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痛風の洞窟に再チャレンジ

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 惑の力をクィーンの分身に教わってからさらに訓練を続けること数日。やっと消費するMPと惑の動きの調整が終わった。例の空間無視攻撃は相変わらず消耗が大きいが、刀身を完全に闇に変えて普通はあり得ない角度に曲げたりする攻撃手段は比較的手軽にできるようになってきた。

  ──そろそろ痛風の洞窟に戻り、訓練の成果を試してみる頃合いだろうと自分は考えて準備を整えた。アクアにはまたしばらくの間のんびりしていてもらおう。クィーンの幻影の名前もいい加減考えないとな。

 そうしてまた痛風の洞窟に一人で向かい、中に入ろうとしたところで後ろから呼び止められた。

「その外套はアースさんじゃないですか? お久しぶりですね」

 振り向くと、そこにはカザミネとカナさんのペアがいた。二人ともこの洞窟で訓練かな? それとも訓練を兼ねたデートか? その辺の詮索はするべきではないか。

「ああ、カザミネか。実はちょっと外でスネーク・ソードの訓練をしていたんでしばらくここには来てなかったんだよ。お二人さんはどうしてここに? やはりあの結晶相手に訓練かな?」

 自分の問いかけに、カザミネは「ええ、そうですね。私もレイジさんやカナさんとのPvPを交えつつ、大太刀の扱いを一から叩き直している所なんです」との返事が返ってきた。

「そして訓練にカナさんを誘ったのかい?」

 自分の更なる質問に答えたのはカナさんだった。

「はい、カザミネさんからいい訓練の場があると伺いまして。最近では毎日この洞窟の中に入って武器と盾の扱いを訓練しています」

 カナさんは手に持つ片手剣と盾を構えなおしつつそう答える。カナさんもそういえばタンカータイプのプレイヤーだったな。

「そしてレイジさんからの勧めもあったんですよ、ここの洞窟はいい訓練になると。デスペナルティを恐れずに通えばさらに一歩進んだ動きを身に着けるのに役立つと」

 そうか、カザミネだけではなくレイジもここをカナさんに勧めたのか。だから通うようになった、と。

「ああ、そうです。うちのギルドの魔法使いは最近見つかった魔法使い向けの洞窟に通っています。そっちも一度行ってみたんですが、こことは違って溶岩が支配する暑い洞窟でしたね。以前のミリーさんの発言その物の空間が広がっていたのには、つい苦笑してしまいましたが」

 そういえば以前ミリーがフラグくさいセリフを口にしていたっけか? それが現実になってしまったのはなんともはや……魔法を使わないカザミネが入ったのはおそらく最初の一回きりなんだろうけどな。

「なるほど、そちらは順調に冒険と訓練が進んでいるという感じかな」

 自分とカザミネ、カナさんの三人は洞窟の中に歩を進めながら雑談に興じていた。どうせモンスターが出るまではもうしばらく歩かなければならないし、《危険察知》にもモンスターを始めとした危険を告げる反応は無い。自分が行っていた訓練の内容を話したり、ブルーカラーの状況を教えてもらいつつ奥に進む。

「ふむ、じゃあ近々ブルーカラーメンバーの中でも力をつけてきたメンバーはここかさっき言った溶岩の洞窟に送り込むって話になってるのか」

「ええ、いい訓練場であり油断すると一気に危機に陥るという緊張感もありますからね。ここに連れてくれば伸びる可能性が高いメンバーをノーラさんが中心となって選抜している状態ですね」

 ツヴァイのハーレムギルド? なんて言われ方をすることも多いブルーカラーだが、実際はかなりの攻略重視ギルド。メンバーの育成方針としては、各個人のやれる事を見つけさせてその力を伸ばすというやり方をしているようだ。

