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カレー争奪戦。

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 ツヴァイ達にカレーをふるまってからから数日が経過したが、猛毒ソースの研究は一ミリたりとも進んでいなかった。

「はい、カレー三人前上がりました!」「はい、四人前注文ですね、お待ちください!」「すみません、並んでください!」

 話は数日前にさかのぼるが、ある虎の獣人さんが自分とブルーカラーのやり取りを偶然見ていたらしく、街で見かけた自分にあの時の料理を味見させてほしいと頼んできた事が始まり。口に合わなかったら困るので……と念押ししてから少しだけ味見をして貰ったが、味などに問題はないとの事で一人前を四百五十グローで販売した。もちろん販売した場所は他の人の邪魔にならぬように通りの隅っこで行ったのだが、カレーの香りはどうしても広がってしまった。

「この香りは何だ?」「ふむ、あそこか」「今日の腹ごしらえはあそこにするか」

 とかそんな感じで、近くに居た獣人の皆さんが集まってしまったのだ。一人にだけ売って他の人に売らないという訳にもいかず、カレーをじゃんじゃん捌いていくことに。カレーの味は獣人の皆様にも受け入れられた結果、初期時代にあった料理地獄再びという感じになってきた。

  それでも当時と違ってステータスもスキルもある以上そこまで苦痛ではないのだが、そんな状況が数日続いたせいで食料の在庫……具体的にいえば米や配合したカレールーなどがもうなくなりつつあった。

(あと持って二日だな……米が切れたら買い出しに行くか、それともナンの様な無発酵パンに切り替えるかだな)

 カレーの売れ行きは好調過ぎて、作っても作っても足りない。調理道具もフル回転でカレーを作ってゆく。最近お気に入りの外套がカレー臭い様な気がするんだ。本当に気のせいだと思うんだけど。

「こっちあと二人前!」「こっちに三人前!」「お代りだ!」

 はうあ。お米は持ってあと二日と考えていたが、その見積もりは甘かったかもしれない。というか、獣人の皆さんも大食漢が多すぎる。一人でどれだけ食べるんだよ……男女関係なく。もう注文を覚えて居られる自信がないぞ。売り上げとしてお金もガンガン入ってくるけど、それ以上に疲れてるような……あ、材料が切れた。

「すみませーん! 材料切れのため注文は閉め切りますー!」「「「なんだってー!!?」」」

 自分のオーダーストップ宣言に、ガガーン! という表情でこちらを向く獣人の皆さん。いや、あのね。なんでそこまで見事にハモるんですかねえ? あれだけバカスカ食って、食材が尽きないはずがないでしょうに。

「たとえ何を言われても材料切れですのでどうしようもありません! 申し訳ありませんが今作っている分でお終いです!」

 そう宣言すると同時に、自分は少し距離を取る。はぁ、今日もこれから始まるんだろうな。

「おい、お前はもう十分食っただろ? 一皿こっちに回してもらおうか」「なにおう? お前こそ今日は俺より食ってるじゃねえか。譲るのはお前の方だ」「ちょっと待ちなさい。ここは一番食べてない私に譲るのが正しい選択でしょう?」「ワシももう少し食いたい。ここは老い先短いジジイに譲ってくれんかね?」

 はい始まりました、本日のラストカレー争奪バトルロワイヤル。解説モドキ担当はアースでお送りいたします。さて、食材に限りがある以上提供できる料理にも当然上限があるわけですが……獣人の大食漢の皆様の胃袋を残念ながら完全に満たす事が出来ません。

  ですので、オーダーストップの宣言を自分が出すと譲り合いの精神などはその瞬間に吹き飛びます。おっと、近くに居る獣人の皆さんが一斉に拳を構えました。さすがに武器は抜きませんが、太い腕、しなやかな腕などいろいろとあります。一つ共通点を上げるとすれば、人族の一般人が殴られれば十分に死ねるレベルの凶器であるという点でしょうか。

「譲ると思うか?」「はっ、ほざいたな?」「これだから。叩きのめして私が総取りするしかないわね」「ジジイの楽しみを奪うのかの?」

 はい、これで全員の戦闘準備が整いました。ちなみに女性だろうがおじいちゃんだろうが立派な体つきをしております。自分よりはるかにムッキムキ。リアルであんな体を作るにはどれぐらい訓練しないといけないのでしょうか? と本気で考えるレベルです。ですので弱い者いじめという事は一切ありませんね。毎回毎回よくもまあ殴り合う物だと感心してしまいます。

