上 下
218 / 533
連載

事件のその後と報酬

しおりを挟む

 翌日の夜にログインし、手下が用意してくれた寝床から起きる。ステータス低下ペナルティはかなり軽減されており、これならば街中で普通に行動する分には何の問題もないだろう。戦闘となると不安要素が多すぎるが、それは仕方がない。完治するまでこの南街にてのんびりしていればいいだけだ。

「親分、お目覚めですか。体の方はいかがですかい?」

 リーダーが部屋に入ってきて、挨拶と自分の体調を気遣ってくれた。

「ああ、体の方は十分な休憩を取ったおかげで街中で行動する分には問題ないぐらいにまでは回復した。あの技は強力なのだが、その分反動が厳しいのがな……長く使ってきた相棒も犠牲にしてしまったが……あそこで撃たねば被害はもっと拡大しただろうから仕方がないだろう」

 長く一緒に旅をしてきた相棒、双咆はもう手の中にない。〈サクリファイス・ボウ〉を放ってしまったからな……色々と思い入れがあった弓なのだが、この街に住む何の罪もない人々の命には代えられん。後で改めて一度手を合わせ、黙祷せねばな……

「親分の判断は正しかったと思いやすぜ。あのままではあっしらは全滅していた可能性は否定できやせんし、その後この街がどうなったかは想像したくもありやせん。あのラウガが変化した化物は時間がたてば自滅したんでしょうがね、それまでにどれだけの被害が出ていたか……予想するだけで震えが来ますぜ」

 自分や手下のリーダーが予想した通り、あんな無茶な変化をすれば自壊するのは見えている未来だった。ただ、その自壊が〝いつ″起こるのかまでは分からない。少なくとも自分の〈サクリファイス・ボウ〉にて頭部が半分吹き飛ばされるという事が起きなければ、もっと長くあの体は持っていた可能性も高い。そうなれば、この街にとって悲惨な結末を迎えていたのは想像に難くない。幸い、そんな結末は迎えずに済んだ訳だが。

 プレイヤーの大半はまだ東街にいるはずだから、この南街が崩壊してしまっても直接の被害はない。そして後々この街にやってきたプレイヤーは、この街はなんで廃墟になっているんだ? と言う疑問が残るだけ……今回の事件の結末によってはそんなシナリオも十分にあり得たわけだ。

「で、俺が休息をとっている間、状況はどう動いた?」

 そのことについて考えるのはこれぐらいにして、今度はあの戦いの後周りがどう動いたかの確認をしておかなければな。

「へい、説明させていただきやす。あっしらが立ち去ったですが、カリーネ姐さんの主導で後始末が行われやした。護衛者になぜ戦いを仕掛けたのかの説明、ターゲットの近くにいた故に護衛者に対して説明することが出来なかった事への詫び。まあ、逆に護衛者側も近くにいたのに上が街一つを滅ぼそうと画策していた事に気がつけなかった事を詫びておりやしたが」

 そうか、それならば護衛者側とのごたごたはあまりなさそうだな。

「そして、怪盗の皆さんが回収に成功していた毒薬はすぐに獣人の研究者の元に送られやした……が、研究者たちは少し調べた結果、封を開けていけないと判断したようで、すぐさま封印指定がされやした。幸いにして時間経過による劣化はあるらしく、150年ほど封印して毒性が消えたら処分するそうですぜ。まあ、あっしらがその処分される瞬間を見ることはなさそうですがね。

 また、その毒薬の元となった薬を作った薬師たちはおとがめなしとなったそうで。あくまで特定の調合すると毒になるだけですからね、一つ一つは有用な薬ゆえに罰せられることは無し。ということらしいとのことで、へえ」

 そうだな、話を聞いただけだが……薬を作っていた人達は、毒を生むつもりは全くなさそうだったからな。それに薬つくりはラウガの指示の下に行われていたし、作り出された薬は有用なものだったのだから罰せられる方がおかしい。

「それから被害の方ですがね……これがひどいことになりやした。参加したあっしら側、ラウガの暴走を知らずに忠実に任務をこなした防衛者側の合計で、半数以上が今回の戦いで仏になるか体が治る見込みがなく引退するかで消える事になりやした。

 特に影働きができる精鋭がガクッと減っちまいやしたからね、カリーネの姐さんだけでなく獣人連合のトップも頭を抱えておりやすぜ。今回の様な事が起きないように議員の事を密かに見張る役が必要となりやしたが、それをこなせる人材がふっ飛んじまいやしたからね……あっしらもそうですが、怪盗や忍者の方にも穴埋めの打診をしているそうですぜ」

 護衛ができる人と言うのも育成が大変だが、影働きができる人の育成はさらに面倒だからな。ましてや今回は獣人連合の中でも精鋭の50人を出してきた上で、その半数が現場から消えてしまった訳だからな。獣人連合としては大損害だろう。

 奇麗事ばかりでは世の中は動かないし、影の部分で国を守る存在はどうしても必要だ。ある程度以上の働きができるメンツをそろえるのにはかなりの時間が必要となるだろう。それまでの間を何とかしたいから、穴埋めの打診をしてきたのだろう。