 その方針のために生産を得意とするメンバーもじわじわと増えているらしい。もちろんギルドメンバーではない自分が聞いた話をもとにこうではないか? という予測を立てているだけに過ぎないからどれぐらい正確かはわからないが……詳しく内情を知りたいわけでもなし、その程度で良いだろう。

「最近は私も教える方に回り始めてまして。メンバーがまだ増えているので、こうやって訓練できる時間が減ってきているのが少々困りものであるという所ですね」

 カナさんが苦笑いを浮かべつつそう述べる。ってか、まだ増えているのか……もう100人近くいるんじゃないか? ブルーカラーのメンバー総数は。

「ちなみに、男女比率はさらに女性に傾いてます。我らがギルドマスターは本当に女性を引き付ける何かがあるんでしょうねえ」

 と、カザミネ。うん、おそらく掲示板ではツヴァイ爆発しろ! なんて言葉が今日も飛び交っているんだろうな。自分からしてみれば微笑ましいだけなのだが、思春期の人達にとってはとても腹立たしい状況だな。

「男性プレイヤーを誘ったりしないのか? その、ツヴァイは?」

 一つ目の冷風を超えて暖を取った後に、歩きながらの雑談を再開する。

「いえ、誘ってはいるんですが……もうハーレムギルドという悪名? が高まってしまってるので、皮肉を言われて断られているらしいですよ。『なんでこうなるんだ……』というのがギルマスであるツヴァイさんがこぼす口癖になってますね。そしてそれを見てミリーさんやエリザさんを始めとした数多くの女性メンバーが励ましますので、ますますハーレムっぽくなってしまうんですよね。初期からの付き合いである私には、狙っている訳ではないというのは分かるのですが」

 やれやれ、と言ったジェスチャーを取りながらカザミネが力なく笑う。あーうん、そんな現場を見せられていたらハーレムギルドじゃねえか! って周囲からは言われちゃうよなぁ。

 自分から見てもツヴァイはジゴロって感じはしない。人が自然に集まっていく魅力? みたいな物はあると感じるが、それが女性方面に強く出ちゃっているんだろうな。時々メールで相談が飛んでくるが、これはプライベートな事だからほかの人には言えない。

「ツヴァイも苦労してるなぁ。まあ、そう言う星の元に生まれたんだろう……という事にしておくしかないかな?」

 この自分の言葉に、カザミネとカナさんはそれが一番いいのかもという感じで頷く。そんなツヴァイ君の女性メンバー増加武勇伝? の様な話をカザミネとカナさんから聞きつつ冷風を超え、ようやく結晶が生息している場所に到着した。

「さて、お話はここまでにしてそろそろ参りましょうか。普段は私が引き寄せるのですが……今回はアース様にお願いできますか?」

 カナさんの要請に自分は「了解」と答え、適当な奴を見繕う。さて、上手く引っ張ってこれそうな手頃な奴はっと……あれかな?

「よし、さっそく引き寄せるから構えておいてくれ」

 ちょっと距離が空いているので久しぶりに弓矢を構えて狙いをつける。うーん、もうちょいこっち、もうちょっとこっち。そうそういい子だいい子だ……今。そういて放たれた自分の矢は膜を貫通、中に居る結晶には当たらず。が、あくまで引き寄せる為の行為なのでそれで十分。攻撃されたと認識した結晶が自分に向かってやってくる。

「はい、相手を仕りますのは私でございますのでこちらへ。《チャーム・タウント》!」

 む、タウントという事は挑発系アーツなんだろうが……知らないアーツだな。あとで効果を聞いてみようか……教えてもらえればだが。

「さあ、アースさん。参りましょう」

 カザミネの言葉に頷く事で返答を返し、惑を手にして攻撃を仕掛け始めた。さて、連日行ってきたあの訓練の成果はこの場でどれぐらい発揮されるだろうか?
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近く、どこまでの話を下げるかの報告をすることになると思います。もし保存しておきたいのであれば、龍の国の話を今のうちに保存行為を行っておかれた方がよろしいかと思われます。
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