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獣人連合・東街の長い一日 その五

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 アクアに乗って最前線に戻ると、グラッドPTがバッファローをどんどん殲滅していく姿を見た他の人達も負けじと武器を振るっていた。その結果、わずかではあるがバッファロー達がじりじりと押され気味という状況になっている。

(相変わらずの暴れっぷりだな、グラッドの奴は。なら、こちらはその暴れっぷりがより効果を発揮できるように隊長格をしっかり潰さないとな)

 今の勢いは間違いなくグラッドのPTによる快進撃が生み出している。万が一ここでグラッドPTがこけたりしたら一気に流れがバッファロー側に移ってしまいかねない。早々あのPTが崩れるとは思えないが……万が一のことを考慮しない訳にもいくまい。そうならないようにするために、指示を飛ばしている隊長格をしっかりと潰しておかねば。

「ぴゅい!」

 そしてさっそくアクアが隊長格を発見。教えてもらったバッファローに向かって《風塵の矢》アーツを使ってから矢を射る。命中すると同時にドンッ! という風の炸裂音も周辺に響き、その周辺に居たバッファロー達が少し混乱する。その混乱に乗じてさらに隊長格のバッファロー目がけて矢を数本射かける。

 弱点の背中に矢が突き刺さり、よろける隊長格のバッファロー。そこに山なりの弾道で一発の火球が落ちてきた。火球が地面に落ちた直後、チュドゴウゥン!! と派手な音と共に、バッファローの隊長格とその周辺に居たバッファロー達を一瞬で丸焼きにした。この魔法の威力は……グラッドPTにいたガル? という名前だったかな……ともかくその魔法特化プレイヤーの攻撃か?

「空中から攻撃している奴、今の調子でバッファローの指揮をしている奴を見つけてくれると助かる! 場所さえわかればこっちの魔法使いがでかい一発でブッ飛ばせるからよ!!」

 と、グラッドではない声がこちらにそう指示を飛ばしてくる。この声は、記憶が確かなら弓を使っていたジャグドという男性プレイヤーだな。自分が射殺すよりも、ガルの魔法でブッ飛ばしてもらった方が撃破速度は速いな……グラッドPTのメンバーは誰もがプレイヤースキルの高い面子だから、ここはその指揮に従っておく方がいいだろう。

「ぴゅい!」

 っと、アクアが次のターゲットを見つけたようだ。お仕事お仕事ってね。やることは先程と変わらず《風塵の矢》のアーツを使う事で矢に風属性を纏わせてから、隊長格のバッファローに矢を射る。今回の隊長格はウォーバッファローなのだが、空中に居れば攻撃を受けない。うーん、この戦闘方法を常時やってると絶対自分のプレイヤースキルがダダ下がりするな。今はこういう状況だからいいとしても、普段の狩りではやっちゃだめだな。ダンジョンなんかに入れば当然空に浮かび上がって安全地帯から攻撃! なんてことはできないんだから苦労することになるし。

 それはまあ後で考えよう。今はしっかりと自分にできる事をコツコツとこなさないと。《風塵の矢》を受けた隊長格のウォーバッファローもかなり混乱しているし、攻撃を続ける事でその混乱が収まらないようにしないとな。そうして攻撃を続けてこちらに注意を向けさせていれば……来た来た。

 チュドコーウゥゥン……とこれまた派手な音を立てて炸裂するガルが放った火球。地面にクレーターができないのが不思議なぐらいだ。威力の方からして、これはおそらくガルのオリジナル魔法だろう。弾道が山なりでかなり遅いというペナルティがあるが、その分威力を上げまくったと予想できる。バッファロー達だってそれなりにタフなのに、着弾地点に居た奴らは完全に消し飛ばされているからな。どれだけ魔法に精通すればこれだけの威力を出せるのだろうか。特化プレイヤーは状況がはまると本当に強いな。

 ま、その火力はこちらとしても大歓迎である。ガルが高火力でバッファローを吹っ飛ばしてくれることで矢の消耗や弓の耐久消耗が大幅に抑えられる。そういった消費が抑えられれば、長時間の戦闘が可能になる。もっとも、アクアの飛行行為の限界が来てしまった場合はその限りではないのだが……。

「バッファロー達は確実に逃げ腰になってきている! さらに押すぞ!」「オオオーッ!」

 そしていいタイミングでちょくちょく気合いを入れるのはグラッドの激だ。この戦いが無事勝利という形で終われば、グラッドはプレイヤーの間だけではなくワンモアの世界の住人からも注目される存在になるだろう。こうやって一番前で戦い続けるその姿に見とれる人もいるだろうしな。

 グラッドが防衛側に気合いを入れ、門に奇襲をかけるバッファローはシルバーさんが処理。他の門にもちょくちょくちょっかいを出すバッファロー達が来たが、これは拒牛槍を突破出来ずに追い払う事に成功。こうして防衛側の優勢が明確になったところで、ついにそいつは出てきた。

「ぴゅいぴゅいぴゅい!!」

 真っ先にがついたのはアクアだった。ある一点を見据えて激しく鳴き声を上げる。アクアの様子からして、かなりの大物が出てきたと理解できた自分はそちらに向けて《百里眼》を発動して様子を見る。すると……森の奥から銅色に輝く物体がのっそりと草原に出てきたではないか。

 よりじっくりとそいつを確認してみると、その物体はバッファローの形をしていた。角は鈍く銀色に輝き、大きさは他のバッファローの2.5倍は間違いなくある。そんな大物はバッファローの王ぐらいしかいないだろう。一回街に戻った時に渡されていた団子を口にしてから自分は思いっきり叫んだ。

