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痛風の洞窟の先

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 生暖かい空気の中で行われたアイスガーゴイルからの説明だったが、ここはもともと暇を持て余した氷の体を持つモンスター達のたまり場だったらしい。どうやら彼らは氷の核をぶち抜かれてこの洞窟から無理矢理外に出されない限り死ぬという事も無く、それゆえに退屈な日々を送っていたとの事。なので、そんな場所にやって来る変わり者の相手をするというのは最高の娯楽らしい。そして少し前にやってきた人がルールを教えて行った将棋が今は爆発的な人気なんだと。

「いやはや、殴り合うとか魔法の打ち合いとかで戦う以外の楽しみを提供されたからな。時間は有り余っているから、いい楽しみになるんだよなこれが」

 なんて言ってた。そしてここで待っている理由はそうしてやってきたお客が何も知らず先に進んで、むやみやたらと死なせないためらしい。死なせないためだったら、あの氷の結晶は何なんだと質問してみた所……「アレは一応門番と審査委員を兼ねてる存在であって、あれをどうにかできないならここに来る資格がない」とばっさり。

「ここからさきはちょーっといろいろあってな。それなりの注意をしておかないとあっさり死体になる。こんな奥までやって来ることができる客人をそんなあっさりと死なせたら退屈だからな」

 とどのつまり、退屈しのぎ。刺激が少ない分、たまにやって来る刺激を長持ちさせたいとかそういう感じなんだろう。まあその退屈しのぎの説明も、こうやっておとなしく説明を聞いてくれる人に限ると言った所なのだろう。

「ちなみに、ここから先には何があるんですか?」

 と質問を投げ掛けてみると、氷の体を持ったモンスターと戦える闘技場。氷で作られたトラップ有りの迷路。スピードとタフさを競う妨害有殴り合いありのスケートコースみたいな物。ほかには物理攻撃無効化、もしくは魔法攻撃無効化といった限定状況下で戦う特殊闘技場まで。とにかく戦う事に重きを置いた施設がずらりとあるとの事。

「飛び入り乱入も歓迎なんだが、下手な奴が出ると死んじまうからな。まあその死んじまう奴がここまでやってこれないようにあいつらがいるって訳だ。」

 洞窟の奥には乱入OKの闘技場がありましたとか、なんだかなぁ。とはいえ、修練になると言えばなるのか? 結局戦うという点に関しては同じなんだし。

「という訳で、ここまでやってこれたお前さんにはぜひ何かに出て行って欲しい。勝ったとしても金や宝箱なんかは用意してやれないけどな」

 ──なるほど、掲示板なんかで宝箱とかは一切ないと言うのはこういう事か。戦いの経験……スキルレベルなんかは上げられるが金銭的うまみは全くなし、と。確かに掲示板に合った情報に合致するな。内情は斜め上すぎたけど。そして勝っても報酬なしとくればそりゃ人気でなくて当然か。とは言え折角来たんだから、一回ぐらいは出てみようかな。

「じゃあとりあえず、迷路でお願いします」

 自分がそう伝えると、アイスガーゴイルの左側が「おーい、案内頼むぞ~」と奥の方を向いて声をかける。その声に反応してできたのは氷でできた一匹のうさぎ。アイスラビットと言った所か。氷でできているはずなのだが、その体は実にしなやかに動く。この辺はファンタジーという事なんだろう。

「頑張ってこいよ~」

 そんなアイスガーゴイルからの応援? を背に、アイスラビットの後をついて歩くこと数分。先導していたアイスラビットが立ち止り、首で「先に進んで」と合図を送ってきた。その合図に従い、アイスラビットの横を通り抜けて数歩進むとそこには氷の体を持った女性が宙に浮かんだ姿で待機していた。

「ようこそ氷の宮殿へ。案内を務めますグラキエスと申します。この氷の宮殿の入り口から入りまして、ゴールである女王陛下の謁見室にたどり着くまでの道のりが迷路となっております。制限時間は人の時間で一時間。制限時間を超過した時点で、強制的にこの入口にまで戻されるようになっております」

 グラキエスと名乗った女性は、そんな事を淡々と述べる。足の先端は鋭くとがり、手も鋭い。顔はかなりの美人なのだが、その寒々しい姿は、先程見たアイスガーゴイルよりもよほど寒気を感じさせる。──まあ、あのアイスガーゴイルはあんな将棋を撃つ姿を見たからこそ微妙な空気になったのかも知れないけど。

