地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人

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第三章 禁じられた力と最初の奇跡

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 辺境での日々は、ただ息を潜めて生きるだけのものでした。村人たちからの無視と冷たい視線に耐えながら、カイル様にもらった食料を少しずつ分け、なんとか命を繋いでいました。私の存在は、この村にとって重荷でしかない。そう思うと、胸が締め付けられるようでした。
 そんなある日の午後、村に小さな騒ぎが起きました。村の子供が、瘴気が特に濃いと言われる沼の近くで倒れているのが見つかったのです。
「ひどい瘴気に当てられたんだ! もう長くないかもしれん!」
 村の小さな診療所に運び込まれた少年は、顔色を失い、苦しげに喘いでいました。彼の母親が泣き叫び、医者は悔しそうに首を振っています。
「私にはどうすることも……。あとは神に祈るしか」
 その言葉を聞いた瞬間、私は小屋を飛び出していました。もう、誰かが私のせいで不幸になるのは嫌だったのです。王都では、私の力が弱いせいで、救えるはずの命が救えないと、何度も罵られました。私が「偽物」だったから、国は瘴気に苦しんでいるのだと。
 でも、もし。もし、ほんの少しでも、私の力がこの子を救えるのなら。
「どいてください!」
 私は人垣をかき分け、少年のそばに駆け寄りました。
「何をする気だ、追放者の娘!」
「関わるな!」
 村人たちの制止の声も耳に入りません。私は少年の小さな手に、そっと自分の両手を重ねました。そして、王都では使うことを禁じられていた、私の【浄化】スキルに意識を集中させたのです。
『私の力なんて、何の役にも立たない』
『お前は出来損ないだ』
 頭の中に、これまで浴びせられてきた言葉が蘇ります。怖い。また失敗したら? また、みんなを失望させてしまったら?
 でも、目の前には苦しんでいる命がある。
「お願い……助かって……!」
 祈りを込めて、全身の力を振り絞りました。すると、私の体から、これまで感じたことのないほど膨大で、温かな光が溢れ出したのです。柔らかな金色の光は、私の手を伝って少年の体に流れ込み、彼の体を蝕んでいた黒く淀んだ瘴気を、みるみるうちに霧散させていきました。
 光が収まった時、奇跡は起きていました。
「……あれ?」
 ぜえぜえと苦しそうだった少年の呼吸が、穏やかな寝息に変わっていたのです。土気色だった顔には血の気が戻り、安らかな表情で眠っています。
「瘴気が……消えた?」
「嘘だろ……」
 診療所にいた誰もが、信じられないといった顔で少年と私を交互に見ています。その輪の外で、腕を組んで壁に寄りかかっていたカイル様が、鋭い瞳をわずかに見開いているのが見えました。
 彼の黒曜石の瞳が、驚きと、そして確信のような光を宿して、まっすぐに私を射抜きます。
「お前……一体、何者だ?」
 カイル様の静かな問いかけに、私は答えることができませんでした。何が起きたのか、一番分かっていなかったのは、この私自身だったのですから。
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