんだ。すごいよね!
 今では、ヒマリはいつも笑ってる。

 今日の午後も、ヒマリがお店にやってきた。
 手には、黄色いお花で作った冠を持っている。

「ブク、こんにちは!」

 ヒマリは、僕のいる水瓶を、優しく指でつついた。僕は嬉しくて、ブクブク! と挨拶する。

「アルクさん、これ、どうぞ! 今日はひまわりがとっても綺麗だったから」

 ヒマリがアルクに花冠を渡す。アルクは「ああ」とだけ言って、ちょっと照れくさそうにそれを受け取った。そして、お店の壁に飾った。
 お店の中が、もっと明るくなったみたいだ。

 二人は、お店の前の椅子に座って、ひまわり畑を眺めてる。
 時々、何か話して、笑ってる。その声を聞いていると、僕の体も、ぽかぽかしてくる。

 風が吹いて、ひまわりの花が、ざあっと揺れる。黄金色の波みたいで、とっても綺麗だ。

 僕は、水瓶の中から、そんな二人を眺めているのが大好き。

 アルクの手。ヒマリの笑顔。ひまわりの匂い。きらきらのお水。

 僕の大好きなものが、全部ここにある。

 アルクが、僕の方を見て、小さく笑った。

「ブク、いつもありがとうな」

 僕は、精一杯の気持ちを込めて、一番大きな泡を一つ、ぷくりと作った。

 ブクブク!

 これからもずっと、二人のそばで、世界で一番綺麗なお水を作ってあげるんだ。

 だって、僕はひまわり洗濯店の、すご腕アシスタントなんだから!

 ブクブク、ブクブク。
 今日は、とってもいいお天気。最高の一日だ。
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