「それでは、覚悟が決まりましたらどうぞお入りください。なお、仕掛けられている罠はかなり多くあり、発動させてしまうと即死とは言いませんがそれなりの重傷を負う可能性がございます。くれぐれも油断なさらぬようにお願いします。久々の挑戦者が早々に脱落されては面白くありませんので」

 そんなグラキエスの言葉を聞いてから迷路に一歩踏み出す。さて、どこまで行けるかな。罠がかなり厄介そうだが……そう考えていたが、それ以上に厄介な物があった。

「これは……とっても見ずらいぞ!?」

 迷路を形成していた壁は、全部かなりの透明度がある氷だったのだ。自分の姿がいろいろ映り込むし、厄介なことこの上ない。鏡を利用した迷路なんてアトラクションを体験したことがあったが、あれも短い迷路だったのにかなり苦戦したことを思い出す。

(その上罠もあるって話だったな。って早速……)

 その罠は、壁に手をついたら発動するタイプだった。逆にいえばそこの壁に手を突かなければいいわけだが……この迷路は壁にぶつからないように手をついて進みたくなるような迷路だ。それなのに壁に手をつくなという仕組みになっている所でタチが悪い。

(この罠の仕組みは、触ったら氷の槍が壁からせり出してきてぐっさりかな? 左右どっちの壁にもしっかりと仕掛けてあるな、これはまた面倒な)

 壁との距離感を誤って、ゴツンとぶつかった場合でも容赦なく発動するだろう。というか、そっちが本命なのかもしれない。この条件で一時間で踏破……無理とは言わないが厳しいな。それでも進まなきゃ始まらない。罠の発見と解除で〈義賊頭〉のスキルレベルが上がることに期待しようか。と考えていたのだが……

(えーっと、こっちはもう行ったんだっけ? そしてこっちはまだだっけ? あっちはもう行ったから……)

 それから約二十分後。自分は見事に迷子になっていた。何せ目印になるようなものも特にないし、壁は氷で見えすぎる為に余計混乱を誘う。そんな状況下で床に仕掛けられている罠の発見と解除何かをやっているうちに混乱して来たのである。真っ暗で何も見えないという状況は混乱を誘うけど、逆に見えすぎても混乱を誘うという一例になってしまった。

(床に何か書ければいいんだが、全然傷がつかないし……物を置いたら即座に消滅するし……そう言う一般的な方法は全部潰されてるな。マッピングも封じられてるのにきっついな)

 お約束のマーキングやアイテムを置いての通路確認も封じられていた。本当にめんどくさい子のこの上ない。そしてそんな右往左往している自分を見て、ここに居る氷のモンスター達は退屈を紛らわせているのかも知れない。バラエティー番組でも、参加者である芸能人がアトラクションの罠などで右往左往するシーンとかがあるしな。今の自分も上から見ればそんな感じなんだろう。とにかくなかなか前進できないという事だけは事実だ。

(もう四十分が経過したのか。この調子だと……こりゃ今回ゴールまでたどり着くのは無理だな。進んでいるのはいくつもの罠を解除しているから間違いないと思いたいが、ゴールとされている謁見室らしきものはまだ見えてこない。後二十分ではどうあがいても行けないか)

 そしてこの自分の予測通り、迷路に突入してから一時間が経過して強制退場を食らった。〈義賊頭〉のスキルレベルは上がったが、それ以上に疲れる事になった。今日はもう街に戻ってログアウトしよう……。
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スキル

風迅狩弓Lv40 剛蹴(エルフ流・一人前)Lv38 百里眼Lv32  技量の指Lv51 ↑2UP  小盾Lv31 隠蔽・改Lv7  武術身体能力強化Lv82 ダーク・チェインLv45
 義賊頭Lv36 ↑3UP 妖精招来Lv16 (強制習得・昇格)(控えスキルへの移動不可能)

追加能力スキル

黄龍変身Lv1.88

控えスキル

木工の経験者Lv8 上級薬剤Lv34  釣り LOST!  料理の経験者Lv22 鍛冶の経験者LV28 人魚泳法Lv9 

ExP 33

所持称号 妖精女王の意見者 一人で強者を討伐した者 竜と龍に関わった者 妖精に祝福を受けた者 ドラゴンを調理した者 雲獣セラピスト 人災の相 託された者 龍の盟友 ドラゴンスレイヤー(胃袋限定) 義賊 人魚を釣った人 妖精国の隠れアイドル  悲しみの激情を知る者 メイドのご主人様(仮) 呪具の恋人

二つ名 妖精王候補(妬) 戦場の料理人
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