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ハーピー達の家 その2

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 和やかな食事もそろそろ料理の残りからお終いになろうかという頃、ハーピーのお母さんがおもむろに立ち上がった。

「人族の冒険者の皆様、改めてお礼を申し上げます。そしてわざわざなぜここまで来て頂いたのかという理由でありますが……子供達が完全に落ち着きを取り戻し、街に居る獣人の皆様にも今回の急なお願いを快く聞いていただいたお礼を申し上げるべきであると考え、子供達に留守番を頼んで街に出たときの話がきっかけとなります」

 そしてハーピーのお母さんの口から、自分やブルーカラーのメンバーが大量の肉を与え射ていた事。その肉の確保のためにかなりのペースでバッファローを狩るという危険な目に合わせていた事。

 さらには自分の子供達に積極的に接して、子供達の寂しさを紛らわせていた事などが南街に住む獣人さん達との会話から判明。それだけの事をしてもらっていて、金の卵だけではとてもお礼をしたとはいえない……と、ハーピーのお母さんは考えたらしい。

「皆様がその身を危険にさらし、バッファローの良質なお肉を子供達に与えてくれたおかげで、子供達はこうして大きく立派に育ちました。今後子供達は、ハーピーの中でも強い存在になっていくでしょう。親として、子がこのように立派に育つのは何よりの喜び。

 そしてそんな道を開いてくれた皆さまには感謝の念が堪えません。しかし、私達は金貨の様な皆様の使う物を持ちません。ですので、私達にできる事として出せる中では最上の料理を召し上がっていただきたく、本日はお越しいただきました」

 そういう事か。だからわざわざここまで来させたわけか。でもなぁ、ハーピーの子供達に対してはブルーカラーの女性陣がメロメロになって一方的に可愛がってただけのような気もする。同行している妖精達がへそを曲げる状態だったんだからよっぽどの事だったんし。今はツヴァイ達に同行している妖精達にそんな空気はないけどね。

「ケンタウロスの皆様にも感謝を。皆様のご協力のお蔭で恩人である皆様をこうしてわが家に招くことが出来ました」

 そうしてハーピーのお母さんと、いつの前にかお母さんの近くに集まっていたハーピーの子供達も一斉に頭を下げた。

「なに、そう気にすることは無い。困った時は助け合う仲ではないか。こちらもこのような素晴らしい食事を振舞ってもらい、感謝している」

 そう発言したのはケンタウロスのフラッドさん。続いてツヴァイも口を開く。

「そうそう、フラッドの言う通りこんないい食事をさせてもらったんだから十分だぜ。それに、ハーピーの子供達には、かえって謝らないと不味いかとも思ってたしな……何せうちのメンバーの女性陣があまりにも可愛がり過ぎて、かえって迷惑をかけてたんじゃないかって不安だったしなぁ……」

 横目でちらりとギルドメンバーの女性陣を見るツヴァイ。そしてそんなツヴァイから一斉に目をそらす女性陣。例外はミリーで、彼女だけはいつものにこにこ顔という名のポーカーフェイスを崩さない。何考えているか分かりにくいとこがあるんだよなー……VRなので、表情の変化もそれなりに表現……どころか、少々オーバー気味に表現されるときすらあるというのに。

「おねーちゃん達と一緒に過ごすのは楽しかったよー! ねえねえ、食事も終わったしこれからあそぼーよー?」

 と、そんな時にハーピーの子供達の一人がそんな言葉を発した。その時に自分は見てしまった。女性陣の目の色が変わったのを。そして妖精達が『はぁ……』とため息をついたのも。ある意味自分のマスターに対して諦めたらしいな……その妖精達の姿に、なんとなく気苦労をお酒で紛らわす上司を思い出す。

「まったく、体は大きくなってもまだまだ子供ですね……申し訳ございません、よろしければ少々お付き合いいただいてもよろしいでしょうか?」

 ハーピーのお母さんの言葉に、女性陣は「「「「問題ありません!」」」」と即答し、ハーピーの子供達と外に出て行く。彼女たちの妖精はお昼寝モードに突入することにしたようで、すぅすぅと寝息を立て始めた。って、ちょっとまずいかもしれない。

