上 下
224 / 550
連載

痛風の洞窟、侵入

しおりを挟む

 翌日。ログインして起床し、装備を整えた所で義賊リーダーがやってきた。アクアはまだベッドの中でお休み中か。

「親分、以前調査要望を受けた件の報告がまとまりやした。報告を始めてもよろしいですかい?」

 ああ、やってくれと自分が告げると、義賊リーダーが昨日の占い師を調べた結果報告を始めた。

「結論から言えば調査対象者である占い師は白ですぜ。いろいろ過去も含めて探ってみやしたが、黒いことは一切無し。別の伝手で親分が指示した占い師から指導を受けた存在を探しやしたが、そのどれもがなかなかの場所に収まっているのも事実のようでさあ。親分、ちょいと前の話になりやすが、獣人連合南街であった一件で協力したあの影働きのトップもかなり前にあの占い師から指導を受けたようですぜ」

 ふむ、なるほど。こいつらの探査能力は一級品だし、こいつらが白と言えばまず間違いなく白だろう。それと南街の一件ってのは、ラウガの一件だな。あの時援軍に来て、直接話をしたあの獣人女性も、あの占い師からアドバイスを受けていた、と。

「そうか、それだけわかれば十分だ。良くやってくれたな。これは活動の資金に充ててくれ」

 義賊リーダーに十五万グローを手渡す。何をするにもお金ってのは必要だからな。あって困るものではないだろう。

「ありがとうごぜえやす、有意義に使わせていただきやす。それから、あの一件で怪我をした者達は、親分が譲ってくださったお金のおかげで十分な治療が行えやして……全員が無事に再起しておりやす。その者達からも、親分に感謝とこれからの仕事をより頑張る事により恩返しをしたいとの事でさ」

 そうか、あの時の大けがをしてしまった者達も無事に復帰できたのか。それは何よりの朗報だな。

「解った、これからもよろしく頼むと皆に伝えておいてくれ」

 自分の言葉に、義賊リーダーは頷く。

「へい、ではあっしはこれにて失礼しやす。また何かありやしたら呼んで下せえ」

 そういい残し、義賊リーダーは目の前から消えた。これで痛風の洞窟に何者かのたくらみがある可能性はぐっと減った訳で、向かっても問題ないだろう。

「アクア」「ぴゅい?」

 ベッドの中で寝て居たアクアを起こして、これからの行動を伝える。

「しばらく一人で訓練を行いたい。申し訳ないんだが、しばらくアクアはアクアで独自行動をしていてもらえないだろうか?」

 自分の言葉を聞いたアクアは「ぴゅ~……」と悩むような鳴き声を出していたが、やがてこっくりと頷いた。

「我がままを言って済まないね。でも、お前に頼りっきりではいざという時困るからね……」

 何度かアクアの頭をなでながら詫びておく。さて、これで準備は本当の意味で完了だな。早速痛風の洞窟に向かおうか。


 ──そして〈百里眼〉と《気配察知》を併用して歩くことしばし。痛風の洞窟入口前に自分は到着していた。ここに到着するまで行った戦闘回数はゼロ。初めて入る場所なのだから、挑む前に戦闘をして消耗することは避けたかったからである。洞窟の中からは、ヒュウウウ……と冷たそうな風の音がわずかながら耳に届く。外套を羽織り直してから、洞窟の中に足を踏み入れた。

 それから数分後、自分は今までで一番外套を着ていてよかったと痛感していた。風が冷たいという情報はあったが、この洞窟の中は風が吹いていようがいまいがかなり寒い。

 一回試しにフードを脱いでから顔面につけているフェンリルの頬当てを外してみた所、それだけでチクチクとこちらの生命力を削るような冷たさが襲ってきた。もちろん慌てて頬当てを装着しフードをかぶる。この外套を装備していなければ熱がより簡単に逃げていくだろうから、あっという間に凍死しそうだ。

(おそらく自分が外套を纏っていなければ、道具屋のおっちゃんは外套を買って装着していくように勧めたんだろうな)

 昨日熱心に必要な道具を教えてくれた上に、念入りに注意すべきことを教えてくれた道具屋のおっちゃんの顔が浮かぶ。北街で道具を買うのはあのお店にしよう、値段も適正価格だったしな。

