【7人の魔王5】魔王様の食卓 〜今日も嫁(おれ)の飯がマズいらしいが、愛があるなら乗り越え(あきらめ)てくれ〜

とうや

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【兄視点】

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二度と帰るつもりはなかった。

俺は溜息を吐いた。前世も、いや今世もまさかこんなことになるとは思わなかった。(スペアの王子として)普通に生きて(種馬として)結婚して(政略の駒になるだろう)子供を作って…。

目の前は血の海。逃げ惑う悲鳴と罵倒する怒声。握った剣の柄がぬるりとぬめる。王宮の地下深くにある牢獄は腐った水と血の匂いがしていた。


前世今世はじめての恋。人ではない美しいひと。最初は好きでも嫌いでもなかった。綺麗だけど変わった人だな。そんな感想。


『儂に愛を乞うのなら、儂のの血を引くものをしておくれ。儂と添い遂げたいと口にしながら刃を向け、儂を愛していると言うたのに他所で女と子を儲けた男よ』


俺の頬を冷たい手で撫でて。まるでお伽噺のかぐや姫のように。首を欲した踊り子サロメのように。あのひとは言った。あのひとが殺せと言ったのは、今世の家族だった。

地下牢に居たのはかつての家族。

汚れて、草臥れて、ボロボロのの父。かつては美しかった母たち。生意気だったけれど可愛い弟たち。我儘で傲慢で愛らしい妹たち。まったく…アンドレアスも容赦がない。貴賓牢に入れずに最下層にぶち込んだか…。


「……っ…!!おお…!おお、イアソン…!?イアソンか!?生きておったか!…よ、よし!早うここから出せ!アンドレアスめ、血迷いおって…!」

「ああ、イアソン!早くここから出してちょうだい!お腹が空いて喉が渇いたわ!それに酷い臭い……わたくし、湯浴みをしたいわ!」

「イアソン!早くしろ!!」

「お兄様!なにをなさっているのよ!?早く!はや……え………?」


檻にしがみついてきた妹の胸を剣で突く。小さな体がゆっくりと汚れた床に沈んでいった。

ああ、まったく。変わらない。俺が変わってしまったのか。きっともう、俺の『家族』はアマルテイア……奏だけになってしまった。いいや、俺たちが捕虜になる前から、怖がりながらも俺を疎まないのは、利用しないのはアマルテイアだけだった。


「ヒイッ!?」

「イアソン!?イアソン、なにをするの!?」

「兄上、まさか……!?まさか…」

「……ッ………き…っ………キャアアアアアアア!!エカテリーニ!?エカテリーニ!!」

「裏切ったのか!?この外道が!」

「いやあああ!ひとごろし!!」


「……先にを殺したのは………お前たちだろう?」


「………っ…!?」

「身代金を払われない捕虜がどうなるか。知っていて金を惜しんだ。貴方たちが俺たちを捨てて ーーー 殺した」

「違うわ!わたくしは違う!イアソン!母はお前を案じておりました!払わぬと決めたのは陛下とアンドレアスです!!わたくしは、わたくしだけはお前を、お前たちを案じておりました!!」

「イアソン!仕方なかった!仕方なかったのだ!あのような莫大な身代金など払えぬ!払えば民が飢える!多数の民が死ぬのだ!!優しいお前なら……」

「ドレス1着分。そう聞きました」

「………え…」

「俺の身代金は母上のドレス1着分。金貨300枚。神官のミケリーノは200枚。出せませんでしたか?金貨500枚。イアソンの年間の予算は500枚です。出せませんでしたか?身代金要求は飢饉の前です。もう一度聞きます。 ーーー 出せませんでしたか?」

「……そ、れは………!そ、そうだ!アマルテイアの分までは無理だった!だから……!」

「アマルテイアは魔王の花嫁になりました。身代金のリストにはなかったはずです。アマルテイアの身代金を要求されていても払いましたか?払いませんよね?だってアマルテイアがリストから外されていたことすら知らなかったのですから」

「アッ…!」


ガシャン!と第二妃が鉄格子に縋り付く。……さっき俺がエカテリーニを刺したのを忘れているのかこの義母は。


「アマルテイアの母はわたくしです!!あの子に会わせて!わたくしが腹を痛めて子よ!魔王の妃ならわたくしを……ぐぁ!!」

「ひっ!ひい!!」

「キャアアアアァァ!!」

「わああぁあ!!ひっ…や、やめろ…!やめ、やめて…こ、殺さないで…!!」

「あぁ…兄上!僕は…僕は兄上の同胎です!助けて…助けてください…!」


「……ああ、すまない。もうどうでもいいんだ。どうでも」


「…………は?」

「捕虜になり、見捨てられてわかったことがある。……すまない。どうやら俺もアマルテイアもひとでなしだ。もう貴方達コルキス獣王国の王族などどうでもいい。ここにくる前にアマルテイアにも確認を取った。「もういらない」……だそうだ」

「え……」

「全部捧げようと思う。あのひとが、そう言うのなら……」

「な…んの、はなし、を……」



「そろそろお話は終わったかい?」



何の気配の揺らぎもなく、真横に男が現れた。


「はい、『私』様」

「うーん、見事に屑ばっかりだねえ?コレクションとしては貧相だよ羊くん?」

「……ではすべてしましょうか」

「ええ~?せっかくあのケチんぼの『儂』が持っていって良いって言ってくれたのにかい!?まあ私としてはこんなゴミより、陽咲くんの嫁くんか君が良いんだけどねえ?」

「お戯れを」

「仕方ないね……んー………じゃあ、あっちの少女の眼球だけくれ給えよ。悪くはない色だ」












「かしこまりました」












**********************************

※根切り……根絶やし。一族郎党皆殺し。

『儂』はアマルテイアは陽咲の嫁なので殺さなくて良いか、見てて飽きないし、程度に思っています。
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