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叩き直し

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 翌日もワンモアにログインし、準備を整えてさて痛風の洞窟へ行こうか……そう考えて街を出ようとした所で足が止まった。ちょっとした考え事を自分が始めたからだ。

(──まてよ。確かにこのまま痛風の洞窟に通えば〈ダーク・チェイン〉スキルレベルは上がる。相手にするモンスターもあいつだから惑を振るう腕は上がるだろうが……それだけでは欠けている部分があるのではないだろうか? このままモンスター相手に惑を振るい続けてもそれなりの腕にはなるとは思う。しかし、カザミネの見せてくれたあの突きの様な一撃はそんな事で身に付くか?)

 街から出る直前に足を止めて考え事を始めた自分を不審に思ったらしく、門番の獣人さんが声をかけてきた。

「そこの兄ちゃん、どうした? 腹でも痛くなったのか? 具合が悪いなら無理しねえ方が良いぞ? 無理をして死んじまったら何の意味もねえんだからよ」

 しまった、気を遣わせてしまったか……とりあえず考えるのは外に出てからにしよう。街の近くならばモンスターも来ないから、考え事をする余裕はある。実際街の外でもすぐそばならば、PT募集やら出張してきた道具屋などが商品を売っていたりする。まあ、以前のサーズのようにモンスターを引き連れてきてしまう奴がいないとも限らないのだが、そういう時にはあっという間に逃げ込める距離に居るから問題ないのだろう、多分。

「いえ、少し考え事を。申し訳ありません」

 門番さんに頭を下げて門をくぐる。そして5分ほど歩いた場所でちょうど腰かけるのに都合が良い石を見つけたので、椅子代わりにして座る。

『で、何を悩んでいたのかしら?』

 っと、指輪のクィーンの分身が周りに人がいない事を確認してから話しかけてきたか。まあ、一人で悩んでもどうにかなる問題ではないし、ここは話に乗ってもらった方が良いな。

「いや、ふと気がついたんだ。弓は昔から使ってきているし、蹴りは師を得て教えを受けたこともある。だが、これについては基礎すら疎かにして来たんじゃないかと思ってしまって」

 シャリン、とわずかな音と主に惑を抜く。闇の魔剣だけあって振るっていない状態でも少々威圧感がある。

『貴方の事を私が見てきた範囲で言うけど、確かに弓や蹴りに比べると基礎的な習練が足りないのは事実でしょうね。このまま魔物たちを刃を合わせ続ければそれなりの物は身に付くでしょうけど、土台無き家は崩れやすいのと一緒で、今のまま行けばもろい面がかなり残ることになると私は見るわね』

 クィーンの分身の意見と、自分がいまなんとなく思っている事は大体同じか。このままがむしゃらに戦うだけでは、スキルレベルだけが上がって中身がすっかすかのアーツ頼みでしか戦えないという事になってしまいそうだ。これでは、カザミネのアーツに頼らない突き攻撃などが身に付く道理はない、な。

「やはりお前さんもそう見るか。そうなるとやはりこのスネーク・ソードの訓練をしないといけないが……今まで出会った人の中に、これの修練方法を教えてくれそうな人とは出会っていないんだよな……」

 武器としてもかなり特殊な位置にいるこのスネーク・ソードは、プレイヤーの中には使い手が結構多いがこちらの世界の人達はあまり使っているところを見た事がない。剣や槍、斧と言った者なら使っている人が大勢いるのだが。

『ならば、私がちょっと課題を出しましょうか? やるやらないは貴方次第だけど』

 さてどうした物かと考えようとしたところで、クィーンの分身からそんな話を切り出された。課題か……話を聞いてみようか。

「話してみてくれないか? やるやらないはそれから考える事にする」

 そうクィーンの分身に答えを返した。クィーンの分身も、『そうね、内容を聞かなきゃ決められないわよね』と言った後に、彼女が考えた課題を教えてくれた。

『アクアの協力が必要ね。まずはアクアに小さい石をたくさん集めて来てもらう。そしてポイポイと軽く嘴につまんで投げてもらい、その石を貴方がそのスネーク・ソードで叩き落とすの。慣れてきたらより速度を上げて、数を増やしてもらう。それにも対応できるようになったらより小さい石をより確実に刺し貫くようにするとかの課題を増やしていけばいい。これならお金もかからないし、修練にもなると思うわ。どうかしら?』