「食うのは俺だ!」「俺に決まってる!」「私よ!」「ワシじゃあ!」

 そして始まりました。ちなみに周りに他の獣人さん達も集まっており、やれやれー! とヤジを飛ばす人、勝つ人は誰かの賭けに興じる人などでごった返しています。あくまでこの場で同意した上で武器を一切用いずに戦っているので、自警団や憲兵さんと言った方もこの乱闘騒ぎはスルーしております。正直自分としては止めてほしいのですが、一種のイベント扱いのようでそんな気配はございません。

「だらっしゃー!」「おらぁ!」「潰れなさい!」「フンガァ!」

 ゴスッとか、ガズッとかの痛そうな音が次々と聞こえてまいります。ですが皆さん非常にいい笑顔で殴り合いを行っていらっしゃいます。普通にカレーを食って立ち去る獣人さん達と違って、最後まで残る獣人さんはバトルジャンキーな一面も多々あるようです。武人が多い北街ならではの一面かも知れませんけど。

「ぐあああああ~!」

 おっと、ここで大きく殴り合いの輪からふっ飛ばされる男の獣人さん。大きく殴り合いの場からふっ飛ばされた時点で失格! と決まっているようでして、それ以上戦いの輪にその獣人さんが加わることはありません。吹き飛ばされてしまった獣人さんは、非常に悔しそうな表情をしていらっしゃいますね。

「俺のカレーが……くそう」

 いや貴方、八杯は食ったでしょうにと生産者からしてみれば突っ込みたい気分であります。自分が真似をしたら絶対にぶっ倒れます。お腹も派手にぶっ壊れてしまいますね。なのにまだ食いたいという獣人さんの胃袋はどうなっていらっしゃるのでしょうか? 基本的な食材の値段が安くなければ、誰もがあっという間に破産してしまうのではないでしょうか?

「老い先短い爺に譲らんかぁ!!」

 おっと、ここでムキムキの狸獣人であるおじいちゃんが必殺技を繰り出しました! 全身から溢れ出すオーラを手に集中して、パンチのラッシュで相手を殴りつけていきます! 他の人は自重しているというのに使うとは、ちょっと大人げない行為です!

「ちょ、ジジイ!? ここで獣人の奥義の一つをつかってんじゃねー!」「そうよ! あくまで素の力だけで戦いなさいよ!」

 当然周囲の人からは非難がガンガン飛んでますね。ですがおじいちゃんは構うものかとばかりに両腕を振るいます。

「カレーの為じゃあ!!」

 あ、そう言えば大切な事を言い忘れていました。急いでここで発表しなければなりません。後出しすると不味いですからね。

「言い忘れていました! 明日から本業の冒険者に戻りたいので、カレーの販売は在庫も無くなったことを受けて本日で終了させていただきます! 申し訳ございません!」

 ──その時、時間が一瞬止まった気がします。殴り合いの音が完全に停止し、獣人の皆さんがこちらを向きます。そして誰かがこう聞いてきました。

「──冗談、ですよね?」

 自分は、キチンとその言葉に返答しておかなければいけません。

「申し訳ありませんが、事実です。今まで本当にありがとうございました」

 その瞬間、いくつものオーラが一斉に立ち上りました。大変なことになってきたようです。

「お主らこそ奥義を使うでないわ!」「うるせージジイ、そんな事を言っている場合じゃなくなっただろうが!」「私が食べるの、食べるの!」

 おっと、完全に闘気だけではなく殺気が混ざり始めました。笑顔が消えて本気での殴り合いが開始されます。これ、勝者になってもカレーを食べる事が出来るのでしょうか? どうでもいい心配事が頭に浮かびます。私もちょっぴり現実逃避しているのかも知れません!

 そして十数分後、派手な殴り合いの後にやっと決着が尽きました。今回最後まで勝ち残ったのは女性の獣人さん。上手く他者の攻撃の合間を縫って体力を温存し、最後にラッシュで押しつぶすという判断が見事にはまりました。そしてあちこちに血が付いたお姿でこう私に仰いました。

「カレー、鍋と釜ごと頂戴。新しい鍋や釜は私が買って貴方に渡します」

 獣人国で作る最後のカレー、鍋&釜ごとご購入頂きました。ちゃんちゃん。
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スキル

風迅狩弓Lv40 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv38 百里眼Lv32  技量の指Lv49 ↑1UP 小盾Lv31 隠蔽・改Lv3  武術身体能力強化Lv82 ダーク・チェインLv44
 義賊頭Lv29 妖精招来Lv16 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.87

控えスキル

木工の経験者Lv8 上級薬剤Lv27  釣り LOST!  料理の経験者Lv22 ↑3UP 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 26

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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