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闘技場その2

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 そのあと数試合を見せてもらった後に自分の頭に浮かんだのは、(これ、本当に自分が出ても良いのか?)という疑問だった。何せ一戦一戦が素晴らしい戦いで見ごたえがある上に、周囲の観客である皆さんも非常に盛り上がっている。そんな場所である闘技場の武舞台に上がっていいものか、と。

 たとえになるか微妙だが、一流マジシャンでもダンサーでもなんでもいい。とにかく素晴らしい芸を見せてくれた人の後に、しろーとがひょこひょこと出て行ってつまらない芸を見せたらどうなる? ものすごく温まっている会場が一気に冷める可能性は非常に高い。

 そして冷めた会場の冷気は、壇上に居る人に容赦なく向かう。そうなるときついんだよなぁ……むしろへたれっぷりを笑ってもらえた方がはるかにマシだって言うぐらいに。

「如何でしょうか?」

 そしてそんな自分の様子を伺うように、雪女? さんが声をかけてきた。むう、何て返そう。考えてもいい言葉が出るかどうかは分からなかったので、とりあえず素直な感想を伝える事にした。

「一言で言ってしまえば素晴らしい、の一言に尽きます。力強さ、技の冴えもさることながら、何より見ごたえがあるのがすごい所です」

 そう、魅せる戦いとでも言えばいいのだろうか? ただ勝つだけではない、観客を巻き込んで盛り上げると言った一面があるのだ。挑発、アピール、とっておきの大技。それらをうまく組み合わせて会場の空気を暖める。ここが痛風の洞窟内であると忘れてしまうぐらいに。

 ある程度来るまでの道を整えて人の流れを良くして、この闘技場で行われている戦いを見せるだけで金が十分に取れるんじゃないだろうか? それゆえに外から来る人が少ないのはもったいないな、とも思う。痛風の洞窟の特性がきついんだよなぁ。

「戦いが生きがい。そう豪語する人達が戦う場でもありますから、楽しんでいただけているなら嬉しいです」

 雪女? さんも自分の返答に満足したようだ。満足してもらうための発言ではなく本音だったのだが、こちらの本音で相手も満足してくれたのであれば最上の結果だろう。

「それでどうしますか? そろそろ出場してみたいと考えるようになってきましたか?」

 ──ついに来た。残念ながら、その真逆の考えに自分は突き進んでいるんですけど。これだけの戦いの後に道化……いや、これでは道化師の皆さんに大変失礼だな。素人の魅せる事も出来ない、ただの戦いなんかを見せた所で盛り下がるだけだろうなぁ~。よし、はっきり断ろう。

「申し訳ないのですが──」

 出るのは見合わせようと思います、と自分は言おうとした。だが、申し訳ないのですがの発言を行った直後に雪女? さんががしっと自分の肩を掴んでにっこりと笑顔を見せた。握力がかなり強いらしく、結構痛いんですが。

「出て頂けますよね? もちろん勝敗も勝負内容も指定いたしませんので」

 一応言っておくと、この笑顔は攻撃的な意味での笑顔だ。笑っているけど笑っていないって奴に該当する。しかしだなぁ、自分の力量を考えるとなぁ。うーんと唸ってしまった自分に、後ろで観戦しているモンスターさんから助言が入る。

「ああ、姐さんの言う通り別段気負って戦ってくれって訳じゃないぞ。そもそもあそこで今まで戦っていた連中はそれこそこればっかりやってきた連中だ。それと同じ戦いを外から来てくれた客人に要求するのは馬鹿のやる事だ。それよりもこういった戦いとは全く別の試合を見せて貰える方がこっちにとって良い刺激になるんだよ。無理にとは言えないが、一戦だけでもいいからってくれないかい?」

 そんなもんですか。一応雪女? さんに目で確認を取ると頷いた。まあ、確かに熱戦を山ほど見ておいてはいさよならでは薄情すぎるというか見料を踏み倒すような物か。それならまあ、一回だけ戦っておくのが対価になるのかね。ただ、正々堂々何て絶対に無理だから小技を多数含めて……どれだけ持つかな。何とか道化になることはできそう……かね?

「解りました、そちらの希望に応える事が出来るかどうかは分かりませんけど……やるだけやってみます」

 自分の発言に、近くの観戦者が「よっ、待ってました」とばかりに拍手する。あの、帰って良いですか? その期待しているよという拍手が重いのですが。

「だめです、出ると発言したのですから曲げないでくださいね♪」

 声には出してないのになぜわかったんだよこの雪女? さんは。そして自分は闘技場の控室に案内どなどなされたのである。逃げ道は初めからなかった訳であった。


(ここが控室か。やっぱりこういう場所には独特の空気があるねえ)

 肌がピリピリする。控室の中に入ってきた自分をちらりと見たモンスターの皆さんだったが、その後はこちらに視線を向けない。やっぱり戦いの中に生きる人はそれだけの緊張感をもって……っと、肩を叩かれた。振り返ると、そこには最初の勝負で熊型と戦っていたリザードマン型のモンスターさんがいらっしゃった。

「ようこそ闘技場へ。貴方の参戦を心より歓迎しよう」

 とっさにどう返答すればわからず、「はあ、どうも」と気が抜けた声しか自分の口からは出なかった。

「まあ、緊張する必要はない。それと確認しておきたいのだが、ここでのルールは説明を受けているか?」

 と、最終確認みたいなことを言われたので、教わったルール全てを口に出してこのように聞いていますと伝えた。知っている、の一言で済ませるよりも確実性が高いのでこの方法を取った。

「伝わっているようだね。あくまで自分の武を見せる場であって、殺し合いの場ではないと理解していれば十分だ。あと、無理に相手への挑発やアピールを行う必要はないぞ? アレは我々がある意味悪乗りしてやっているだけだからな。人族にもヒール役とかベビーフェイス役とかいう物があるのだろう?」

 そりゃプロレスですがな。こういう情報は絶対プレイヤーが持ち込んでるな……誰だよこんな情報をこっちの世界の人に流したのは。って追求すると、カレーを始めとした各方面から総ツッコミが来そうだからやめておこう。自分も結構色んなものを各地にばら撒いちゃってるからなぁ。

「ええ、まあ……ありますね」

 これ以外何と返せと。いや、口の回る人ならさらっと返すんだろうが自分には無理だった。全然関係ないけど、今の自分はモンスターハウスの中に一人でいる状況だよね。襲ってこない友好的な皆さんだから問題ないけど、事情知らない人が見たらお前さんはそんな場所で何やってんだと言ってくる光景だよな。

「結構だ。では、楽しみにしているよ」

 そう言うプレッシャーをズッシリとかけるお言葉はやめてほしい。こればっかりはいくら齢を重ねてもどうにもならない部分だ。ただ年を取ればそれを表面に出さないように小細工を覚えていくだけの話になる。ポーカーフェイスみたいな物、なんだが。

 そこから話しかけてくる方もおらず、呼び出されるまで装備のチェックとアイテムのチェックを行いながら待つ。アイテムを使っちゃいけないという事は言われていないので、回復アイテムとかは使わせてもらう。そもそもの肉体的な差が大きく違うんだから、それぐらいは良いだろ。

「お待たせしました。アース様、出番です」

 あ、いよいよ出番ですか。歓声が上がってる。前の試合もかなり盛り上がっていたようだな。やーれやれ、お相手は誰なんだろうねえ。いきなり闘技場のチャンプが待っていて、「よくぞ来た、遊んでやろう!」とかいうネタはやめてほしいな。
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皆さんの訓練方法を試したら、頭のどこかがぱーんしました。
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