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2章 如月泉
24.知らない景色
しおりを挟む学校が終わった後、晃くんちで一泊分の荷物をまとめる晃くんをぼんやり眺めていた。
晃くんの実家は電車で2時間とか掛かるらしい。向こうの駅に到着しても、そこからバスで30分とかだからトータルしたら3時間ぐらい見た方が良いと言う。だから今日はそのまま実家に泊まって、明日の始発で帰って来るんだって。
「よし、そろそろ行くぞ~。あまり遅くなると向こうのバスが無くなるからな」
「あのさ、晃くん」
「何だよ?」
「ずっと言おうと思ってたんだけど……」
「だから何?時間無いって言ってんじゃん」
「俺も行きたいって言ったら連れてってくれる?」
「はぁ?如月もぉ?」
やっぱり嫌ですよね。そうですよね。晃くん自体急に帰る事になったし、平日だし、晃くんの家族にも迷惑ですよね。
俺は晃くんが実家に帰るってなってからずっと付いて行きたいと思っていたんだ。泊まるなら尚更一緒に行きたい!我慢出来ずに聞いちゃったけど、怒るかなぁ?
「だってぇ、晃くんが遠くに行っちゃうなんて寂しいんだもん」
「だもんって……いや、一緒に行くか」
「え!いいの!?」
「お前と住む事を報告しに行くんだし、どういう奴か会わせた方が良いかなって。あ、変な事は言うなよ?俺とお前は友達だって言うからな」
「うわぁ♪嬉しい♪うん!頑張ってご両親に挨拶するね♡」
「ちゃんと友達として挨拶してな?くれぐれも変な事は言うなよ?」
「やったー♡あ、俺の荷物も一緒に入れてー♡」
「やだよっ!俺が重くなるだろっ自分のバッグ使え!」
言ってみるもんだなぁ♪絶対ダメだと思ってたから凄く嬉しい~♪
それに、晃くんの実家にご両親……緊張するけど、会ってみたい!上手く挨拶出来るかなぁ?
友達の親に会うのにこんなに緊張したのなんて初めてだ。やっぱり好きな人ってだけでこんなにも違うのかな……
軽く着替えを持って晃くんと電車に乗って晃くんの実家へ向かう。段々景色が殺風景になってとても新鮮な気持ちになった。
「うわぁ、建物が少なくなって来たぁ」
「これからもっと少なくなるぞ」
「晃くんの実家って遠いんだね~」
「県を一つ跨ぐからな」
「なんか旅行みたいで楽しいね♪」
「そうか?俺は実家に帰るだけだから」
「晃くん、今度ちゃんと旅行へ行こうよ」
「いいじゃん。どこ行きたいの?」
「晃くんとならどこでもいい♪どこか遠く、知ってる人が誰もいない所とかがいいな」
「大抵の旅行先になら知ってる奴なんていないんじゃないか?」
「あはは、確かに~」
あまり変な事を言うと晃くんを心配させちゃうから俺は笑って誤魔化したけど、結構本気だったりする。俺はたまに誰も知ってる人がいない街へ行きたくなる事があるんだ。現実逃避ってやつかな。だから今もどんどん知らない景色になって行くのを見てワクワクしている。
どんなに遠くてもいい。晃くんさえいてくれれば他には何もいらない。
「あ、夕飯作って待ってるって。如月の分も」
「嬉しい~♪俺が行くって伝えてくれたんだ?」
スマホを見ながら晃くんが言った。
なんて良い親なんだぁ♪突然帰る事になった息子の為に、それも突然付いて来る事になった友達の分まで夕飯を用意して待っていてくれるなんて♪
「一応な。多分親はルームシェアする事反対しないと思う。むしろ有り難がるんじゃないか?」
「本当に?それならいいけど」
「ちゃんと払う物払えばな」
晃くんにジーッと見られて念を押された。
はいはい、全部折半でしょ?分かってますよ~。
て言うか本当に俺が全部負担してもいいぐらいだ。父さんは今晃くんが住んでるアパートの家賃を超えるぐらいの振込はしてくれると思うし、なんなら食費だって出しても大丈夫だ。
晃くんはいつもフラフラしてた俺を疑ってるのかな?
「ちゃんと払うよ~。信じられないなら前払いしようか?今貰ってる小遣いで払えると思うから」
「小遣い?お前、小遣い貰ってるの?」
「うん。じゃなきゃ晃くんに夕飯奢れてないよ~。俺バイトしてないし」
「なんなの、お前んちって金持ちなの?」
「まぁそれなりに?一応父さんは一社の代表取締役をやってるから」
「!?」
俺が本当の事を話すと晃くんはかなり驚いていた。そっか、晃くんは俺の事貧乏だと思っていたのか。俺の生き方を見てたらそう思われても仕方ないか。
「えっと、母さんは専業主婦で、兄さんは大学生だよ。これが俺の家族です」
「お前、社長の息子だったのか」
「俺はあまり関係ないんだけどね。問題起こされても厄介だから必要以上にお小遣いくれてるだけだよきっと」
「それでも有難いじゃん。感謝した方がいいよ」
「……晃くんが言うなら」
俺からしたらどうでも良かったけど、晃くんの言う事は聞くようにしたい。
本当は俺も両親に心から感謝したかったよ。でも、両親からの信頼を兄さんに壊されちゃったから、諦めるしかないんだよ。
そしてどう足掻いても修復出来ない所まで成長してしまった。今はもう何も考えないのが一番楽になる方法なんだ。
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