 そんな事を考えつつも、ゆっくりと歩を進めて洞窟内を探検する。幸いにして足元は滑りやすいということは無く、転倒する心配はない。また、昨日の占い師からの情報提供の内容通りに罠もない。だが……そんな罠なんかよりも厄介なのが洞窟内の特定場所にて吹いている冷気の風である。周辺に近寄るだけでぐんと温度が下がるだけではなく、先に進みたいのであればその風の中に突っ込まないとならない構造になっているようだ。

(ここに突っ込むしかないのか……ほかに道はないし、風の向こう側に道があるのも見えているから行くしかないな。いち、にの、さん!)

 覚悟を決めて冷気の風の中に突っ込み、そのまま駆け抜ける。途中で止まったらそのまま全身が動かなくなって凍死してしまう未来しかないからな。幸いにして風が吹いている幅はそんな広くなかったようで、ある程度風にあおられはしたが勢いを保ったまま風の中を走り抜ける事に成功した。

(さ、さささ寒い!! 急いで買ってきたアレを……)

 急いで風の周辺から立ち去り、道具屋から買ってきた筒を取りだして握りつぶす。握りつぶされた筒からは強烈な熱風が吹き出し、周辺の温度を上げてくれる。そのまま一分ぐらい握りつぶした格好で固まっていたが、漸く体の緊張が解けてはぁ~と口からため息の様な物が出た。

(道具屋のおっちゃんが、これを買って行けという訳だ。この道具が無かったら、ここの洞窟を攻略する事は不可能だわ。下手なモンスターと戦うより、あの風を一回抜ける事の方がはるかにきついな)

 冷め始めた周囲の空気を感じながら、そんな事を考える。最初っからこんなレベルだとすると、この先に居るモンスターはどんな奴がいるのやら……あまり考えたくないが、先に進まないと修練にならないからなぁ。周囲の空気が完全に冷めてしまう前に、温かいミルクティーを口に運んで体を温める。これでようやく先に進む気分になった。大きく深呼吸をしてから、前進を再開する。

 それからもう一回冷たすぎる冷気の風を突破し、休憩してから前進すること数分後。いよいよ生息しているモンスターが姿を現した。しかし、その姿は今までとは大きく違っていた。

(アレは雪の結晶か? それが複数の群れを成して一定距離に漂っているみたいだな。 オブジェクトではなく、モンスターだという反応が《危険察知》に出ているからモンスターで間違いないんだろうが。しかし、あの姿からすると点での攻撃しかできない弓矢は駄目だな。薙ぎ払ったり切り付けたりして、攻撃有効範囲を少しでも広げないとかすりもしないぞ。今までには無かったパターンだな……)

 〈百里眼〉のおかげでモンスターの詳細な姿を遠くから観察できるのは実にありがたい。特に今回のような異質の姿をしたモンスターは、戦う前に少しでも情報を仕入れたい。そのまま数分モンスターを眺め続けたが、氷の結晶は大体二十個前後が一つの団体になっているようだ。そして大体前から見ると楕円のような形の膜を張っており、その中で活動している。あいつらを倒すためには、その幕を貫いて攻撃する必要があると予測できる。

(そうなると、ここはスネーク・ソードの惑の出番だな。蹴りではちょっと不安がある)

 静かに惑を腰から抜いて右手に持ち、氷の結晶団体から適度にはぐれた奴が出るのを待つ。集団意識が強くてリンク (同族が攻撃されると、その周辺に居るモンスターが一斉に反応して襲ってくる現象)を引き起こしてくる可能性も否定できないからな。それにしてもきらきらと少々まぶしい。ダイヤモンドダストを見ているような気分だ……ってか、それその物か? いや違うか。

 なかなかはぐれが出なかったが、待つこと数分後にようやく一定距離を取った氷の団体が現れた。その氷の団体目がけて惑を振るって攻撃を仕掛ける。惑の先端が膜を突き破って結晶の一つを貫く。当然ながらこちらに気がついた氷の団体は自分の所へやってくる。これに勝てないようでは先に進むことは不可能。さて、行きますか。
しおりを挟む

処理中です...