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追加報酬

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 怪盗と忍者さんがこの場所から立ち去り、静かになったところでカリーネさんが突如自分に向かって深々と頭を下げた。

「此度の一件、まことに申し訳なかった。よもやラウガがあのような化物になるとは予想もしていなかった。そのせいで貴公の配下の義賊団に必要以上の負担を負わせた上……」

 そこで言葉をいったん区切って、一度深呼吸するカリーネさん。そしてゆっくりと頭を上げながら話をこう続ける。

「貴公のあの弓からは、ドラゴンや龍と言った力を感じた。そんな希少な装備を、我ら獣人を護る為に使い潰させた。申し訳ない!」

 そうこちらに向かって告げた後、再び頭を下げるカリーナさん。──そんなカリーネさんに向かって、自分は口を開くことにした。肝心な部分だけは手下リーダーを介さずに自分の口で言いたかった。ここには自分と手下リーダーとカリーネさんしかいないから、まあ大丈夫だろう。ただ、口調は〈義賊頭〉状態で喋らなければならないが。

「いい。確かに希少な素材で作った弓ではあったが、命には代えられん。希少だとは言え、武器を惜しんでこの街の住民の命を大量に失わせることになってしまっては義を名乗る資格はない」

 と、こんな感じか。もう一張作れるかどうかは素材の量的に怪しい所だが、だからと言ってあそこで出し渋って全滅し、街の住人が蹂躙されてしまうような結末を迎えるよりははるかにいい。〝義賊″としてでなく、〝人″としてもな。

「──そう言って頂けるとありがたい。上の方に、今回の顛末はできる限り詳しく報告してある。それで、上の方から〈義賊頭〉に是非渡してほしいと指示された弓を預かっている。貴公が使っていた弓にははるかに劣るかもしれないが……是非、受け取って頂きたい」

 カリーネさんはそう言いながら、後ろに立てかけてあった木の箱を手に取り、自分の前にあるテーブルの上に乗せる。

「この箱の中に入っている。箱の中に入っているのは、箱を開けた人物だけを主人として認める性質を持つからだ。弓の名前は〈伏虎ふっこの弓〉と言う。伏せる虎の弓と書くな。普段は地味な木の弓にしか見えないが、戦闘の時は虎の模様が弓に浮かび上がり本来の力を発揮する。義と言う物を大事にする〈義賊頭〉である貴公になら、この弓を授けようという話になったと手紙には記されていた」

 なるほど、怪盗や忍者を先に返したのはこの弓を渡す為か。では、早速見てみよう。ゆっくりと箱を開けてみると、箱の中には飾り気のない狩弓の中でも小さい方に入る弓が一つ入っていた。そっと手を伸ばして弓の持ち手部分を掴んでみるが、拒絶されるような感覚は無い。ゆっくりと持ち上げてみるが、昨日まで使っていた双咆と比べるとかなり軽い。

「矢は番えずに、これから戦うような意識を持ってみてほしい。弓が応えてくれるはずだ」

 カリーネさんの助言を聞いて、今から大物と戦うイメージを持って弦を摘まんでみた。その瞬間弓がぶわっと膨れ上がるように大きくなり、黄色い毛に黒い縞が入った虎模様が、弓全体に浮かび上がった。


 伏虎の弓

 Atk+48(+7) レジェンド

 獣人連合の一流職人が獣人議会からの要請を受けて、ごく少数だけ生産している武器の一つ。普段は貧相な姿をしているが、戦いの場に入ると本来の姿を現す。その性質から普段は伏せて隠れている虎に例えられるために伏虎の武器と呼ばれる。大手柄を上げた獣人か、獣人の命を護る為に多大な私財をなげうった他種族にだけ下賜される貴重な武器。

 特殊能力 虎の咆哮(矢を撃ち出すと、虎の咆哮が狙われた相手に襲い掛かり身を竦ませる) 虎の牙(射られた相手は、虎の強靭な牙によって噛み砕かれたかのような痛みを追撃として受ける) 偽装(普段は何の変哲もない木の弓矢に見える。本来の力を発揮するときはAtkが+7追加される)


 双咆と比べると、Atk等はかなり落ちるな……だが、相手の動きを制限したり、追加ダメージが有ったりと弱くはないな。文章による表現だから、どれぐらい効果があるのはかわからないが、一般的なモンスター相手ならばたぶん通じるのではないだろうか。

 そして偽装は面白いな。体から力をふっと抜くと、すぐに弓はお店ですぐ買えるような地味な木の弓に戻っている。この能力、次に作る弓に付与できないものだろうか?