「戦場にいる全員に通達! バッファロー達の一番奥に銅色の体を持つ巨大なバッファローが出現! おそらくバッファローの王と思われる! 今回の最終討伐標的だ!」

 自分の声がそう響き渡った直後、バッファローの王と思われる個体が思いっきり叫んだ。

「ブロオオオオオオオオ! ブロオオオオオオ!」

 そのバッファローの王の叫び声が戦場に響き渡った途端、急に体が重くなったような気がした。なんだ? まさか何かの状態異常を付与されたのか? 叫び声が聞こえた直後、地上からは色々な声が聞こえてきた。

「何だこれ!? 体の動きが……」「体が震えてる……こ、怖い……」「どうしちまったんだ!? なんで急に!?」

 そしてその一方でバッファロー側はブモ! ブモ! と元気になっている。やっぱりあのバッファローの王が行った叫び声には何らかのデバフ効果があったのだ。慌てて確認したステータスには『萎縮』と表示されている。バッファローの王による叫び声ひとつで、戦場の押せ押せムードが一転して苦戦ムードに変わってしまった……早く何かしらの手を打たないと、このまま防衛側は雪崩のように崩れるぞ!

 だが、何をすればこの嫌なムードを変えられる? 黄龍に変身するしかないか? そう自分が考えだした時、今度はグラッドの声が戦場に響き渡った。

「はっ、随分と味な真似をしてくれるな! ならこっちもとっておきを解放してやろう!!」

 とっておき、か。グラッドは何をしてくれるんだ? 

「こいつはとっておきの変身だ、そしてお前たちはこの変身によって倒されることになる初めての得物……力加減は期待するなよ?」

 とっておきの変身……何に変身するつもりだ? 多くの人の注目を浴びながら、グラッドが変身を始める。身に纏っていた黒い重鎧などが消えて……変身したグラッドは軽鎧を身に包み、双剣を持つダークエルフに変身していた。そしてその背中には、片手剣、両手剣、片手斧、両手斧、槍、大太刀、弓、ナックル、杖などなど……多数の武器が宙に浮いていた。

「多数の武器に複雑な魔法を同時に使いこなしたと言われるこの世界の過去に少数だけ存在したエルフが、ここに復活だ。さあ、覚悟してもらおうか!」

 あんな変身も隠されていたのか。プレイヤースキルが高いグラッドが、あの変身を使ってどう戦うのかが分からない。下手に矢を射ると妨害することになりかねないので、ここは様子を見るしかないな。グラッドはまず浮いていた双剣を宙に放り投げて杖を右手で取り、左から右にへと横に軽く振るった。それだけでグラッドの前方にいたバッファロー達は一瞬で氷漬けになった。上空から見ると、その範囲は扇状で広範囲に広がっていることが分かる。いきなり派手な一発だな。

「おらよ!」

 次にグラッドは右、左を振るう。杖が振るわれた直後、氷の壁が形成されて防衛軍とバッファロー達を分断する。ここで我に返ったと思われるバッファロー達が次々と氷の壁に向かって突撃するが……角が氷の壁に突き刺さって、そのまま抜けなくなっている様である。そうして一時の安全を確保したグラッドはこう叫んだ。

「お前ら、いつまでさっきの叫び声に怯えているんだ! 街を守るには怖かろうが何だろうがあいつを倒すしかない、違うか! ここであいつを倒せなければ、街の安全は確保できないんだろうが!」

 このグラッドの言葉に、はっとした表情を見せる人が大勢いた。グラッドの行動と激によって、防衛側の人々が陥ってしまった『萎縮』状態が打ち破られたのかも知れない。

「俺達が先行する! 脅えが抜けて武器を持てるようになったらついて来い! 目の前の壁を叩き割る事でな!」

 グラッドはそう宣言してから、PTメンバーと一緒にバッファローの群れに突っ込んだ。氷漬けになっていたので動けないバッファロー達は、グラッドのPTによって氷像のまま砕かれてゆく。なるほど、あれがグラッドが身に着けたレア変身か。そうでなければ近接戦闘に重きを置いているグラッドが、あんな広範囲にわたってバッファロー達を凍結させる大魔法を使えるはずがない。

 そのグラッドも今は杖を離して双剣を持ち、氷漬けのバッファローを次々と叩き割ってゆく。バッファローだってずっと氷漬けでいてくれるわけもないし、今のうちに少しでも数を減らしておきたいって事か。

(っとと、そうと分かれば眺めていないで自分も動かないとな。グラッド達だけに負担を強いるわけにはいかない)

 アクアに飛んでもらい、氷漬けになっているバッファロー達を《風塵の矢》でブッ飛ばす。今回披露されたグラッドの変身も非常に限られた制限時間があるはずだ。その時間を少しでも有効活用できるように、出来る範囲で支援をしていかないと。
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グラッドによる二つ目のレア変身がお披露目です。

???エルフ
全ての武器、アーツが使用可能 全ての魔法が使用可能(各個人オリジナル魔法は除く) 武器と魔法技術同居によるペナルティ無し スキルおよび魔法コスト50%軽減 変身時間最大15分

と、あらゆる攻撃技術は使えますが、防御面の強化はありません。軽鎧の防御力はそれなりにありますが、アースの黄龍とは比べ物にならないですね。アースに声がかからなかったのは適性がなかったからです。

あと、本日アルファポリス様のHPにてとあるおっさんの漫画第4話が公開されています。そちらもよろしければどうぞ。
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