上 下
80 / 376
連載

獣人連合・東街の長い一日 その三

しおりを挟む

 西門を破ろうとしていたバッファロー達は、突如上空から降り注いできた魔法や矢によって西門の破壊工作を一時中断したようである。こちらを忌々しく見上げるようなしぐさをした後に、回避に専念し始めたのだ。よくもまあ、バッファローの巨体でそれなりの回避行動を取れるものだ。とはいえ、さすがに完全回避はできず、こちら側が放つ攻撃を食らう事が多い奴が大半なので数は確実に減っている。

「よし、西門への攻撃を止める事には成功したぞ! このまま西門付近に居るバッファロー達を消し炭にしてやれ!」

 誰ががそう叫ぶ。西門前に居るバッファロー達が空中からの攻撃によりかなり数を減らしたので新たに西門を攻めようとするバッファロー達もいるのだが、これは西門の周辺に設置された櫓や壁の上に展開している多数のエルフや獣人、プレイヤーによる弓や魔法にて接近を許さない。さらに上空からの攻撃もある為にバッファロー達は突っ込む機会を得る事が出来ず右往左往していた。

 だが……ここで突如ゴーンゴーン! と鐘の音が鳴り響く。この音は北門が攻められているのか。バッファローの指揮官……おそらくは王なんだろうが、ここで攻め方を少し変えてきたようだ。

「西門防衛を行っているのもはそのまま戦闘を続行しろ! 北門は予備戦力で対応させる!」

 即座に指示が飛ぶ。予備戦力があることは事前に知っていたから、そっちに任せる事にしよう。それに北門にも拒牛槍は置いてあるはずだし、即座に落ちることは無いだろう。他の人達も同じ考えだったようで、これといった混乱は起きずに西門の戦闘は続行された。何せ西門はすでにボロボロであり、あと数回バッファローの突進を受ければ崩れ落ちるだろう。いくら門の内側に備えがしてあると発表されているとはいえ……できる限りは守りたい。

 そうして西門に食らいつこうとするバッファローを魔法と矢で追い払いつつ数を削ると言った戦いをしていたのだが、ここで空中戦闘を行っていた面子に問題が発生した。

「ごめん、街に撤収する! もうグリフォンが持たない!「こっちももうハーピーが限界だって!」「墜落したら終わりだ! グリフォンもハーピーも失う訳には行かないんだ、街に撤収して休息をとってもらうんだ!」

 そう、空に飛び上って羽根となってくれたグリフォンやハーピー達の疲労が限界に近付いてきたのだ。そもそも遊軍として戦いに出て行っており、休息を取ったのは数分間だけだったのだ。限界をすぐに来るのも無理はない話だった。そうして墜落するという最悪のパターンを回避するためにひとり、また一人と街の中に帰還していく。そんなこちらの様子を見て、逆にバッファロー達は士気を上げている様子が見受けられる。ブモオオ、ブモオオ! と力強く鳴き声を上げるようになってきているからな。

「アクア、お前は大丈夫なのか?」「ぴゅいぴゅい♪」

 不安になったのでアクアに確認を取ったのだが、アクアはまだまだ余裕とばかりにいつも通りの鳴き声を上げる。その鳴き声に無理をしている様子はない。こうして空中から矢を放つことができるのは自分だけになった。

「ゴオオオオオオオ!」

 こちらの空中部隊の数が激減したことをみて、バッファロー達は再び編隊を組んで西門に突進を再開した。もちろん自分は空中から、西門周辺に居る人達も必死で突進を止めるべく魔法、矢、爆発物をバッファロー目がけて討つが、バッファロー達の足が止まらない。

 もちろん魔法を受けて吹き飛ばされるバッファローもいる。矢を受けて倒れこみ、後ろからやってくるバッファロー達に踏まれる奴もいる。そんな仲間の姿を見ても、ウォーバッファローとドリルホーンバッファローの突進が止まらない。まるで『この突進で門を絶対に破る!』という信念を持っているかのようである。そしてその信念? 通りに止まらなかったバッファロー達は次々とその強靭な角を門に突き刺す。

 それだけにとどまらず、なんとそうやって門に角を突き立てた仲間に向かってさらに突進していく。当然角が門に角を突き立てたバッファロー達に突き刺さるが……それでもお構いなしである。勝利のためにならば仲間の犠牲を厭わない……そういう事なのだろう。

 そんなバッファロー達を止めるために自分も必死で矢を射るが、一人では焼け石に水と表現するしかない状況であり……状況を変えられるかもしれない範囲魔法である《プリズム・ノヴァ》は射程範囲外だ。魔法使いの人達の魔法が届いていたのは射程を重視した魔法を選択し、さらに魔法の射程を延ばすスキルも習得していたからだろう。範囲弓攻撃アーツも次々と放つが、決め手に欠ける。

 そうしてついに西門が陥落する……と思われた瞬間、西門が『内側』から吹き飛ばされた。その直後、西門に角を突き立てていたバッファローやその後ろで押し込もうとしていたバッファロー達に銀閃が数回走る。何だ?

「お主らの快進撃はここで終いじゃ! ワシが引導を渡してやるぞ!」

 そんな大声と共に、馬鹿でかい鉈? の様な両手剣を持った一人の戦士が埃の舞う西門の奥から現れる。その戦士の手に握られている両手剣は、鉈の刃物部分を長さ2メートル以上、横幅40センチぐらいに引き延ばしたような形をしていた。刃はぎらっとした気味の悪い輝きを見せ、逆側の峰に当たる部分は殴られたら打撲では絶対に済まない威圧感を放っている。大剣はそもそも切れ味で切断するのではなく重さで叩き割るような存在だが……それを考慮しても異様な剣だ。

(あれは、シルバーのおじいちゃんじゃないか!?)

