上 下
296 / 542
連載

ケンタウロスさんの案内

しおりを挟む

 南の出口で待つこと数分。数人のケンタウロスさんがこちらに向かって走り寄ってきた。近づいてきたところで速度を落とし、最終的には徒歩と変わらない速度に。えーっと、ひーふーみー……こちらと同じ人数だな? 案内をするにしてはずいぶんと大勢だけど、何らかの理由があるのだろうか?

「ツヴァイ、待たせてしまったかな?」

「いやいや、時間通りだ。俺達がちょっと早く来ちまっただけだから気にしないでくれよ」

 先頭のケンタウロスさんがツヴァイと軽い挨拶を交わしていた。その様子からそれなりの交友がある事が伺える。っと、ツヴァイがこちらを振り返って「ああ、紹介するぜ」と前置きをしてから喋りだす。

「こちらは、ケンタウロスのフラッドさんだ! 実はダンジョンの場所を教えてくれたのもこのフラッドさんで、ちょっとした出来事がきっかけで知り合ってから、俺達に色々と仲良くしてもらっているんだぜ」

 ツヴァイの紹介を受けた上半身を他のケンタウロスさんよりも立派な鎧で固め、馬部分にも専用の革製と思われるスカートのでっかい物? を身に付けたケンタウロスさんが一歩前に出てきて軽く会釈。そして自分の口で自己紹介を始めた。

「貴殿がアース殿か。私はケンタウロス族の一人、フラッドという名を親より賜っている! ハーピー達や我が友であるツヴァイからも貴殿の話は聞いている。今回のハーピー達の下に案内させてもらう事になった。よろしく頼む」

 このフラッドさんの挨拶に自分も「アースと申します。本日はよろしくお願いいたします」と会釈を返す。

「さて、アース。なんでこんな大勢のケンタウロスの皆さんが来たのが疑問に思ったかもしれないが、それなりの理由があるんだ。今はとにかくついて来てくれ。言葉で説明するより、アレは一回自分自身で体験してもらった方が早いんだよ」

 ん、表情で自分が疑問に思っていた内容がばれたのか? まあ相応の理由があるようだし大人しくついて行こう。ツヴァイ達が自分をだます理由もない事だしな。

「では出発しよう。案内は任せてくれ。ツヴァイ、いつものメンバーは顔なじみによる案内で問題ないな?」

「ああ、よろしく頼む。で、アースの案内役は……彼女で良いのか? 初顔だから多分そうじゃないかと思うんだが」

「察しが良いな、彼女はそのために来てもらった。ではお前はアース殿の案内を頼む。粗相の無いようにな」

 出発前にそんなやり取りがツヴァイとフラッドさんの間で行われ、いざ出発。人一人とケンタウロスさん一人がペアを組み、同じ速度で歩く。この行動も何らかの意味があるのだろう。そして自分のペアとなったケンタウロスの女性が、ある程度歩いて街から距離を取った所で話しかけてきた。

「大体行進速度が安定したので、そろそろ自己紹介をしたいのだがよろしいだろうか?」

 キリッ、というSEが聞こえたような気がした。女騎士の雰囲気を漂わせる彼女の言葉にやや押されたが、何とか頷く。

「私は親よりシェルフィルという名を頂いている。今回新たに案内をして欲しい人員がいるとの事で、我らのリーダーであるフラッド殿より貴殿の案内役を任された者だ。この案内の最中は、バッファロー共が多数襲い掛かって来ようと貴殿に怪我など一切負わせぬことを約束しよう」

 ──ものすごい気合の入りようだ。その気迫のせいなのかどうかは分からないが、《危険察知》にかかるぐらいの距離に居るバッファロー達は一目散に逃げていく。そのため、襲い掛かって怪我をする可能性自体が一切なかった。あとは皆との軽い雑談や近況の報告を行いつつ歩を進めるうちに、森の近くに到着した。

「では、ここからはペアとなった者がきちんと手を繋ぐ様に。霧の森に入るぞ」

 フラッドさんの言葉がかかるとほぼ同時に、ツヴァイ達はケンタウロスの皆さんと手を繋ぐ。自分にもシェルフィルさんから左手を差し出されたのでその手を右手で掴む。

 ガントレットなどをせず、手袋をしているシェルフィルさんの左手は女性の柔らかさと、武器を扱う人の固さが入り混じったような感じを受けた。そうして手を繋いだ状態で全員が森の中に入って数十秒ほどが経つと、突如真っ白い霧が辺り一面に発生して周囲が真っ白に染まって見えなくなってしまった。

 その霧の濃さは、先程まで近くに居たはずのブルーカラーのメンバーや、ケンタウロスの皆さんも誰一人として見えない状態になっている。今見えるのは自分と手を繋いでいるシェルフィルさんだけだ。

