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再び南街へ

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 さて、引き分けに終わった闘技場の戦いからそれなりの時間が経過した。あれから毎日自分は痛風の洞窟の奥に通い、闘技場二、氷の迷路一の割合で参加していた。もっとも闘技場の方は、いろんな氷のモンスターの皆さんから可愛がりされているようなものだったが……スキルレベルは上がったし、プレイヤーとしての戦闘技術も磨かれたと思う。

 氷の迷路の方は罠の発見や解除の技術を上げるのに役立った。残念ながらまだまだゴールするには程遠いが、それでも罠の発見と解除に掛けなければいけない時間が確実に減っているので探索範囲は広がっている。氷のモンスターの皆さんも、積極的な参加者という事で色々と良くしてくれる。そしてとくに闘技場で最初に戦ったあの氷のワーウルフさんから……

「よし、やってみろ! お前が俺の蹴りを完璧に習得できたかをここで確かめるぜ」

 あの日見せてくれた彼の奥義、《幻闘乱迅脚》の習得を許してくれた。以前カザミネが自分の話からボスのアーツを習得する切っ掛けを得る事が出来るようになっていたが、今回は使い手直々に教えてくれているので習得の速度が段違いに早い。彼の言葉を借りると、これはあれだけの戦いをしてくれた自分へのお礼なんだそうだ。

「行くぞ、《幻闘乱迅脚》!」

 自分が的代わりに用意された氷の彫像に向かって《幻闘乱迅脚》を繰り出す。使えるようになって分かったが、この技はまず最初に空中に高く飛び上がってから攻撃力を持つ幻影を周囲に纏う。そしてそこからその纏った幻影を伴って相手に飛び蹴りを入れるというアーツだった。

 そのため相手に命中すれば、自分自身の攻撃と纏った幻影の数による攻撃の連続攻撃になるという訳だ。さらにこの幻影はテンションが高かったり、この技で絶対に決める! などと強く念じてから撃つと数が増える傾向にあるようだ。最低でも幻影は四つ出るが、最高で十二も出るという事が判明している。

 そして今回自分が放った《幻闘乱迅脚》は、的代わりの氷の彫像を打ち砕いた。幻影の数は多分八つほどは出ていたんじゃないだろうか? ともかく、これで──

{課せられた試験を突破しました。貴方は特殊アーツ《幻闘乱迅脚》の完全習得条件を満たしました。次回より完全な形で発動することが可能になります。さらに出現する幻影をカスタマイズすることが可能になります}

 と、システムアナウンスも出てきた事で完全に習得できた事がはっきりする。モーションが大きいからいきなり撃っても当らないし、テンションが高まっていないといまいち火力も弱い。ある意味必殺技の一つとしてここぞ! という時に撃つべきだな。それにしても幻影のカスタマイズとは何ぞや? 後で確認しておくか。

「おう、良かったぜ! えーっと、免許皆伝とかいうんだっけか、こういう時は。ま、俺の教えた最高の蹴りを上手く使ってくれよ?」

 ワーウルフさんから少々荒っぽい祝福を受ける。まあ肩をバンバンと叩かれているのだが、これがちょっと所でないぐらい痛い。HPゲージをちらりと見ると、やっぱり減少していた。とは言え悪意でやっている訳ではないので怒るわけにもいかない。喉が渇いたからと適当にごまかしてポーションを飲んでおく。

「何とか間に合ってよかった。今後ここにはあまり来れなくなってしまうからな……」

 ポーションを飲み乾した自分はボソリとつぶやく。実は今日のログイン時、一通のゲーム内メッセージが届いていた。差出人はツヴァイだ。

【よう、元気か? 最近は痛風の洞窟に入り浸ってるって事だが……近いうちで良いから獣人連合の南街に顔を出して欲しいんだ。覚えているか? 以前ハーピーの親子の困りごとを解決しただろ?