 なるほど、野球のバッティングの練習と似たような感じで修練を積むのか。教えてくれる人がいないのであれば、そういった方法で訓練するのも一つの手だな。うん、やってみる価値は十分にある。

「その案を採用させてもらうよ。そうと決まれば、さっそくアクアを呼び戻そうか」

 という事で痛風の洞窟に行くのを中断し、惑の扱いを一から叩き直すことにしたのである。


「ぴゅい?」

 そしてアクア(2.5mモード)に戻ってきてもらい、早速石をかき集めてきてもらった。小石を集めてきたアクアは、「これぐらいのい~の?」という感じで鳴き声を上げつつこちらを見る。

「ああ、それぐらいあれば修練になると思う。で、申し訳ないんだけどアクアにはそこから自分から見て真横に投げる感じで、石を嘴で加えてぽいっと軽く投げてほしいんだ。その投げられた石を自分がこの惑で切ったり貫いたりする。そういう訓練をしたいんだ」

 すでに惑は鞘から抜いており、アクアに見せる。こちらの意図を理解したアクアは、早速小石を一つ嘴に加えてぽいっと放り投げる。自分と小石との距離は大体距離は十五メートルと言った所か。投げられた小石に向かって自分は惑を伸ばして突き刺そうとするが──ガチン! という音と共に石の端を削るにとどまる。失敗だ。

『まだコントロールが甘いって事よねー。これじゃあの洞窟の結晶達を一人で全滅させるなんて到底無理よねー』

 指輪からクィーンの分身からの声が聞こえる。むう、確かにこれでは言い返せる要素がない。予想以上に自分はこの魔剣である惑を使いこなしていなかったようだ。

「さっきの感じで頼む。投げる高さとかはばらばらでいいから。そうしないと修練にならない」

 モンスターだって当然動くのだから、同じ軌道で飛ぶ石を貫いているのでは修練にならない。どんな高さ、速度でもぶち抜ける様にならなければ意味がない。それを目指すための訓練なのだから。

「ぴゅいぴゅい」

 コクコクと頷きながら、了解したとばかりに鳴き声を上げるアクア。そうしてアクアがまた新しい小石を加えて宙に投げ、自分はそれを狙って惑を伸ばす。そしてこれもガチンと音を立ててから地面に転がる。投げてもらう、惑を振る、鈍い音がした後に小石が転がる。これをワンモアの世界が日暮れを迎える前まで繰り返した。クリーンヒットして小石を貫けたのは数回程度で、あとは端っこを削っただけだとか攻撃事態が当たらなかったりとよろしくない結果である。

「日が暮れてきた、今日はここまでにしようか」

 自分には暗視能力があるから夜でも問題ないのだが……かといってぶっ続けでやれば腕が上がると言った物でもない。やるときはやって休むときは休むとメリハリをつけた方が良い。内心では結果がよろしくない事に予想以上に精神的なダメージを受けている自分がいる。今まで相手にして来たモンスター達はそれなりの当り範囲が広い連中だったので、こういったぼろが出にくかったのだろう。今回のように小さな標的を狙い撃ちにするとなると、そう言った面の脆さが浮き彫りになってきたという事になる。

『まあ、問題点が分かって修正することもできるんだし、焦ることはないわよ。コツコツ修練を積み直せばいいのよ』

 なんて、クィーンの分身が声をかけてくれる。そうだな、ここは焦らずじっくりと行こうか。洞窟は逃げないのだから、ある程度満足できるぐらいの結果が出るようになってから再び挑み直せばいいだろう。ここは耐えるときだ。
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ぴっきーん

フェアリークィーン「美味しい出番をすべて奪われたような……」
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