「どうだろう? 気に入って頂けただろうか?」

 恐る恐ると言った感じで、カリーネさんがそう尋ねてきた。おそらく双咆を見てしまった彼女からしてみれば、武器の格が落ちると感じているのかも知れない。まあ事実そうなのだが、双咆と違ってこちらの弓には反動によるダメージと言ったマイナス要素などは全くない。双咆よりも扱いやすさは間違いなくこちらが上なのだから、決して大幅な能力低下だとは思わない。

 自分が頷き、手下リーダーが「親分も満足しておりやす、カリーネの姐さん」と伝えたことで、カリーネさんの纏っていた緊張感がほぐれた。

「そ、そうか。そう言って頂けるのであればありがたい。その武器でも不満だと言われてしまったら、他の武器など調達できなかったからな。どうか、その弓を相棒として使ってやってほしい。そして、また今回の様な事があった時に助けてやってほしい。

 本音を言えば、貴公が率いる義賊団を丸々こちらに誘いたい所なのだが……その要請には応えられぬとそこにいる貴公の配下にあっさり断られてしまったからな。さて、これで貴公に渡すべき物や、話すべきことは終わったわけだが……何かこちらに質問はあるか?」

 カリーネさんの言葉に首を振り、自分は座っていた椅子から立ち上がる。もうここには用事は無いから立ち去るだけだ。一礼だけして、手下リーダーと共に部屋を出て、そのまま宿泊している宿屋の個室に戻ってきた。

「それにしても親分、弓は分かりやすがなぜ今回は金を受け取ったんで? あっしらの流儀にはあまり合いやせんが……?」

 戻ってきた宿屋の個室内で、手下リーダーがそう質問してきた。

「今回の一件を、こなしたのが俺達だけなら受け取らずにさっさと消えたさ。だが、今回は他の怪盗や忍者がいただろう? 彼らが受け取ったのに、こちらだけが受け取らないとなると角が立つ。怪盗や忍者側から『金を受け取った俺達が金に汚いみたいじゃないか、仕事の対価を受け取っただけなのに』と考えられてしまう可能性は高いと思うしな」

 怪盗にしろ忍者にしろ、自分が抱える義賊団みたいにこの世界の住人と連携を取っている職業だったみたいだしな。言わばコミュニティ系スキルとでも言おうか……自分単体で機能するという感じではない。そんな連中と揉めると、いろいろと面倒なことがあるかもしれない。

 プレイヤー同士ならログインしなければ逃げられるが、こちらの世界の人はそうはいかない。ましてや陰に生きる連中相手なんて、敵に回したら面倒くさいことこの上ないからな。幸い、怪盗にしろ忍者にしろ悪党ではない様子だったが……それでももめ事を引き起こさない方が良いに決まっている。

「なるほど、そういう事ですかい……失礼しやした」

 そう言いながら頷いている手下リーダーの前に、自分は200万グローが入った袋を置いた。

「そしてもう一つの理由だ。この200万はお前達に全額くれてやる。良い薬を手に入れて怪我を治せ。いい飯を食って体力を回復しろ。いい装備を整えて次に備えろ。金は努力してコツコツ稼げばどうとでもなるが、お前たちのような優秀な手下はそう手に入らん。次の仕事がいつになるのかはわからんが、その時に備えられるようにこの金を使え。使い切っても構わん」

 そう、もう一つの理由は優秀な手下の治療代やらなんやらに当てたかったからだ。金を惜しんで優秀な部下を失ってしまうといった愚かな事をするつもりはない。実際手下の情報収集能力は、以前の妖精国のときや、今回の時のような事件の解決に大きく貢献する。

 それだけでも大きいのに、今回は投擲などで直接戦闘でも頑張ってくれたからな。そんな手下を失わずに済むのであれば、200万グローぐらい安いものだ。

「親分、それじゃあ親分の取り分がありやせんぜ? いいんですかい?」

 手下リーダーは少し戸惑っているようだな……仕方ないな、命令と言う形で無理やり納得させるか。

「俺の言うことに不満があるのか? さっさとその金で負傷者の治癒に当たり、その後の体力を戻すためにいい飯を食わせろ。これは命令だ。もし金が余れば、まっとうに暮らしているのに苦しんでいる奴が立ち直れるきっかけを得られるようにする機会作りにでも使え」

 命令と言われたことで手下リーダーは頭を下げ、200万グローを手にもってこの場を離れた。リーダーがいなくなったことで自分はふうーっと息を吐き出し、〈義賊頭〉になりきっていた精神状態を解除する。

(ああいう偉そうな言い回しは苦手なんだがなぁ。とは言え、むやみに頭をぺこぺこ下げてしまうと手下のみんなが舐められてしまうからなぁ。メンツと言う奴はある程度ないとやっていきにくい部分があるというのが面倒くさいが、まあそれも一種のロールプレイだな)

 今日はこのままログアウトしてしまおう。獣人連合の街を観光するのは明日からだな……
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という訳で、追加報酬として弓をもらいました。
また、お金を受け取ったのにはこういった理由がありました。

それから連絡です。申し訳ないのですが明日からお盆に関連した用事が忙しくなりそうなので、ちょっと更新が止まります。できるだけ早く再開したいと考えていますが、数日ほどお休みをいただきます。
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