「その話、義賊団である我々は受けられないな。国に一時的とはいえ属するとなると、歪んでしまう部分が出て来る。その代わりにしばらく義賊団の力を貸してやって、治安が大きく乱れないように裏から手助けしてやる……ここらが落としどころだな」

 手下リーダーも同意見のようで、「あっしらは〝賊″でやすからね。影とは言え国に属する訳には行きやせん。協力ならば惜しむつもりはございやせんが」と言いながら頷いている。

 そんな話をするという方法で情報を得つつ、カリーネさんの所に行く準備を整えた。直接会うのは今回が最後になるだろう。この国に今後よっぽどのことがない限りはだが。今回の集合場所は最初に集まった場所なので、迷うことなく到着。外套の確認を軽く行った後にゆっくりと手下リーダーを伴って中に入る。中には忍者がすでに来ていた。カリーネさんや怪盗はまだ来ていない様子だ。

「おお、義賊頭殿。此度こたびは大活躍されたそうでござるな。それに引き換え拙者は大失態を犯してしまったでござる。誠に申し訳ないでござる」

 忍者さんがそう申し訳なさそうに頭を下げながら話しかけてきた。そういえば忍者チームは壊滅したんだったな……。話を聞くと、忍者チームでの最終的な生き残りは外に吹き飛ばされてきたあのくノ一と、プレイヤーだから完全な死を免れた彼だけだったらしい。そりゃ凹むのも無理ないな……

 自分の義賊団みたいにワンモア世界の中でもコミュニティに参加できる人は、それなりにこの世界と付き合いができる人……だと思うし、自分だってもし手下が死亡したらかなりのショックを受けるだろう。

「すまない、このバカを捕まえてここまで引っ張ってくるのに時間がかかった」

 忍者さんからの話を聞き、手下リーダーが自分の代弁を行っていた所にカリーネさんと、耳を引っ張られる形で怪盗が入ってきた。

「だからカリーネ、俺の耳を引っ張るのをやめろ! 痛えんだっての!」

 あー、うん。それは痛いよね……でも、そんなことをされる原因を作ったんじゃないのか?

「まったく、もう一度集まって話をすることは決定事項だっただろうが! 報酬を渡してはいお終いとはいかないのだ!」

 ──つまり、怪盗はもう一度ここに来るのが面倒だったから、報酬貰ってはいさよならと行きたかった訳か。面倒だって思う気持ちは分からんでもないが……街で気軽に受けれる依頼とかじゃないんだから、そう簡単にはいかないでしょうが。

「忍者と義賊頭の2人には待たせることになってしまって申し訳ない。このバカが面倒事を嫌って逃げ出そうとしたものだからここまで引っ張ってくるのに骨が折れた。では、今回の件がどうなったかの報告と、参加してくれた皆に報酬がどうなるかの説明を行いたい」

 さすがにここからは真面目にならないといけないムードが漂ったので、怪盗も静かになった。その状況を見計らって、カリーネさんは一枚の封書をとりだした。そしてその封書の内容を読み上げていくが……すでにここに来るまでに手下のリーダーから聞いた話と大差ないので、報告内容は省略する。

「すでに中央には今回の事は報告済みだ。そして今朝、これが届いた。中央から正式な任務達成による報酬の支払い。そして協力者……つまり怪盗、忍者、義賊頭のお前たち三名にも相応の報酬が渡される。まずは怪盗だが、金200万グローに財宝の情報をいくつかこちらから提供させてもらう。怪盗はそれでいいか?」

 この報酬内容に、怪盗は首を縦に振る。

「了解した。次に忍者だが……同じく報酬として金200万グローを支払ったうえで、事前に打診があった獣人連合の土地の一部を汝ら忍者の隠れ里として使用することを許可する。その引き換えとして、今回の様な事が起きた場合はこちらに協力してもらう事になるが……忍者よ、報酬はこれで問題ないか?」

 忍者も首を縦に振る。事前にそんなことを申し込んでいたとはな。とはいえ、獣人連合側にもいざと言う時は協力を打診できるからうまみがあるわけで……こういう報酬になったのか。

「そして最後に義賊頭だが。同じく金200万グローを支払う。そして汝らの正体を探るようなまねはしないことを約束する。それで良いか?」

 この問いかけに自分は首を縦に振る。200万も貰えるなら、手下の治療代に当てるには十分だろう。後はこちらの正体を嗅ぎまわられなければそれでいい。あくまで義賊団の行動原理は〝義″であり、金品ではないのだから。

「一歩間違えば大惨事になった今回の一件だが、協力者が来てくれたことで大事に至らずに済んだ。今日もこの街は平和そのものだ。感謝する。さて、これで怪盗と忍者には伝えるべきことはすべて終わったので退出してくれて構わない。だが、義賊頭にはもう少々付き合っていただきたい」

 ──なに? 何かこちらに手落ちでもあったのだろうか?
************************************************
ご意見、ご感想は見ております。返事を返せないのが申し訳ないです。
しおりを挟む

処理中です...