 その時のハーピーの親子に再会してな。あの時のお礼と子供達が大きくなったので改めてお礼を言いたいので、是非遊びに来て欲しいって誘われたんだ。だったら切っ掛けとなったお前が居ないと始まらないからな、何とか来てほしいんだが厳しいか?】

 という内容だった。ここで今更ながら思い出したのは、あの時ハーピーの親から受け取った金の卵だ。アイテムボックスにしまい込んだまま、バッファロー軍団との戦いがあった事もあって完全に忘れていたのである。今更ながらごそごそと確認してみると……

 金の卵

 ハーピーが稀に産む? とされている卵。中には何かが入っているが、無理やり割ってしまうと中身を含めて全てが消滅してしまうという特性を持つ。孵化まであと少し。

 ということで、いまだ産まれていませんでした。いや、中に入っているのはアイテムのはずなので産まれるという表現は間違っているかもしれないけど。まあそんなわけで、痛風の洞窟通いはこれでいったんお終いという事になるのである。

「なんだよ、もう来れなくなっちまうのか? 事情があるんだろうがつまんなくなるな~」

 自分のつぶやきを聞いたワーウルフさんは不満そうだが仕方がない。自分はここに定住するうつもりはないのだから、いつかはお別れになるのは仕方がない。

「済まんな。だが時間が出来ればここに来るさ。その時はまた勝負をしよう」

 自分の言葉にワーウルフさんも「当たり前だ!」との言葉を返してくる。とにかくアーツの伝授も終わった事だし、これから残りの時間を使って獣人連合の南街を目指そうか。アクアに頼めばあっという間に付く距離でしかないからな。

 痛風の洞窟を後にして、街に帰還。そこからアクアにお願いして背中に乗せて貰って南街へ。この日はその後《幻闘乱迅脚》の性能を確認した後にログアウト。《幻闘乱迅脚》の習得でかなりの時間を使っていたので、行動は翌日に持ち越すことにしたのだ。当然ツヴァイにもメッセージを送っておき、明日からは大丈夫だと伝えておく。

 ちなみに……《幻闘乱迅脚》の幻影カスタマイズとは、一定以上の関心を得ている人などを幻影として登場させることができるという内容だった。また優先順位も設定できた。そしてその選択できる幻影の中には、あの日助ける事が出来なったエルフ、エルの名前が……あとで考える事にしよう。

 そして翌日。メッセージなどで連絡は取り合っていたが、こうやって直接顔を合わせるのは久々な気がするブルーカラーの面々と合流した。

「よう、アース。痛風の洞窟はどうだった?」

 ツヴァイの挨拶には、「いい経験になったかな」と軽く返す。他のメンバーとの二言三言会話を交わし終えた後にツヴァイを先頭にして歩き出す。

「それにしても、ハーピーの皆さんと会うのは久々だな。しかもお礼って……あの時に金の卵を貰った事で終わったと思ったんだがなぁ」

 自分がこう話を切り出したところ、最初に反応したのはカナさんだった。

「そう言えばその金の卵、中から何が出てきたか教えて頂けないでしょうか? 私の卵からは魔法に対する防御力が上がる靴が出てきました」

 へえ、カナさんの卵はもう孵化してたのか。他のメンバーの話も聞いてみるが、孵化してたのはノーラ、カザミネ、カナの三人だった。ちなみに内容はノーラは手先の器用度が上がる指輪。カザミネはアームブレイクに耐性を持っているという小手だった。

「先に孵化した三人の結果から、かなり強力な物が出て来る事に期待してるんだが……アースのもそうらしいけど、俺の卵のかなりの寝坊助なんだよなぁ」

 ツヴァイがやれやれと言った感じでぼやく。カザミネは地道に待つしかないですよ、こういう物は。と持論を述べて、エリザはたまに人のものとはいえ、ここまで生まれないのを見ていると、割りたくなってきますわと言った反応。もちろん無理やり割ってしまったら消えてしまうんだからやらないだろうけどさ。

「まあそれはいったん置いておきましょ。ツヴァイ、出迎えが来るって話だったわよね?」

 本来の目的から脱線してきているので、それを軌道修正したノーラがツヴァイに確認を取る。

「ああ、ケンタウロスの皆さんが来てくれることになってるって話だったな。俺達は南出口の外で待ってりゃいいんだ」

 そういう風に話がまとまっていたらしい。それはそうと……

「ツヴァイ、それにしてもよくあのハーピーさんと再会したなぁ。一期一会で終わると自分は思ってたんだが」

 この自分の言葉には、ツヴァイではなくミリーが返答して来た。

「実は最近、良く会うんですよ~。実はこの街の近くに隠しダンジョンがあってですね~、そこへ向かう道の途中がハーピーさん達のお散歩ルートとぶつかってるんですね~」

 そんな理由ですか。まあいいか……とりあえずあの時のハーピーの子供達は元気だといいな。まあこうやってお誘いを掛けるのだから大丈夫だとは思うけれど……。
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