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マリアちゃんの帰宅

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PROUD OF YOU  ~R-TYPE FINAL ENDINGVersion
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 マリアちゃんが帰ると決めた事で、そのための準備を整える。と言ってもマリアちゃんはその身一つで飛び出してきたので、荷物なんかはほとんどない。服の方はお爺さんの古着などで済ませていたようだ。服をここに来た時の服に着替えたぐらいだ。

「お爺ちゃん、ありがとうございました」

 お世話になっていたご老人に対し、マリアちゃんはお礼と言いながら頭を下げる。いい子だ、こういう面はおっちゃんの躾がきちんと行き届いているんだな。

「ほっほ、気にせんで良い。元気でやりなさい」

 では行きやしょうと義賊リーダーがマリアちゃんを先導し、自分もそれに続いて出て行こうとした時にご老人から声を掛けられた。

「お前さんには申し訳ないのじゃがの、良ければもう一度だけここに来てくれんかいの。待っておるぞ」

 義賊リーダーもここのご老人は訳ありだと言っていたが、何の用事なのだろうか? だが、マリアちゃんを保護していたり、帰る時になっても金銭などを要求しない以上悪人ではなさそうだが……悩んでも仕方がないか。ここは受けておくことにしよう。

「解りました、では後ほどに」

 そう返答を返してご老人の家を後にする。今はマリアちゃんを無事におっちゃんの店にまで送らないとな。考えるのはその後だ。それにしても次から次へと……退屈はしないが少々刺激的すぎるな。そんな感情を抱きつつ、先に歩いていた義賊リーダーとマリアちゃんに合流する。合流したところで義賊リーダーは『あっしはこの辺で。では』と言い残して立ち去る。マリアちゃんは一緒に来るとばかり思っていたようで不思議そうな表情を浮かべたが。

「あっ、そこの緑色の外套を来た君、ちょっと待ちなさい!」

 大通りに出て、おっちゃんの道具屋を目指していると自警団と思われる獣人の皆さんに声を掛けられた。そりゃまあ当然か、マリアちゃんの似顔絵は行方不明者としてあちこちに貼られている。その似顔絵と同一人物であると思われる女の子を連れ歩いていれば声を掛けられるのが当たり前だ。もちろんやましい事は一切ないため、自警団の人が近寄ってくるのを大人しく待つ。

「こちらは自警団小隊長のラッセルと言う者だ。済まないが、その少女は行方不明として捜索願が出ている子に酷似している。確認を取らせていただきたいが良いだろうか?」

 オオカミの獣人さんでラッセルと名乗った人物は、自分とマリアちゃんの前まで来ると軽い敬礼モドキの胴さそしながらそう問いかけてきた。ならこちらも名乗っておくか。

「ご丁寧にありがとうございます。私はアースと申します冒険者の一人でして、この子は行方不明となっていたマリアちゃんで間違いありません。私はこの子の親御さんから直接人探しの依頼を持ちかけられ、つい先ほどマリアちゃんを発見。今は大通りを通って親御さんの所に送り届ける途中でした」

 不審人物ではない事を証明するために、外套のフードを外して顔を晒す。フェンリルの頬当てはつけたままだが……顔を見せたという時点でラッセルさんの警戒する様子が少し収まったから問題ないだろう。

「そうだったか、無事に見つかって何よりだ。我々も捜索にあたっていたが、なかなか見つけられずに焦りも出てきていた所だ」

 とラッセルさん。だが、まだこちらへの警戒を完全には解いていないな。当然か、自分が嘘をついていて、今から連れ去ろうとしていた所に出くわしたのかも知れないと考えているはずだからな。ならばここは先手を打とう。幸い自警団の一団は八人いる。

「そうでしたか、ならば都合が良かった。自警団の皆様にも見つけたことを報告しようとは思っていましたが、今はマリアちゃんを家に送り届けるのが先と考えていました。ですがこうして自警団の皆様に出会えましたので、皆様のうち半分は自分とマリアちゃんと一緒に来てくださいませんか? そして残りのお方でマリアちゃんが見つかった事を他の自警団の皆様にお伝えしてほしいのです」

 自分の一言に、ちらちらと目線でどうするか相談している様子を見せる自警団の皆さん。疑われるのは不本意ですがね、自分は本当にマリアちゃんをきちんとおっちゃんの所にまで送り届けますよ。そんな相談も終わったようで、ラッセルさんが自分の前までやってきた。

