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番外編1『セオドアの視点:薔薇色の牢獄』
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世界が、輝いて見えた。
リリアと出会った、あの日から。
彼女は宮廷のどんな宝石よりも清らかで、どんな花よりも可憐だった。
彼女が微笑むだけで、灰色だった公務の日々が色鮮やかな薔薇色に染まっていくようだった。
それに引き換え、私の婚約者であるエリアーナはなんて醜悪な女だったろう。
日に日に彼女の言葉は棘を増し、その瞳は嫉妬の炎で濁っていった。
リリアが彼女のそばにいるだけで、私は気が気でなかった。この穢れた女が、私の聖女を傷つけてしまうのではないかと。
だから彼女を断罪した日、私は心の底から清々した。
ようやく忌まわしい鎖から解き放たれたのだと。
これからはリリアだけを愛し、彼女と共にこの国を治めていけるのだと。
リリアの聖なる力は、国中に幸福をもたらした。
人々は皆微笑みを浮かべ、互いを讃え合った。なんと素晴らしい世界だろう。
エリアーナがいた頃のような、いがみ合いも嫉妬もない。全てが愛と調和に満ちている。
私はリリアを深く、深く愛していた。愛しているはずだった。
なのに時折、胸の奥がぎしりと軋むような痛みに襲われることがあった。
夜、一人でベッドに入ると、ふとエリアーナの冷ややかな、しかしどこか悲しげな瞳を思い出すのだ。
婚約を破棄された時の、彼女のあの静かな表情を。
なぜだろう。憎いはずの女の顔が、胸に突き刺さって抜けない。
これは、リリアを完全に信じきれていない私の心が弱いせいだ。
そう自分に言い聞かせ、私はさらに強くリリアを求め、彼女の愛という名の光の中に身を浸した。
そこは、甘く心地よく、そして息苦しい、薔薇色の牢獄だった。
そして、神聖婚儀の日。
目の前で愛するリリアが、おぞましい化け物へと姿を変えていく。
私の頭は、それを理解することを拒絶した。
エリアーナが、そこにいた。私が追放したはずの女が。
彼女が何かを詠唱すると、リリアは苦しみ、絶叫した。
「あの女を殺して」
リリアの声が、命令が、私の体を動かす。
そうだ、あの女が私たちの楽園を壊そうとしている。殺さなければ。
そう思ったはずなのに。剣を構えた私の腕は、鉛のように重かった。
やがて全てが終わり、呪いが解けた瞬間、私は全てを理解した。
私が愛した輝かしい世界は、ただの幻覚だったこと。
私が憎んだエリアーナこそが、たった一人でこの狂気に立ち向かっていたこと。
そして、私が犯した罪の、その途方もない重さを。
私は、被害者だったのかもしれない。
だが、それ以上に、どうしようもない愚かな加害者だったのだ。
リリアと出会った、あの日から。
彼女は宮廷のどんな宝石よりも清らかで、どんな花よりも可憐だった。
彼女が微笑むだけで、灰色だった公務の日々が色鮮やかな薔薇色に染まっていくようだった。
それに引き換え、私の婚約者であるエリアーナはなんて醜悪な女だったろう。
日に日に彼女の言葉は棘を増し、その瞳は嫉妬の炎で濁っていった。
リリアが彼女のそばにいるだけで、私は気が気でなかった。この穢れた女が、私の聖女を傷つけてしまうのではないかと。
だから彼女を断罪した日、私は心の底から清々した。
ようやく忌まわしい鎖から解き放たれたのだと。
これからはリリアだけを愛し、彼女と共にこの国を治めていけるのだと。
リリアの聖なる力は、国中に幸福をもたらした。
人々は皆微笑みを浮かべ、互いを讃え合った。なんと素晴らしい世界だろう。
エリアーナがいた頃のような、いがみ合いも嫉妬もない。全てが愛と調和に満ちている。
私はリリアを深く、深く愛していた。愛しているはずだった。
なのに時折、胸の奥がぎしりと軋むような痛みに襲われることがあった。
夜、一人でベッドに入ると、ふとエリアーナの冷ややかな、しかしどこか悲しげな瞳を思い出すのだ。
婚約を破棄された時の、彼女のあの静かな表情を。
なぜだろう。憎いはずの女の顔が、胸に突き刺さって抜けない。
これは、リリアを完全に信じきれていない私の心が弱いせいだ。
そう自分に言い聞かせ、私はさらに強くリリアを求め、彼女の愛という名の光の中に身を浸した。
そこは、甘く心地よく、そして息苦しい、薔薇色の牢獄だった。
そして、神聖婚儀の日。
目の前で愛するリリアが、おぞましい化け物へと姿を変えていく。
私の頭は、それを理解することを拒絶した。
エリアーナが、そこにいた。私が追放したはずの女が。
彼女が何かを詠唱すると、リリアは苦しみ、絶叫した。
「あの女を殺して」
リリアの声が、命令が、私の体を動かす。
そうだ、あの女が私たちの楽園を壊そうとしている。殺さなければ。
そう思ったはずなのに。剣を構えた私の腕は、鉛のように重かった。
やがて全てが終わり、呪いが解けた瞬間、私は全てを理解した。
私が愛した輝かしい世界は、ただの幻覚だったこと。
私が憎んだエリアーナこそが、たった一人でこの狂気に立ち向かっていたこと。
そして、私が犯した罪の、その途方もない重さを。
私は、被害者だったのかもしれない。
だが、それ以上に、どうしようもない愚かな加害者だったのだ。
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