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【勇者視点】(3)
しおりを挟む「ねえ勇者サマ?早く殺してくださいな?」
甘くダリアが囁く。なんだ…?頭がぼうっとする……。
「ダリア…お前……っ!?」
ダリアに掴みかかろうとしたヘザーの手が弾かれた。じゅうっと肉の焼ける小さな音と、ヘザーの絶叫。
「おかあさま、わたくし、このカナンに来て初めてお肉を食べました。家畜用の厩舎で出された食事は、神殿でおかあさまが恵んでくださるご飯の何倍も美味しかった。そこに空気みたいに息を殺して立ってる猫さん。あの猫さんが下さった串肉とパンと具の入ったスープ。美味しくて、美味しくて。お肉になるのは辛いけど、でも美味しいから「ちょっと辛いけどいいか」って思いました」
優しく、静かに。歌うようなダリアの声。ああ、どうしたんだろう。この子が愛おしくて堪らない。
「大切な方々を見つけて、偉大な御方にお仕えして。美味しいものを食べて、好きなことをして暮らしております。はじめてのお友達も出来たのです。とっても綺麗で優しい方なんです」
ああ、可愛いダリア。可哀想なダリア。きっとこの女に虐げられてきたんだろう。そう、きっとそうだ。そうでなければこんなに清らかな子が「ヘザーを殺してくれ」なんて言うはずがない。
「ねえ勇者サマ?殺してくださいませ。偽物の支配者に仕える聖女を」
「アッ…あ……ぁぁぁぁああああああ!!がっ、……は、はっ……ダ、ダリアアアァァアア!!ぎっ…おっ、お…おまえええええええええええええええ!!!」
「ねえ?こんなに汚くみっともない声で鳴いている女が、本当に聖女ですの?おかあさまはね、神殿では愛人が両の手に足りないくらいいらっしゃったの。そのお方たちがわたくしを見る視線……とても怖かった。空き部屋に連れ込まれ、乱暴されかけたのも一度や二度じゃありませんでした。……でもね?おかあさまがいつも叱ったのは、いつも折檻したのは、……わたくしだったの。この売女、卑しい奴隷の子とわたくしを棒で何度も打った。沐浴の水に沈めて押さえつけ、これで清めるのだと気を失うまで溺れさせた。……なんて清らかな聖女サマ」
なんて酷い…!そうか、ヘザーは聖女なんかじゃない。 ーーー 魔女、だ。そうだ。そうでなければ。魔女でなければ。何故ヘザーは純潔を散らしても聖魔法が使える?いや、そもそもあれは聖魔法なのか?ただ単に、回復魔法と補助魔法じゃないのか?そうか。そうだったんだ。ヘザーは聖女なんかじゃない……『魔女』 ーーー だったんだ…!
「勇者サマ、早く?あの魔女を退治してくださいませ?」
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