「あの、申し訳ありません。もう少ししたらここを立ち去らないと街に帰る途中で空が暗くなってきてしまいますが……」

 自分がちらりとワンモア世界の時計を確認したところ、あと四十分もすれば日が落ちる事に気がついた。帰るのにもそれなりの時間が必要だし、夜の森を歩くのはちょっと勘弁してほしい。いくら《百里眼》で色々と視界に関するペナルティーが軽減されているとはいえ、ここに来る時に通過した森のように通用しない場所もある。だからこそ明るいうちに街に戻りたい所だが……。

「あ、これは申し訳ございません。お話が完全には伝わっていなかったようですね。よろしければ私共の家で休んでいってくださっても構いません。近くに修練を積める森もありますし、しばらくここを根城にして頂いても私どもは全く問題ありません」

 あれま、そうだったのか。ここに泊めてもらえるというのであれば慌てて街に戻る必要はないか。でもツヴァイ、こういう事は言っておいてほしかったという意思を乗せて視線を向けると……ツヴァイも「わりい、言い忘れてた」という感じで申し訳なさそうにしながら片手でこちらを拝むような手の動きをして来たので、これ以上の追及はしないことにした。やらなきゃいけない急用も無い事だし。

「で、アースさんに提案があります。せっかくですからここの近くにある隠しダンジョンに行きませんか? ケンタウロスの皆さんもそこで鍛錬を積む事が多いようですし、アースさんにとってもいい経験になると思います。如何でしょうか?」

 カザミネの言葉を聞いて、それも良いかもしれないと考える。ここ最近は痛風の洞窟でぼっこぼこにされる日々を送っていたから色々と溜まっている物がある。もちろんいい訓練になっていたから、アーツの習得だけではなく基本的な攻撃方法も鋭さを増していると思う。ここで試してみると言うのも良いかもしれない。

「そうだ……な。久々にブルーカラーのメンバーと共闘してみるのも面白いかな。それにケンタウロスの方と一緒に戦うのも久しぶりだし、その提案に乗る事にしよう」

 妖精国にあったダンジョン以来かな。そういやあの時のケンタウロスの兄妹は元気にしてるだろうか? そして食欲の増したミミック姉妹も上手くやっているかな?

(ああ、あそこかしら。あのちょっと躾のなっていない骨をお仕置きしたわね)

 ──指輪の分身体からそんな念話が聞こえてきた。思い出させるなよ……リッチが首を掴まれてびったんびったんさせられている姿は見れたもんじゃなかったんだから。あの日を境に変な称号まで追加されたし……この〈呪具の恋人〉を称号一覧から消し去りたいんだがなぁ。

(それをけそうとするなんてとんでもない!)

 さらに指輪からそんな念話が聞こえてきたので、指輪を右手中指でぺしっと叩いておいた。その直後に(愛が痛いわー!)とか聞こえてきたがスルーする。一々相手をしていたら日が暮れて次の日が昇ってくる位の時間が必要になってしまう。さすがにそこまでの時間はコイツ相手に費やせない。

 そんな指輪とのやり取りが終わると、食事もお開きだ。まあすでにハーピーの子供達とミリーを除いたブルーカラーの女性陣はこの場に居ないんだけど。後片づけは自分とブルーカラーの男性陣面子が協力した。と言っても皿を運んだりテーブルを拭いてきれいにした程度であったが。そしてそんな片付けが終わった所で、今度はシェルフィルさんに声を掛けられた。

「少々よいだろうか? しばらくの間貴殿たちは少し先にある魔物どもの巣窟にて修練を行うそうだが、そこに私も同行させていただいてもよいだろうか? 私はケンタウロスの中ではまだまだ若輩者で、経験を少しでも積みたいのだ。それに、時には同族ではない人々と協力して事に当たることも大事だという事を、以前の獣人達の東街に襲い掛かったバッファロー達との戦いで感じている。無理強いはできないが、どうだろうか?」

 ふむ、断る理由は特にないか。ケンタウロスの皆さんの戦闘力は折り紙付きだし、シェルフィルさんは若輩者などと言っているが、純粋な戦闘力では自分よりはるかに強いはずだ。あくまで自分のは手数足数に加えて道具に小細工といった、真っ向勝負とは別の場所に強さを求めている。

「解りました。では、次の狩りでは共に行きましょう」

 シェルフィルさんとの話を終えた後は、貸してもらった部屋でログアウトした。ちなみにその部屋は部屋自体も家具も色々とでっかいので、少々気おくれしてしまった。
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おっさん5巻出荷日は3月24日の予定です。
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