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終幕・化物の最後

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 陽動チーム&護衛者現地連合側と、化物の戦いは状況が大きく変化した。頭部が半分吹き飛ばされたのも関わらず即死しない化物の強靭さこそ異様ではあったものの……どうやら化物は立ち上がる事が出来なくなったようだ。そして遠近感も失ったらしく、両腕の筋肉の塊をその場でやたらめったら滅茶苦茶に振り回すだけになってきている。

 とはいえ、その振り回す腕のせいで近接戦闘を仕掛ける事も出来ない。前衛は腕の範囲外に逃れ、盾を構えて不測の事態が起きても対応できるようにしているようだ。攻撃のメインは飛び道具が使える人と魔法が使える人に変わりつつある。そんな状況下で、自分は生き延びたくノ一の手を借り、後ろに下がっているので状況はよくわかる。

「かなり辛そうだけど……大丈夫?」

 くノ一の言葉に何とか自分は頷く。とりあえずこちらは大丈夫だと判断したと思われるくノ一は後方支援に戻ってゆく。彼女も次々と懐からクナイと取り出し、化物に投げつけている。とにかく化物に接近できない状況なので、飛び道具などに頼るしかないのは仕方がないだろう。

 化け物は時々立ち上がろうとするそぶりを見せる事は見せるのだが……そこ止まりの様だ。さすがに顔の半分がふっ飛んだという事は、脳も半分になったという事で……まともに行動ができるはずがない。そもそも人間だったら即死するレベルなので、あれだけ動けているという時点で十分異常ではあるのだが。

「もういい加減にくたばれ! あんなとんでもない攻撃を受けて頭が半分ふっ飛んでるのに倒れねえとか狂っていやがる! こいつはもう生き物ですらねえぞ!?」

 そんな声も護衛者達から聞こえてくる。無理もない……頭部が半分ふっ飛んでいるのに腕を未だにぶんぶん振り回すその姿は、恐怖心を誘う。とっとと倒れてほしいと願ってしまうその心境は同意できる。何せ自分も同じことを願っているのだから。下手なホラー映画なんかに出て来るゾンビみたいなモンスター系統よりもはるかに怖い。血液などのエフェクトはほとんどカットされているのにもかかわらず、この気持ち悪さは結構来る。

「グア! ガアアア! アアアアア!!」

 化け物はすでに人の言葉を話してはいない。痛みからくる絶叫なのか、目の前にいるこちらに対する威嚇なのかもう聞きわけることなどできやしない。ただひたすら叫びながら両腕を振り回しているだけだ。ただただ駄々っ子のように……規模だけは凶悪なほどに大きいのだけど。

 そんな飛び道具と魔法が一方的に化物にぶつけられ、化物はひたすら腕を振り回す。もう戦いと表現するには少し無理がある状況が少し続き……ついにその時が来た。自分から見て化物の左腕の先端が突如崩れ落ち始めたのだ。なぜそれが分かったのかと言えば、その時になって化物は腕を振り回すことをやめ、絶叫を上げつつ崩れ始めた方の腕をもう片方の手で抑え始めたからだ。さすがに体が崩れるという異常事態になった為、腕を振り回す事は出来なくなったようだ。

 だが、こちら側の攻撃の手も止まっていた。その異様な光景に当てられたとしても無理はない。腕に始まり、足が、腰が次々とチリとなって消えてゆくのだから。RPGゲームのボスキャラクターも徐々に崩れていくという演出が入ることがあるが、こうしてみてみるとかなり気持ちが悪い。だが、見届けないわけにも行かず……崩れ落ちていく化物の姿を誰もが無言で見つめていた。

 ドサッと音がして、少し前まで振り回されていた筋肉の塊である化物の腕が落ちる。足が崩れ落ちた事で体勢を維持することが出来なくなってドウッ! と化物の上半身がうつぶせになって倒れる。先ほどまであれほど暴れ狂い、狂った声を出していたその恐ろしい化物の面影はすでにない。体全体がグズグズになって崩れ落ち、まるで地面に吸い取られるかのようにその体が消えてゆく。

 ──この化物の元、正体はラウガで間違いないとは思うが……最後に何を思ったのだろうか。流行り病と詐欺師に家族を奪われて人生を狂わされ、そのあとはただひたすら復讐の日々に生き、寿命と言う制限時間に追いつめられて狂い、そして今こんな風にまともとは絶対に言えない姿になって死んでいく。無念だという思いを抱いているのか、それともやっと眠れると考えているのか。

 ラウガの復讐に関しては、自分たち義賊の一団ともう少し出会うのが早ければ復讐を遂げる為に手伝う方向に動いていたかもしれない。彼の怒りは至極もっともなものだし、流行り病に便乗して偽薬をばら撒いた詐欺師連中には自分も憤りを感じる。だが、だからと言って関係ない人にまで多大な被害を加えようとしている時点でダメだ。その時点でどんな理由があろうとも『義』は無くなってしまう。