 そして西門の埃が徐々に晴れてきた時、そんな異様な剣を持っている戦士の姿を確認してさらに驚いた。久々に見る事になったシルバーのおじいちゃんが所有者だったからだ。

 そんなシルバーさんの姿に驚き、矢を射る手をついとめてしまった自分。バッファロー達も驚いたようで少しの間棒立ちになっていたが、すぐさま突進を再開する。狙いは当然西門の中。シルバーさんの事は力押しで押し潰して処理し、そのまま西門の中になだれ込んで街を破壊するつもりなのだろう。そんなバッファロー達の考えは甘かったと言わざるを得ない状況がその直後に発生した。

「数で来れば、優ると思ったか! 数は力じゃが……同時に掛ってこれる数はさほど多くない事を失念しおったお主らの負けじゃ!!」

 そう、確かにバッファロー達は大勢いる。しかし西門の大きさはそのバッファロー達が横一列ではいれる大きさではない。自然と横に数匹が並び、それが続く列となる。つまり、同時にシルバーさんに襲い掛かれる最大数は自然と限定されるのである。

「お主ら相手にはこれで十分じゃ! ほれ、吹き飛べい!」

 鉈大剣を右から左へと横に一閃するシルバーさん。その直後、バキキャッ!! という明らかに斬撃ではない音が起こって突進して来たバッファロー達が数匹同時に横倒しになる形でぶっ倒れる。うっわぁ、なんて一撃だ。こうして姿を見るのは久々だが、とてつもなく強くなっているんだなおじいちゃん……そんな剣を振り切ったシルバーさんの姿を隙だらけと判断したかどうかは分からんが……後ろが来るので前に出るしかないバッファローの後続が襲い掛かる。

「フン!」

 だが、シルバーさんは峰となっている側を鈍器として使い、左から右へとまた鉈大剣を一閃する。その一撃に巻き込まれたバッファロー達は、またもや一斉に打撃を受けて横倒しにぶっ倒される。アレは間違いなく殴られたバッファローの顔面が崩壊しているな。そうして突進してきたバッファローの集団をシルバーさんは手に持った鉈大剣を右に左に一閃を繰り返すころですべて薙ぎ払った。さすがにこの異様な光景を見て、バッファロー達も西門への突進を中断せざるを得なくなったようだ。西門の前で仁王立ちしてバッファローの大群をすべて止めてしまったその姿は、長坂橋の前にて曹操の軍を1人で止めてしまった張飛の姿の様だ。

「どうした、もう来んのか? こんな老いぼれにお主らは恐怖したのか? ほれほれ」

 と、突進をやめたバッファロー達に対して挑発を行うシルバー。その挑発に乗って突撃したバッファローは、ことごとく西門の前で鉈大剣の錆となった。門の内側に備えをしていると事前発表があったが、もしかして備えと言うのはこのシルバーさんの事なのか? そして時々シルバーさんの体に支援魔法や回復魔法が飛んでいるが、これは門の内側に居るシルバーさんのPTメンバーが行っているんだろうな。

 やがてバッファロー側は挑発に乗らなくなり、脅えるかのように全体が一歩後ろに下がった。たった一人を通過することができず、脅えた……とみていいだろう。その直後、シルバーさんは大剣を前に構えてこう宣言した。

「奴らはワシに脅えよったわ! 彼奴らが怯えて一歩後ろに下がった今こそ打って出る好機じゃ! 今まで防衛中心で鬱憤をため込んでいた者達よ、今こそ攻めあがるのじゃ! 門の守りはこのワシが受け持つ! 彼奴らに対し、手を出してはならない物に手を出したのだとその身をもって思い知らせてやるのじゃ!」

 このシルバーさんの言葉に、「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」と東街の中に居た人々の声が上がる。たった一人で大勢のバッファローを薙ぎ払ったシルバーさんからの言葉ゆえ、一気に士気が跳ね上がる。

「一番前のきつい所は俺が務める! お前ら、行くぞ!」

 この声は……グラッドの声か! その直後、西門の中からグラッドとそのPTメンバー五人が飛び出してバッファローの大群に向かって飛び出してゆく。西門の横にあった隠し跳ね橋も下ろされ、そこから鎧を身に着けたプレイヤーや獣人の皆様が次々と飛び出してくる。その姿はグラッド達を先頭とした一本の槍のようになり、バッファローの大群と激突する。その状況が上空から眺めているとよくわかる。

「アクア、こっちも行くぞ! 自分達は空中からの攻撃を行う事でバッファローの混乱を誘い、連携を取りにくくする妨害行為を行う方がいいだろう」「ぴゅい!」

 こうして、西門は守りから攻めに転じた。勝利条件はこの東街を攻めてきたバッファローの王を倒す事だろうから、攻めなけれいつまでたっても勝てない。もし王に逃げられればまたこんなことがそう遠くないうちに起きるだろう。あとは、攻められている北門が気になるが……あれから追加の鐘はならない。予備兵力で対処できたのだろうか。
************************************************
ひっさびさに登場したシルバーのおじいちゃん。もう忘れられてるだろーなぁ。
しおりを挟む