地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人

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第十章 元婚約者の無様な土下座

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 使者が逃げ帰ってから、一月ほどが過ぎた頃でした。辺境の入り口が、再び騒がしくなりました。今度は、アラン王子本人が、わずかな供だけを連れてやってきたのです。
 かつて光り輝くようだった王子は、見る影もありませんでした。着ている服は汚れ、髪は乱れ、その顔は瘴気に当てられたのか土気色で、ひどくやつれています。彼は、楽園のように活気に満ちた辺境の村と、健康的な笑顔で働く人々の姿を目の当たりにして、呆然と立ち尽くしていました。
 そして、私の姿を見つけると、彼はよろよろと歩み寄ってきました。
 私は、カイル様や村人たちに囲まれて、薬草園でハーブティーを振る舞っているところでした。穏やかな日差しを浴び、村人たちの笑顔に囲まれた私の顔は、きっと彼が知っている卑屈な少女のものではなかったでしょう。健康的な血色と、自分らしくいられる自信に満ちた、穏やかな表情をしていたはずです。
「リナ……」
 絞り出すような声で、アラン王子は私の名前を呼びました。その瞳は、信じられないものを見るように、大きく見開かれています。
「本当に、お前なのか……? こんな……こんなに、美しくなって……」
 彼は、自分が捨てたものの価値に、今、ようやく気づいたのでしょう。豊かな土地、健康な民、そして、穏やかに微笑む私。その全てが、彼が失ったものでした。
 自分が犯した過ちの大きさが、彼の心を押し潰したのでしょう。アラン王子は、私の目の前で、突然、がくりと膝をつきました。
「リナ……すまなかった! 私が、私が愚かだったんだ!」
 彼は、泥だらけの地面に額をこすりつけ、涙ながらに叫び始めました。
「お前こそが、本物の聖女だったんだ! それに気づかず、お前を追放し、苦しめてしまった……! どうか、私を許してくれ!」
 王子の土下座。それは、かつての私なら、恐れ多くて想像もできなかった光景でした。周囲の村人たちは、冷ややかな目で彼を見ています。カイル様は、何も言わずに私の隣に立ち、いつでも私を守れるように控えていました。
「頼む、リナ! 国を、民を救ってくれ! この通りだ、お願いだ!」
 彼はみっともなく泣きじゃくりながら、私に助けを乞いました。瘴気に沈みゆく国を救えるのは、もう私しかいないと、ようやく理解したのです。
 私は、そんな彼の姿を、ただ静かに見下ろしていました。心は、不思議なほど穏やかでした。もう、この人を見ても、胸は痛まない。悲しみも、怒りすらも、ほとんど感じませんでした。
 ただ、可哀想な人、と思うだけでした。
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