 一応もう一回、手下に色々とラウガの人生を狂わせた詐欺師連中の洗い出しをやらせてみるか。もう過去の話ゆえに出て来るものはほぼ無いだろうが、困っている人を相手だまし取った事で得た金によってぬくぬくと生きているというのは許しがたい。何かしらのネタが万が一出てきた場合は……ある程度の罰が下されて獣人連合で定められている法の元に裁きを受けるように仕向けよう。難しいとは思うが、それぐらいはやっておこう。

 そんなことを考えているうちに、化物は土に帰った。そして一転して周辺は静かになる。ようやく戦いが終わったのだ……それを戦って生き延びていた人達全員が理解した直後、気が抜けたように座り込む者、怪我人の治療に慌てて向かう者に分かれた。座り込んだのは前衛で化物と直接近接戦闘を行っていた人達で、治療に走り回り出したのは後衛で弓矢や投擲、魔法で戦っていた人達だ。化物の周りで倒れてはいたが、幸いにしてまだ息がある人などの助けられる人の救助に忙しく走り回っている。

「先程の大技を撃った方ですね? かなり苦しそうですが大丈夫ですか? 治療が必要ですか!?」

 木にもたれかかるように座っている自分にも、治癒するためにやってきてくれた獣人さんがいた。だが、これは治癒することはできない。自然に回復するのを待たなければならない状態なので、大丈夫ですか? の部分には頷き、治療が必要ですか? の部分には首を振っておいた。自分の所にやってきた獣人さんが離れた直後、手下で唯一最後まで戦い抜いたリーダーが小声で話しかけてくる。

「親分、終わりやしたな……何とも後味が悪い話で、へえ」

 リーダーの言葉に、静かに頷く。救いのない展開で、どうしようもなかった。かといって放置すればこの街が伝染病に沈む事になった訳で……やりきれん。

「とりあえず今日は引き上げやしょう。親分も休息を取ら無ければ不味い様子……あれだけの威力を出せる攻撃を繰り出せば、無理のない話でしょうがね……ですが、親分の技についての質問は一切受け付けないという事にさせていただきやす。親分も一々探られるのは面倒でやしょうし」

 さすがリーダー。その辺の事はすばやく察してくれるな。他のプレイヤーも、もしかしたら身につけることに成功した人が出てきたかもしれないが、それでもかなり少数だろう。そのあたりから探りを入れられてしまうと、こっちの事をあっさり知られることになってしまう可能性が高い。この辺はきっちりと釘を刺しておかないとな。

 少し休んでいた事で、ほんの少しだけだが体が動くようになった。あとはこのままどこかでログアウトして、リアルの時間で明日の夜まで待てばかなり楽になるだろう。今日は宿屋には泊まれない……な。

 大体負傷者が治療を受けて一命を取り留めたことを確認してから、そっとこの場を後にする。MPが〈サクリファイス・ボウ〉の影響で最大値がゼロになっているので、できるだけ音を立てずに静かに歩いて立ち去ったのは純粋に自分の技術である。そういえば、最近リアルでも無意識に音を立てずに歩くことが増えたような気がする。職場でも静かに後ろを通ると、偶然振り向かれた時にビックリされることが何度かあったな。

「親分、今日の寝床はあっしらが用意してありやす。今日は宿屋に戻れば正体がばれやすし、窮屈ですが我慢して下せえ」

 別段文句はない。むしろその手回しの良さに感謝しないといけないな。そうして案内されたのは、外見からは廃屋のようにしか見えないボロボロの家だった。まあ、盗賊が隠れ家に使うにはそれっぽい家だが。リーダーに案内されて中に入ると、確かに中はそう広くはないが埃っぽさは無い。一晩を過ごすには十分すぎる場所だろう。

「これだけの寝床であれば十分だ。すまないがさすがに疲れたから、悪いがもう眠らせてもらうぞ。そういえば俺が借りた宿屋の方はどうなっている?」

 ログアウトする前に確認を取っておく。

「大丈夫ですぜ、今日は戦闘に加われなかった奴らが細工済でさ。親分はきちんと今日もあの宿屋で寝たことになっておりやす」

 本当に優秀な奴だよ、リーダーは。偽装できているのなら方法はどうでもいい。少なくともこいつらが他の人を無用に傷つけるようなまねはしないと信用しているからな。穏便な方法で上手くやったんだろう。

「ならいい。ではまたな」

 こうして、この一件は大体終わった。あとは最終報告を兼ねてあと一回はカリーネさんの所に顔を出さないといけないな……。
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これでいきなり始まった義賊頭のお話はほぼお終いです。
ここからはモフモフ要素が増えてきます。
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