「手を決して離さないでくれ。この霧を通過する前に手を離されてしまうともう見つけることはできなくなってしまうからな……」

 ──そうして先程よりも強く自分の手を握ってくるシェルフィルさん。なるほど、この霧を通過するためにケンタウロスの皆さんの協力が必要なんだな。そしてこの霧を抜けられるのはケンタウロスさんとかハーピーさん。もしくは一緒に手を繋いでいる人一人って所かね? だから案内なのにケンタウロスの皆さんがこちらと同じ人数にするために大勢やってきた……と考えて間違いないだろう。

「この霧は厄介だなぁ……まさかとは思いますが、この霧に乗じて襲い掛かって来るモンスターなんかもいるのですか?」

 シェルフィルさんに声をかけると、「うむ」との声が返ってくる。

「実力事自体は大したことは無いが、この霧に迷い、疲れ果てた者を襲う魔物は確かにいるぞ。だが、逆にこちらが疲れ果てていなければまず襲ってはこない。向こうも自分達の実力を分かっているという事だな」

 それはまた面倒な。何も知らずにこの森に入ったら不味いな……初見殺しどころじゃない。一応聞いてみるか。

「この霧に包まれた森に入ってしまったら、もうどうしようもないのですか?」

 この自分の質問に、シェルフィルさんは「そんなことは無いぞ?」との返答。

「この霧の異様さに気がつき、すぐに来た道を引き返せば間違いなく出られる。だが、好奇心に逆らえずに一定以上の距離を進んでしまうと人族や獣人などでは、脱出は厳しい事になるだろうな。今の貴殿が感じているかどうかわからぬが、実はまっすぐ進んでいるようで、いくつもの分かれ道を進んでいるのだ。我らケンタウロスやこの先に居を構えているハーピーなどは、その道を感覚で理解できるので問題はないのだが」

 無限回廊に近いものがあるな。正解の道をたどらない限り先に進むことができない幻術を掛けられている道、みたいな物の一種だろう。さらに道がこの濃い霧で全く見えないときているのだからさらに難易度は跳ね上がる。《危険察知》なんかもしばらく進んだら機能が殺されていて、周囲にモンスターが居るのかどうかなども解らなくなっている。

「だから迷う心配など、私の手をしっかりと繋いでいればする必要はな……どうやら血迷った奴が居るな?」

 話の途中で、シェルフィルさんは開いている右手で腰からゆっくりとロングソードを抜く。自分は右手がふさがっているので、弓も使えないし惑も使えない。周囲は見えないが森の中に居るの意は間違いないので、可燃性のある強化オイルもまずい。そう考えて妖精の黒本を左手で取り出す。サポートに徹すればいいだろう。だがそんな自分の行動に気がついたのか、シェルフィルさんが声をかけてきた。

「大丈夫だ、こんな奴らに貴殿の力を使う必要はない。見ていればわかる」

 ふむ、サポートに徹するつもりだったが……確かに普段とは違う現象が起きればかえって邪魔になるかもしれないな。ならばここは大人しく様子を見てみよう。片手で剣を抜いたまま中断に構えていたシェルフィルさんだったが、突如ぶんぶんと数回ほど素振りをするかのように剣を振り回した。が、その直後にどさりという音と共に白い塊が落ちてきた。

「──なんだこれ?」

 正直な感想がつい口から洩れてしまったが、そうとしか言いようがない。何せ真っ白な塊としか表現のしようがない。スライムでもなさそうだし、岩でもなさそうだし……落ちてきたその塊は、数秒もするとまるで粉が舞うようにフワッと霧散した。倒した、という事か?

「私達もよくは分からんが、あれがこの霧に乗じて襲ってくる魔物だな。しかし珍しい事もあるものだ……こんな早くに襲ってくるなど、普段ははまずないのだが。だが単体でいた所を見ると、群れから爪弾きにされた個体が破れかぶれになって襲い掛かってきたと言った所か? まあいい、あの程度はどうとでもなるからな」

 ロングソードを鞘に納めながらシェルフィルさんの説明が終わる。それにしても確かにシェルフィルさんの言う通り、自分が手を出す必要はなかった……というより、シェルフィルさんが切り落とす? まで自分は先程の塊を認識できなかった。この霧を抜けるまで、大人しくシェルフィルさんのお世話になるのが一番間違いないようである。

 そしてさらに霧の中を歩く事十数分後。自分とシェルフィルさんは霧を抜けた。その抜けた先には、ブルーカラーの面々とケンタウロスの皆さんが居た。どうやら無事に合流できたようであり、これで一安心と言った所だな。
************************************************
背中に乗せて貰えばいいんじゃね? というご意見もあるかと思いますが……
乗せない理由は後ほど。
しおりを挟む

処理中です...