「分かった、我々も同行しよう。だが、発見報告は二人で十分だ。マリアちゃんの保護として私を含む六名で同行したいのだが構わないな?」

 もちろん構いませんとも。なので自分はすぐに「了解しました、それでは宜しくお願いします」と伝えて頭を軽く下げた。この自分が見せた反応は予想外だったのか、ラッセルさんは「あ、ああ。こちらこそよろしく頼む」と少々面食らったような声色で返答を返してきた。

「お兄ちゃん、いこう」

 そんな自警団の皆様とのやり取りに飽きたのか、もしくは何かを感じ取ったのか……マリアちゃんが自分の外套を軽く引っ張ってきた。そうだな、マリアちゃんをさっさと送り届けないと。

「自警団の皆様、いろいろと聞きたい事はおありでしょうがそれは歩きながらでもできます。今はマリアちゃんを無事に届ける事を第一としませんか?」

 自分の言葉とマリアちゃんの様子を見た自警団の皆様は、その言葉に頷いてくれたのである。そしてマリアちゃんを送る傍ら、大雑把に自分が探索に加わることになった経緯も話した事である程度は信用してもらえたようである。最初の疑うような自警団の皆様が自分を見る目はかなり穏やかな物になっていた。

「なんにせよ、無事に見つかってよかった。東街でバッファローの大群が王を旗頭に侵攻してきた事があってまだ街中がピリピリとしている中、今度は誘拐かも知れない行方不明者の捜索。街に嫌な空気が流れていたが、これで一息つけるだろうな」

 ラッセルさんの言葉に、他の獣人の皆さんも同意している。マリアちゃんも「ごめいわくをかけてごめんなさい」と自警団の人達に頭を下げた。自警団の皆さんもそんなマリアちゃんを見て「気にしなくていいぞ。ただ、次からは気を付けてくれよ?」と軽い口調で答えていたので、マリアちゃんの表情が極端に曇るという事も無かったのは幸いと言えた。だが、それでも徐々にマリアちゃんの歩く速度が鈍ってきた。マリアちゃんが疲れたわけではなく、おっちゃんの道具屋……マリアちゃんの家に近づいてきたからだ。

「怖いかい?」

 自分の問いかけに、マリアちゃんは頷く。しかし──

「でも、ここで逃げちゃダメだってわかってる。ちゃんと叱られないとダメだって……けじめって物をつけないといけないって」

 その言葉を聞いた自警団の一人が「本当にしっかりとした娘さんだな、こんな子がなんで?」と首をかしげていた。そして到着したおっちゃんの道具屋の前では、二人の自警団陰と思われる獣人さんが二人と、見つかったという連絡をおそらく受けていたおっちゃんが待っていた。そんなおっちゃんの前に、マリアちゃんがおずおずと進み出る。

「ただ、いま。そして、ごめんなさい……」

 そんなマリアちゃんに対し、おっちゃんは無言でマリアちゃんの頬をひっぱたいた。大人の獣人が持つ力でひっぱたかれたマリアちゃんは立っていられるはずも無く、横に軽く飛ばされた後に地面に伏した。そんな倒れこんだマリアちゃんにおっちゃんはさらに近寄り──

「このバカ娘が! お前はお姉ちゃんになっているのに、これだけ大勢の人に迷惑をかけて! 立て、今日はその性根を……」

 叩き直してやる、と言葉を続けたかったんだろうがおっちゃんは続けることが出来なかった。その理由は、《ウィンドブースター》で一気に近寄った自分がおっちゃんの腹を蹴り飛ばしたからだ。足にはいつもの強化靴を装備していないし、蹴り飛ばすのにもアーツを使ってないとはいえ、そこは今まで戦ってきた事で蓄えた力がある。そんな自分の蹴りを食らったおっちゃんは、マリアちゃん以上の距離を宙に舞う事になった。一瞬そんな光景に呆気にとられた自警団の皆さんも一斉に動き、自分を取り囲んだ後に槍の穂先を向けて来る。まあ、追い打ちするつもりは初めからなかったが。

「な、なんでお前さんが俺を蹴るんだ……? いつつつつ……」

 おっちゃんは腹をさすりながらゆっくりと起き上がる。自警団の皆さんは自分を取り囲んで槍の穂先をこちらに向けたままこう宣言して来た。

「何故暴行を振るった! 事としだいによっては犯罪者としてこの場で拘束し、連行するぞ!」

 だが、それに臆せずに自分はただ一言こう腹をさすっているおっちゃんに向かって怒鳴り声を上げた。

「馬鹿野郎! 性根を叩き直さねばならんのはマリアちゃんの方じゃない! こんな時にすら娘の名前を呼ぶ事すらできないお前の方だ!」

 と。
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